一人と一人と道具屋の日常

朝凪 凜

第1話

 少年は孤児だった。物心ついたときには既に親代りがいて、道具屋の手伝いをしていた。

 しかし、半年ほど前に親代りが死んでしまい、その少年が店を続けることとなった。

 まだまだ若く、幼さの残った顔立ちだが、一人前の道具屋の主人となるべく日々を過ごしている。


 この世界は少年一人でやっていける程、楽な世界ではなくなってしまった。そもそも寿命尽きるまで世界が残っているかも分からない。それほどまでに人類は衰退してしまっている。

 街の外は野良化した凶暴な動物やモンスターが蔓延っている。そのため、普通の人は外に出ることすら出来ない。しかし、少年は外に行かざるを得なかった。道具屋は道具を仕入れなければ売る物が何もないからだ。道具の素材は街の外の洞窟や森林から入手をする必要がある。

「今日は頼むよ!」

 少年も例外ではない。一人で出られない場合は、冒険者や探窟家に依頼して護衛をしてもらうのだ。

「おうよ! バッタ、バッタと薙ぎ倒してやらあ」

 青年はいつも護衛を依頼している中の一人で、既に顔見知りだ。

「今日は森の方に行きたいんだけど、良いかい?」

 必要な素材は幾つかあるが、植物のストックが心許無い。

「どこでもいいぜ」

 青年は二つ返事で快諾した。

 準備は既に整っているので、すぐに出発する。昼前には到着できるだろう。


 目的地までは何事もなくやって来ることが出来た。しかし問題はここからだ。どこから襲われるか分からないので、気を引き締め直さなければならない。

「じゃあ入るから足音は極力抑えてな」

 青年が先に行き、少年がすぐ後を邪魔にならないように静かに歩く。歩きながら周りを見渡し、素材がないかを探索する。

「探し物だけじゃなくて、危険がありそうだったらちゃんと教えてくれよ。俺だって後ろに目は無いんだ」

 いつも素材探しに夢中になり、敵の感知が遅れるので先に釘を刺しておく。言った本人も聞いちゃいないだろうと思っているのだが。

 少年は歩きながらも木の傍にある植物の葉やら実やら根やらを見つけては静かにとって籠に入れる。その間にも青年の方はというと膝丈ほどの猫科の動物が間欠的に襲ってきては振り払っていく。

 しばらく歩いていると、少年の身長ほどもある大きさの鳥が横たわっている。何かに使えるかと寄ってみると既に頭は無く、翼は根元からなく、がれたというより綺麗に刈り取られた跡がある。この大きさでこの傷跡ということはかなり大きな動物がいることになる。

 少年はすぐに籠から紐のようなものを取り出し、また、葉っぱでくるんだ植物の茎をつなぎ合わせていく。この植物は茎に大きな棘が付いており、一度刺さると返しによって簡単に抜けなくなるのだ。これを簡単に引きちぎることの出来ない紐を使って周りに巻きながら木と木の間に張り巡らせておく。罠を張っておくためだ。

「ここに罠を張るから、何か追いかけてきたらここを通って。低いところは罠が無いから通れるっしょ」

 少年が気さくに話しかけ、罠を作っていく。

「奥の方でなんか動きが見えたから、もしかしたらその鳥をやったのかもしれないな。この剣で一刀できりゃいいんだが、力の差は埋められなさそうだ。うまく誘導して罠に嵌めるよう頑張ってみるわ」

 そう言い残して先に進んで行く。

 少年は逃げ足は早いのだが、籠を持っていることもあり、そこから後退して草葉の影に隠れる。隠れる間にもそこらへんの植物を採っては投げ入れる。


 しばらくもしないうちに青年が大熊を引き連れ戻ってきた。これは剣では歯が立たなそうだ。四足歩行でたまに腕から振り下ろされる爪を剣で受け流し——まともに受けたら剣が飛ぶか腕が飛ぶかするだろう——這々の態で罠までやってきてスライディングの要領でまさに滑り込む。後から来た大熊はその紐に飛び込み、怯む。目に棘が入ったのか、紐に絡まっているのかは判断つかないが、その間に剣で手足を切り離す。思ったほどすんなりとうまくいき、絶命したところで体の皮を剥ぎ、これも籠に入れる。

「もうこれ以上入らないから今日はこんなところで。疲れたしな」

「疲れたのは俺だけどな。足場の悪い森で追いかけっことかやりたくねぇ」

 まあまあ、と宥めながらその日は帰り、道具屋の開店準備を始める。


「さて、とりあえず毛皮は使えそうだし、多少値は釣り上げておくか」

 目玉商品として大熊の毛皮を置いて開店準備が出来、店を開ける。

 が、いくらたっても売れないどころか人がすぐ出て行ってしまう。

 不思議に思って外に出て話を聞いたら

「だって、すげぇ獣くさいっていうか生臭いんだもん。入れねぇよ」

 少年は慣れていたので知らなかったが、臭いがひどくこの日は全く物が売れなかった。毛皮は翌日捨て値で外に置いたらすぐ売れてしまった。また一つ学んだ。

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