第3話 マリア様の授業が未知数すぎてヤバい!

 「さて早速で悪いのですれども、このまま魔力量を計らせてもらいますわ」


 非常に遺憾ではあるのだが、ついつい勝たなければならない赤髪のツインテール少女 マリア=ルシフェルに見とれてしまっていた俺はその言葉で我に返る。


 魔力量――それは人が保有している魔力の量であり、身体強化や魔法行使に必須になってくる魔力の保有量を現したその数値は戦闘の指標においてもかなりのウェイトを占める。


 この魔力量は魔力計測器と呼ばれる水晶のような装置に手をかざすことで計ることができ、魔力計測器はこの本棟の1階、職員室に置いてあるため


「今から職員室に行くのか?」


 と聞きながら握っていた手をほどこうとする。


「あ、別にここでもできますから大丈夫ですわよ。あ、手は握ったままにしてくださいまし、計測中ですので」


 平然とした表情で言われる。魔力を測定する魔法なんざ聞いたこともないが、もう驚きはせんぞこの魔王め

 ただちょっと気になったことがあったので聞いてみる。


「職員室に行けばいいのに何で魔力を計る魔法なんて作ってるんだ? 流石に職員室まで行くのが面倒くさいとかでもないんだろ?」


「わたくしの魔力量が多すぎて魔力計測器が壊れてしまいますの」


 前言撤回、一体何を言ってるんだこの魔王は

 魔力計測器が壊れるとか聞いたこともないぞ?それどころか上限があるのすら初耳だ。

 余りのバカげたスケールに言葉を失っていると魔力測定が終わったのか彼女の口が開く。


「――魔力量473、分かってはいましたけど想像以上に少ないですわね。というかよくこれでこの学院の入学資格を得たと言いますか」


「その話でも聞くか?色々恨み買いまくったぞ」


≪ヒト族≫の平均魔力量はおおよそ500、この学院に入学した≪ヒト族≫はその中でもエリートの集まりなので、恐らく平均して1500ほど。解釈目で見ても明らかに俺の数値は低い。

 戦闘の指標である魔力量が少ないというのはそれだけで立場が悪くなる。

 この学院の入学資格を得るために色々苦労したり、敵を作ったものだ。


「なかなか面白そうな話ですけど、それはまた今度にでも取っておきましょう。さてそれではこれから1週間の計画を話しますわ」


 握っていた手をほどき、前の席に座ると、椅子ごとこちらへと向く。

 さてさてこのトンデモ魔王ちゃんからどんなトンデモ計画が飛び出してくるのか

 少しわくわくしながら俺も席へと座る。


「ではこの1週間の予定ですけど、まずレイフォード様の魔力量を1000くらいまで増やしましょうか」


 やっぱりこの魔王とんでもないことを言い始めた。

 魔力量というのは成長と共に増加していき、一度止まればそれ以降は増えることがないと言われている。一応、止まる時期は人それぞれな為、学院にも測定装置は置いてあるのだが、俺の成長は既に止まっている。認めたくはない事実だが、俺もそう思っている。


 なにせ魔力量を増やすことが出来れば入学枠だって簡単に取れた上に、そうならないかと妖精ちゃんと試行錯誤したりもした。

 そんな常識を真っ先に壊し始める。流石魔王様だ。


「あら、意外と何も言いませんのね」


「お願いしてるのはこっちだからな。とはいえどうやってやるんだ?」


「では、手のひらをご覧くださいまし」


 俺の机の上にしなやかな手を置くと同時、手のひらは淡い赤みがかった光を発し始める。徐々にそれは霧のように可視化できるようになり、手のひらの中心部へと集まってゆく。

 少しして出来上がったのは直系1㎝ほどのガラス細工のように透き通った紅玉。飴玉のようなそれは恐らく魔力を圧縮することによって完成したのだろうことが伺える。


「魔力とは、血管に行きわたらせ、全身へと張り巡らせることでその人物の肉体に力を与える。

 この際、魔力操作技術が拙ければ拙いほど血管から出てくる魔力は増え、当然ながら魔力消費量も増えてゆく。

 ここまではよろしいですわね?」


 俺は神妙に無言でうなずく。

 普段の魔力循環訓練の最大の恩恵は2つあり、そのうちの1つがこれだ。


 力とはその扱う量が増えれば増えるほど精密に操作することが難しくなる傾向にある。

 これは身体強化に回す魔力でも同じであり、多ければ多いほどその魔力を精密に操作することは難しく、その結果、身体強化を上げれば上げるほど魔力を消費し、継戦能力は著しく下がる。


 これが俺になると話は別だ。俺の保有する全魔力473、これをすべて身体強化に回しても1時間で1消費するかどうかといったところだ。結果何が生まれるかというと≪ヒト族≫であるはずの俺が≪獣人族≫並みの素早さで常に縦横無尽に駆け回るという構造が出来上がる。


