第5話 親友が暴露し過ぎてヤバい!

 シロがマリアの喉元を食いちぎろうと飛んだ瞬間、ほぼタイムラグなしでマリアの元へと到達し、そしてシロは意識を失った状態で俺の横まで転がってきた。

 一体あの一瞬で何が起こったのか。

 邪神様ことマリアが飽きれた表情でパチンッと指を鳴らし、俺の周りの氷を解除する。


「一応約束ですし? 非常に不本意ですけど氷は解除してあげましたわ。」


「ありがとうございます。マリア様」


 ははぁと膝をつき臣下の礼。


「先程胸を触ろうとした殿方からの臣下の礼など気持ち悪さしかありません。胸を触ろうとした臣下ということで断頭して欲しいのです?」


「冗談ですごめんなさいマリア様どうかご慈悲を」


 この邪神、まじで殺しかねない。


「いいですわ、慈悲を与えましょう。ついでに呼び捨てで構いませんわ。」


「俺もレイフォードは言いにくいだろうしレイでいいよ。ところでそこで伸びているシロは大丈夫なのか?」


「流石に咄嗟でしたので完璧にいなすことは不可能でしたわ。一応後遺症が残らないように衝撃は減らしましたけど結果はこの通りですわ。まだまだですわね。」


 一体何を言っているのか。

 シロのマリアへの攻撃は恐らく音速を軽く超えていた。しかも俺を見ていたため彼女は余所見をした状態で防ぎ切っていた。

 しかもその上でシロの体を気遣う余裕があるとは一体どれほどたるや。ひぇぇ~


「レイ様はこの女の子とどういう関係なのです? とんでもない殺気を受けたのですけど」


「滅茶苦茶仲のいいクラスメイトかな?」


「なんで疑問形なんですの」


 いやぁ正直鵜呑みにしないでくれとしか思ってなかったのにここまで本気で怒って、自爆特攻してくれるなんて思ってなかった。もう親友と言ってもいい気がする。

 というか流石に女の子を凍った床に寝させたままって言うのもまずいな。


「おいシロ~、起きろ~」


 座って彼女の柔らかいほっぺを指でぷにぷに。


「ん……んぅ……」


 童顔な彼女がつつかれてこそばゆくしているのが見ていて癒されるのがあるが、流石にこれ以上は変態と思われかねない。非常に、ひじょーに遺憾ではあるが今はマリアがいる。今度こっそりぷにぷにさせてもらおう。

 さてシロよ、起きなさい。


 彼女の耳元にふっと息をかける。

≪獣人族≫は耳元が敏感なので、簡単に起きたり。


「……きゃうんっ」


 かわいらしい声を上げて目を覚ました彼女の瞳に映る俺の顔、相変わらず冴えない顔だなぁと思いつつも


「おはようシロ」


 軽く挨拶。


 起きてすぐだった為か目をぱちぱちさせて混乱していた彼女だったが、少しすると潤んだ瞳になって子供のような小さな手で俺の制服をぎゅっと掴み、全力で抱き着いてきた。


「レイさぁん、レイさぁん、レイさんが死んだらわたし、わたし」


「お、おう。大丈夫だぞ?俺はここにるぞ?だから泣くなって」


 そ、そんなに俺を考えてくれているなんて……いい子過ぎて感動してきた。


「レイは愛されているな」


 妖精ちゃんの言うとおりだなぁとしみじみとシロのぬくもりを噛み締めていたらふと思ったことがあった。


「おいマリア、この惨状どうするの」


 あたりを見回せば壁際に吹き飛んだ椅子と机、そして辺り一面氷になった世界。

 これ他の子に見られたら流石にまずいでしょ


「原因は貴方でしょうに、はぁ……何というか今日はまだ学院が始まってないことが不思議なくらいの密度ですわ」


「あぁ……まだ始まってすらいないんだったな。もう寮に帰っていいかな」


 妖精ちゃんからそうしたらクラスに溶け込めなくなってボッチコースだなと言われ帰る選択肢は涙の消去。


「取りあえず氷を消してくれないか? 机運びは俺がやるから」


 シロにも手伝ってもらえないかなぁとちらっと見ると、うーん?うーん?とひたすら顎に手を当ててひたすら唸っていた。


「どうしたシロ?」


「何というか聞いてる限りだと暗殺したされたのような雰囲気じゃないのでもしかしたら私の早とちりだったのかなぁと」


 おっとシロちゃんもしかしてだけどマリアの話を聞いていなかったのか?

