ヴェガの剣

 それは、青い宝石の嵌った長剣。

 OVA「神姫伝承ヴェガ」における主人公の持つ、伝説の剣。

 強大な魔力を秘める、魔人デルグライファを退けた光の剣。

 アルフレッドが神の空間で最初に見た少女の持っていた剣。

 その剣に、光が集う。


「う、おおおおおおおおおおおおおおおお!」


 アルフレッドの振るうヴェガの剣が、闇を切り裂いて。

 その向こうに、呆然とした表情のデルグライファ・ラボスの姿があった。


「……馬鹿な。それは、ヴェガの剣」


 その呆然とした表情を引き締め、デルグライファ・ラボスはアルフレッドとの距離を詰め斬りかかる。

 だが、単純な剣術では二人とも優劣つけ難い。

 白い光を纏う剣と黒い闇を纏う剣がぶつかり合い、やがて強い音を立てて鍔迫り合いになる。


「何故だ……何故貴様がその剣を持っている! それはヴェガのみが持てる剣のはず!」

「願いと共に託された……お前こそ、何故この剣を知っている! これを知っているということは、まさかお前は!」


 デルグライファ・ラボスとアルフレッドは同時に背後へと跳ぶ。

 強い怒りにも似た表情を浮かべたラボスを、アルフレッドは睨む。

 この剣は、あの空間に集った英雄達から預かった力の一つ。

 それを知っているということは、このデルグライファは。


「この世界の者ではないな……デルグライファ!」

「託されただと……? だがヴェガは代々、異世界の女のはず。しかしお前はその剣を扱えているように見える……」


 アルフレッドの問いにデルグライファ・ラボスは答えない。

 アルフレッドの言葉の真偽を確かめるようにその瞳を覗き込み……やがて、ゆらりと剣を構え直す。


「……いいだろう。お前が今代のヴェガだというのであれば、その力……試してやろう!」


 そしてデルグライファ・ラボスの剣に集う闇がその色を再び濃くしていく。

 先程よりも黒く、先程よりも暗く。より禍々しく。

 先程の攻撃など比にならない力の込められた攻撃を前に、アルフレッドもまたヴェガの剣を構える。


「闇よ集え」

「光よ集え」


 ヴェガの剣に、光が集う。

 先程よりも白く、先程よりも眩く。より神々しく。

 二つの剣は轟音と共に力を増し、周囲の風が逆巻いていく。

 二つの力は同時に頂点に達し……一瞬の違いすらもなく、振りかぶられる。


「光を呑み、世界に闇を……! ラ・ダルクレク・レナーガ!」

「闇を裂き、世界に光を……! ラ・アウラール・レナーガ!」


 巨大な闇と光が、ぶつかり合う。

 互いに譲らず、喰らいあい……しかし拮抗していたかに見えた力は、光が闇を呑み込み始めた事で一気に逆転する。


「う、おおおおおおおお!?」


 デルグライファ・ラボスの姿が光に呑まれ、輝く光の奔流の中に消えていく。

 町の一角をも消し飛ばした光の消えた先にはデルグライファ・ラボスの姿は残っておらず……アルフレッドは、静かに息を吐く。


 デルグライファ。このヴェガの剣を知っていた化物。

 そして恐らくは……ヴェガの剣の本当の持ち主と、同じ世界から来たモノ。

 ならば、この世界は女神ノーザンクの懸念通り、何者かの干渉を受けている。

 それに他世界から来た化物がデルグライファ一人である保証など、何処にもないのだ。

 女神ノーザンクにこの事を伝えたいとも思うが、あるいは彼女はこの事を知っていてアルフレッドを送り込んだのかもしれない。

 ならば自分に出来ることは……と。そう考えながら、飛んできた石をアルフレッドはヒョイと避ける。


「避けてんじゃないわよ、このドアホ!」

「……いきなり何を」


 言いかけて、アルフレッドは半分以上崩れた大熊の髭亭に気付く。

 石を投げてきたヒルダと一緒にビオレや店主の姿も開いた入口のドアの前にあり、三人とも無事であったことが分かる。

 勿論、直接大熊の髭亭に当てては居ないはずだが……先程の余波で崩れてしまったのだろう。

 まるで大災害の後のような有様であった。

 思わず顔を真っ青にしたアルフレッドはビオレに駆け寄り、その肩を掴む。


「すまない……怪我はなかったか!?」

「へ!? は、はい! 地下に避難用の部屋があってですね……!」

「あたしの心配はどうした!」


 ガシガシと蹴ってくるヒルダへ振り向くと、アルフレッドはその手を握手するように握る。


「有難う。君の判断が彼女を助けただろうことは想像に難くない。店主殿もすまないな……壊すつもりではなかったんだが」

「え? いや、そりゃああたしだって人死には嫌だし?」

「……まあ、気にすんな。あんな化物が町に紛れ込んでたっつーのは驚きだしよ。ありゃしょうがねえ」


 アルフレッドが居なければ、あんな化物を倒すのにどれ程の犠牲が出た事か。

 それが分かっているだけに、店主の男はそう言って頭を乱暴に掻く。


「……そんな事より、だ。もし宿を壊したのを悪く思ってるなら聞いておきてえ」

「俺に答えられる事であれば」


 アッサリとそう答えるアルフレッドに「そうかい」と苦笑すると、店主の男は真面目な表情を作り直す。


「……最近、聖レリック教国で勇者召喚とかいう胡乱な儀式が行われてたらしいが……まさかお前さん、それで呼ばれた勇者ってやつだったりするか?」

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