「さて、ではレイフォード様に質問です。


 考えたこともなかったな。

 僕のイメージだが、魔力を全身に循環させる事は穏やかな川と荒い川のようなイメージだった。

穏やかな川は水飛沫が少ないため流れる水の量は変わらない。

荒い川は水飛沫が多いためその分流れる水の量は減って行く。

そんなイメージだった。

 ふとおぞましい想像をしてしまい、背筋に悪寒が走る。多分だが気のせい……だろう。


「答えは血管を食い破って魔力が噴出するのです。≪魔人族≫が魔法に長けているのもこのあたりが起因しますわ。なんせいくら食い破れようとも再生能力が高すぎて食い破られた瞬間に再生するのですから」


 予想当たっちゃってた、魔力って相応のリスクがあったのか

 ふと肩の妖精ちゃんを確認してみるが特に変わった様子はなく、平然としている。

 ……この反応は知っていたな。むしろそれを知った俺が魔力を使うことに恐怖心を抱かせない為に秘密にしていたと考えるのが順当だろう。そして魔力循環の訓練をさせ、俺の体が魔力によって傷つかないようにさせていたと、実に強かだ。


 教科書に載っていないマリアの話はまだまだ続く。


「話を戻しますわね。本来、血管を食い破ると言ってもそれほどではありません。精々少し気怠く感じる程度、少なくとも死に至ることはあり得ませんわ。

 300年前の大戦中、とある≪魔人族≫の研究者がこのことに目をつけ、ある魔法を開発しましたわ。」


 一呼吸置き、マリアは手のひらにある小さな紅玉を親指と人差し指で挟み、顔の横に持ってきてそれを強調するように俺に見せつける。


「その名も人体破壊魔法。そしてその根本となるのがこの魔力球ですわ。

 この魔力球を相手に取り込ませると血管に魔力球の圧縮していた魔力が解放され、無条件で身体強化魔法を発動した状態になりますわ。その魔力を制御出来ればいいのですが基本的に莫大な魔力を送るため、それは不可能。結果としてその人物は莫大な魔力によって内部から食いちぎられ、運が良ければ全身の血管をズタズタに切り裂かれる程度、最悪破裂ですわ。

≪魔人族≫ですらどちらにせよ死ぬような、わたくしから見ても悪魔の産物にしか見えない魔法ですわ」


 な、なんちゅう話してくれとるんじゃこの魔王様は、とはいえ


「それが魔力量アップと関係があるのか?」


「そんなに焦らないで下さいまし。むしろ話の本題はここからですわ。

 この魔力球を服用しながらも奇跡的に魔力を制御する事が出来た人物がいらっしゃいましたわ。そして、その方は1週間程で魔力制御に対するきつさは無くなったとか。

 さて、再び質問です。

 その方の服用された魔力はどうなったのでしょうか?」


 試すような視線でマリアから黄金色の瞳を向けられる。


 あぁ、そうやって繋がるのか。

 それなら自ずと彼女の言わんとすることも分かってくる。


「その魔力が自身の魔力量に加わると、ってことはその魔力球を飲めばいいのか?」


「大正解ですわ♪ ちなみに魔力量は何と半永久的、ドーピングなどでもございませんので純粋な自分の力といて過言ではありません。

 わたくしも何故魔力量が半永久的に増えるのかは分かっておりませんけど、やります?」


 手を合わせながらまるでまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにテンションを上げていらっしゃる。


 もちろんやらせて頂こう。妖精ちゃんには悪いがもし死んでも自己責任、その時は俺の実力不足なだけだ。


 一応肩の妖精ちゃんに目配せすると、目を瞑ってマシュマロのように白く柔和な肌に指を食い込ませて何も言うまいと必死に耐えていた。

 心配性な上に心の優しい彼女のことだ、俺にもしものことがあればと心配で心配でしょうがないんだろう。しかし、俺が魔力量を渇望しているのも分かっている。だからこそ何も言わないように必死に耐えているんだろう。

 本当に彼女は……


 マリアの顔を見るとその表情は嬉々としていた。これからもしかしたら死ぬかもしれないというのにやはり魔王か


 ……ふぅ、行くか


「やらせてもらう。魔力球をくれ。」


 覚悟を決め、真っ直ぐに真剣な瞳で彼女を見る。


「え、えぇ……、が、頑張って下さいまし……っぷ」


 必死に笑いを堪えながらプルプルしているマリアから魔力球を受け取る。


 ――それにしてもどんだけ面白いんだ。一体俺に何が待っているんだ。怖い、怖すぎる。


 よし、行くぞ。後はなるようになれっ!っだ!


 俺は一気に魔力球を飲み込んだ。







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