 よくよく思い出してみるとマリアが説明した瞬間に飛んでたしこれは隠し通せるのでは?


「わたくしの胸をレイ様が触ろうとしたのですわ」


 マ、マリアああああああああああ

 こいつ言いやがった! この鬼!魔王!邪神!


「そんなに睨まないで下さいまし。自業自得ですわ」


 し、シロどうかこんな俺を失望しないでくれ!

 新しいクラスで仲の良かったお前が離れると心細いんだ!


 縋りつくような視線でシロのほうを見るとシロは腕を制服を握りしめていた手をプルプルと振るわせていた。

 や、やはりダメだっ──「ずるいです!私はお尻しか触られたことないのに!」──た……何暴露しちゃってんのこの子!?


 実は前期のある放課後、胡坐をかいていた俺の上にシロが座ってきてそのまま寝たことがあったのだが、その時つい出来心で触ったことがあった。まさか寝たふりだったとは……


「えっレイ様、ちょっとこれからの訓練が不安になってきたんですけど……」


 本気でドン引いてるマリア、妖精ちゃんも肩から飛びたって心なしか距離を開けてらっしゃる。


 あっヤバい本気でこれダメな奴だ。

 シロも口にちっちゃな両手を当ててやっちゃったって顔してらっしゃる。

 心の優しいシロのことだ、俺の立場がまずくなる発言ぼうろをしたことで心を重くする可能性がある。原因は俺にあるのだ、まずはシロをフォローせねば


「大丈夫だぞシロ、(こんな事があっても)俺はお前が(友達として)好きだぞ」


 するとシロは手を口に当てたままなのだが、その顔は先程とは打って変わって信じられないことが起きたかのような喜びの表情。

 緩んだ頬に瞼から落ちた水滴が零れ落ちた。


 お、おう?そんなに俺と友達で居続けるのが嬉しいのか?


「レイさん、私もレイさんのことが大好きです!」


 目を細めて気づいているのか喜びの余り口元をふやけさせたその笑顔は今まで見た中で最高の笑顔で


「シロ!」


 つい感極まって抱き着いてしまった。

 彼女の柔らかい肌の感触と彼女の暖かさに甘い香り。ぎゅうっとしていると耳元で


「れ、れいさん……苦しいです……」


 おぉ親友しろよ申し訳ない。つい嬉しすぎて……ん? 苦しい?


 俺たち≪ヒト族≫というのは≪獣人族≫に比べて圧倒的に筋肉などが弱い。つまり身体強化でもしていなければ全力で抱き着こうが苦しいなど思うはずがないのだ。

 割と本当に苦しそうなので残念だがハグは解く。


「あ、気づいておりませんでしたのね。魔力球を飲んだ時点で血管への魔力が常に1000になりますわよ?」


 身体強化魔法とは血管に魔力を通すことにより自動的に身体が上がる。魔法なんてつけてはいるが魔法陣も何も使わないぶっちゃけ身体強化だけでいいような仕組みだったりする。

 つまり身体強化魔法が常時発動した状態になるってことだ。


 ふと目の前を見るとシロが何の話をしているんだろうとぽけーっとしていたので、朝の出来事を説明。




「──なるほどです! つまりレイさんに全力で抱き着いていいってことですね!」


 今までにないほど目を輝かせたシロがそこにいた。

 ──その発想は無かった。そうか今までシロは≪ヒト族≫の俺を案じて全力では抱き着けなかったのか。


 ……まぁ取りあえずシロのカバーは出来ただろう。

 マリアと妖精ちゃんからの好感度がだだ下がりな気もするが、自業自得と考えてこれからの行動で取り返して行くしかあるまい……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法学院で主席目指しましたけど、主席の女の子が強すぎてヤバいです。 小坂井 美朱 @town826

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