第4章ー2 新造”宝船”
お宝屋の3人は、それぞれに出航準備を終え、新造”宝船”の食堂に集まった。
「さて、宝船も新しくなったなぁ。明日には出航できるそうだ。そこで、だ。まず1番重要な事を決めるぞ」
「うんうん、ゴウ兄の重要と考えていること、僕にはわかってるよ」
「翔太? ・・・さすがは我が弟よ」
「新造”宝船”の呼称をどうするかだよね? ”お宝屋形船”ではどうかな?」
それは違うと、あたしは思う。
ゴウにぃが1番重要と言ってる事は違うよ・・・。
兄妹でも、時々翔太の思考についていけないのよね~
「何を言ってるんだ翔太よっ!」
ゴウにぃの援護のために、千沙も口を挟もうとしたが、必要ないようだった。
「宝船だからこそ七福神が乗っているのだ。俺は”宝船改”が良いぞ」
ゴウにぃいいい~~~っ。
そこじゃないのっ!
それに”宝船改”はないよ~。
「船名は”宝船”のままが良いよ~ それより、1番重要な事を決めるのっ!」
「千沙よ。今、1番重要な事は決まった。次に重要なことは、お宝屋としての今後の活動方針だぞ」
違うのに~・・・。
はぁ~。もういいよ、その話で・・・。
「そうそう、どうしようか? 久しぶりの休みだねぇ。トレジャーハンティングでもしながら、僕は七福神ロボの必殺技でも考えようかな」
「ふむ。・・・なるほど、翔太らしい。俺は航海以上に、武装の習熟訓練が必要だと考えている。片手間でトレジャーハンティングしながらでも訓練は可能だ・・・。ならば、俺は構わぬぞ。場所はヒメジャノメ星系としよう」
「良かった良かった。ゴウ兄は僕と同じ考えだよ」
にぃ達は素直じゃないなぁ~。
やっぱりアキトの所に向かうんだぁ。
「惑星ヒメジャノメで、あたしは新しい野外キッチンの使い勝手を確かめたいの~。最新だよ。凄いんだよ。調理した物が、食べても安全か判定してくれるの。これで大蛇のミディアムレアも安心して食べられるよ」
ゴウが徐に口を開く。
「千沙よ・・・それは重要だな。存分に腕を振るうのだ」
「いやいや、ゴウ兄。それは間違っているよ」
「どこがだ?」
「腕を振るうのは、千沙が野外キッチンに慣れてからだよ。何事も訓練が重要なのさ」
「うむ、その通りだな。いざという時、不慣れな所為で敵に遅れをとりたくないな。よし、特訓するぞ」
・・・ゴウにぃ。あたしは戦闘要員じゃないのに・・・。
「いやいや、たとえ遅れたしても、僕なら抜き返せるさ」
「そういう遅れじゃないって、分かってて言ってるよねぇ。それにコムラサキでは、命が危なかったんだよ~。翔太も少しは謙虚になろうよ~」
「まあまあ。それより、新開家がジンと一緒ならば大丈夫だって情報を、どう判断したら良いかなぁ」
「本当に大丈夫なの~」
「雇い主が言ってるのだぞ・・・。うむ、間違ってるかもしれんが・・・」
「何者なのかなー。僕達からすると、正体不明のバケモノにアキトを任せていることになるね」
お宝屋の3人にとって、ジンの存在は不安要素だ。
そして千沙にとって、アキトと一緒にいれる風姫の存在は、不安一杯な要素である。
「新開家は教えてくれないの~?」
「もちろん訊いたが、新開家からの情報リークはできないと言われたのだ。しかし、だ。ならば俺たちで確認すれば良いだけだぞ」
「もちろん僕は、ゴウ兄の意見に賛成さ」
「あたしも賛成するよ~」
「ふっはっはっははーーー。これで活動方針は決まった。お宝屋は、新造”宝船”と新装備の習熟訓練をしながら、ヒメジャノメ星系へとトレジャーハンティングに赴くぞぉおおおおーーー!」
お宝屋は3人一致で、ヒメジャノメ星系へに赴くことを決定したのだ。
アキトはユキヒョウの第2格納庫の隅で、精密マニピュレーターを操作している。カミカゼ水龍カスタムモデルのオリハルコンボードを取り付けているのだ。
