猫とファントムじいさん
百里基地にある、
そこまではいつもの光景で、他にも外に出す機体があるからと、キャノピーを開けたまま、俺たちが乗るじいさんをしばらく放置していたわけだが。
『今日もいい天気じゃのう♪』
いつものように、じいさんの声が聞こえてくる。
百里基地に戻って来てから始まった、時々聞こえるじいさんの声。一方的ではあるが、それでもじいさんたちはいつも楽しそうに話をしているのだ。
俺たちが飛んでいようが、ハンガー内に駐機していようがだ。
特に駐機している間が煩い。その日あったことや過去にあったこと、パイロットの話など、聞こえている人間からすれば「そんな話をしていいのかよ⁉」なものがあったりするのだ。
だからこそ、たまに頭を抱え、項垂れているパイロットもいるのがなんとも……。
それはともかく。
明日は航空祭で、今日は予行だ。
じいさんに無理をさせることはできないが、それでもできる範囲内で、俺たちが空で展示飛行をすることになっている。しかも、特別にデザインされたスペマ機で、だ。
じいさんも気に入っているらしく、このスペマにしてからは、常にご機嫌だった。
そんなじいさんではあるが、いざ飛行しようと飛ぶ前の点検に入った時だった。
『かわええ猫じゃのう』
じいさんがポツリと、そんなことを言った。
「は? 猫?」
俺の呟きに、整備の人間が顔を上げる。
「ジッタ、猫ってなんだ?」
「いや、じいさんがかわええ猫だって言ったから」
「え……」
もし本当に猫がいるとなると、大問題だ。俺と整備の人間数人であちこち探したところ、ちゃっかりコックピットの座席に寝転んでいた猫を見つけた。
シートが黒いことと日当たりが抜群な場所なだけに、猫にとっては温かいに違いない。そんな場所で、灰色と黒の縞模様――サバトラといったか? その猫は腹を上にした状態のへそ天で寝ていたのだ。
……立派なモノがついてるから、雄猫だろう。
「「おいおいおい」」
『かわええのう、かわええのう~』
「可愛いじゃないぞ、じいさん! 機械に毛が入ったらどうする!」
じいさんが言う通り確かに可愛いが、俺たちにとっては大慌てだ。
キャノピーが開いていたとはいえ、どうやってコックピットに上がったのか知らんが、このまま空へ上がったら機体も猫も大変なことになる。すぐに猫を抱き上げると下へ降り、寄って来た整備員に猫を託した。
『ああ~! 猫ちゃんが~! 儂が愛でておったのにぃ~!』
「愛でてじゃねえよ! これから空に行くんだぞ!」
『猫ちゃあん……』
猫を出したことで、しくしくと泣き始めたじいさん。つうか、あの猫はいったいどっから来たんだ?
人騒がせな猫だと溜息をつくと、「にゃあん!」と鳴いている猫を見送ったのだった。
私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている 饕餮 @glifindole
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