さっきまで、オリハルコンボード内のオリハルコン合金板を、シミュレーション結果に基づいて配置し直していた。
シミュレーションの為のデータは、オリハルコン合金板1枚1枚をGE計測器で精密に測定して取得した。
以前は、ボード内のオリハルコン合金板を配置換えしてから、ルーラーリングで反応のチェックをしていた。何度も試行錯誤を繰り返し調整していたのだ。
そもそもオリハルコン合金は、重力元素を精錬し通常物質の金属と混ぜて合金を鍛造する。しかし、重力元素に含まれているミスリルとオリハルコンの比率を一定にすることは、現在の技術では不可能なのだ。
重力元素の量が一定であっても、オリハルコン合金板の感度、性能にバラツキのある理由をアキトは漸く理解できた。
そして原因が解れば、対処方法を考えることも可能である。カミカゼ水龍カスタムモデルを、アキトは己の頭脳と技術力でチューンアップしていたのだ。
そのアキトの元に、第2格納庫の人用の扉の方から声が聴こえる。
「0.1Gに設定されているわ。また、トライアングルを改造しているのかしら?」
トライアングルの重量は機種により様々だが、カミカゼは350kgぐらいある。重力制御でGを軽くして、取り扱いを楽にしているのだ。
「・・・アキトが?」
「そうなのよねぇ。何が楽しいのか、私には全然理解できないわ」
風姫の凛とした耳に心地よい声音と、史帆の抑揚の少ない声が聴こえてくる。
「あのトライアングル・・・カミカゼ水龍カスタムモデルを弄りまわしていると思うわ。エレメンツハンターとして、道具の習熟は必要でしょうけど、トライアングルはエレメンツハンティングに必須ではないわ」
ここユキヒョウの第2格納庫は、主にエレメンツハンティングに必要な機体や機器が格納されている。
オレだって、エレメンツハンティングの道具に馴染む為の訓練もしたぜ。だが、今優先すべきは、カミカゼ水龍カスタムモデルの改造なんだ。
それには、正当な理由がある。
得た知識を使って早く改造し、操縦してみたい。気になって訓練に集中できるはずがない。胸を張って断言できるぜ。
ただ口にだして、風姫達に宣言するほど愚か者ではない。
反論の集中砲火に晒され、アキトが大破判定を受けるのは、火を見るよりも明らかだからだ。
「変な改造して、性能が落ちなければいいけど・・・」
惑星”シュテファン”に突入する前にした風姫と彩香の会話の辺りから、史帆の態度は冷たく、ぞんざいだった。それは、風姫達の会話が小芝居だと知った今でも変わらない。
しかし、それはアキトの誤解だった。
史帆の態度は、アキトと出会ったときから変わっていない。そして、アキトの史帆に対する態度も変わっていない。
つまり、お互い様なのである。
「水龍カンパニーのチューニング、難しいのに・・・」
史帆の声から、真剣に心配しているのが判る。
ただ、その心配は、オレに対して・・・ではなく、カミカゼ水龍カスタムモデルに対してなんだろうなぁ・・・。
「おいっ! 聞こえてんぜ」
アキトは顔をあげずに、声をあげた。
「今度は何をしていたのかしら?」
風姫の口調には呆れ成分の他に、興味津々なのが感じられた。
「オリハルコン合金版の配置を見直してたんだよ。オリハルコンボード内のな」
「どうやって?」
史帆が平坦な口調で尋ねてきた。
「GE測定器でオリハルコン合金板に含まれているミスリルとオリハルコンの比率を割り出したのさ。そして最適配置をシミュレーションし、その結果を反映させてたんだ」
悩んでる史帆を横目に、アキトはコネクトを操作して、第2格納庫の制御装置に命令する。
「重力戻すぜ。5分で0.1な?」
1Gに戻す必要はないのだが、トライアングルは無重力下でなく惑星の重力下での使用を前提にしている。もちろんアキトのカミカゼも、惑星で使用するのだ。
「なんで?」
そういえば、たまにいたなぁ・・・。こういうエンジニア。
相手に理解できるように話す気がない。
「何が、だ? 自分の世界だけで完結すんな。他人にも分かるように話せ」
史帆の表情が強張る。
しかし反抗するでもなく、彼女なりに説明しようと考えているようだ。
「カミカゼの機体性能が上がるようには思えない。だから、なんで配置を変更したのか理解できない」
仕方ねぇーなぁ。
話が進まねぇーから、答えてやんぜ。
「機体の性能に頼り切るのは、間違ってるぜ。自分の機体なら、自分に合わせたチューニングをして足りない部分を補うようにしないとな。総合力で勝てるようにするんだ」
GE計測器でミスリルとオリハルコンの配分を調査する手法改造をしている。傍には、道具も改造している。
「素人が弄り回したって、性能が落ちるだけ・・・」
あぁーあ。自分が知ってることは、他人も知っているだろうって前提で話してるぜ・・・。質が悪いことに、自分の常識や経験の範囲内でしか判断できないから、否定してんだな。まず謙虚な態度で、教えを理解しようとしねぇーとな。
史帆の考え方が手に取るように分かるぜ。
何せ経験者だ。オレもそうだったからな。
だけど一つ一つ教えてやんのは面倒だし、実際に結果を見せた方が早いぜ・・・オレの経験上の話だが・・・。
「百聞は一見に如かず、と言うぜ。見てろ」
カミカゼに跨ろうとして飛び上がったところを、力尽くで風姫に止められた。
「おわっ」
それは腕力という意味ではなく、スキルという意味での力尽くであった。風姫は風を操って、アキトを吹き飛ばしたのだ。
「バカッ!」
「人をフッ飛ばしておいて、その台詞はねぇーぜ」
アキトは風姫に向かって怒鳴った。
しかし、彼女は冷静に問い質す。
「トライアングルに乗って、何処に行くつもりかしら?」
「ここじゃチューニングした性能を見せつけられねーだろっ。スターライトルームからでも外を眺めてろよ」
「はぁあああ」
もの凄い溜め息のあと、呆れた口調で風姫は理由を伝える。
さっきと違い、興味は全く含まれていなようだ。
「いいこと。ユキヒョウは今、ワープ中だわっ!」
「おおっ、そうだったぜ」
オリハルコンとミスリル、その他の通常物質からなるワープ用オリハルコンが、ワープには必要となる。
ミスリルが超重力と超エナジーを発生させ、オリハルコンがワープ空間内で船を制御する。
そうしてワープ航法を可能にするのだ。
ワープポイントの入り口で超重力を発生させ、ワープ航路を開く。
ワープ空間へと突入する前に、超エナジーで船体を覆いつくす。
超エナジーで覆われていなければ、船がバラバラになってしまうからだ。
「超エナジーによって自身をエナジーの一部へと還元した後、ワープ空間でバラバラになりたかったのかしら? それなら、吹き飛ばさなかったわ」
知的探求に夢中になり、状況がすっぽりと頭の中から抜けてたようだぜ。
だが、それはオレの所為じゃない。ワープ中にも拘わらず、ユキヒョウの船体が殆ど揺れない。
それが悪いんだ・・・。
いや、ホントは悪くなくイイことなのだ。技術の進歩が、正しく人の為になっている。
ユキヒョウの性能は常軌を逸している。
「吹き飛ばさずに、止められなかったのかよ」
「止められなかったわ」
妖精姫の二つ名に相応しい、可憐で愛らしい笑顔で断言する。
しかし騙されてはいけない。風姫には”ルリタテハの破壊魔”という、もう一つの二つ名がある。
オレは確信をもって断言する。
「ウソだな」
「ウソ?」
疑問形で尋ねた史帆から視線を外すように、風姫はアキトに顔を向ける。
「証明できるかしら?」
コネクトを使えば・・・? いや風姫は、ユキヒョウ船内でコネクトを持ち歩かない。リモートコントロールは不可能・・・か。
悔しいが、確信は持っているが・・・証明できない。
待てよっ、ロイヤルリングがある。
「なぁ、聞いていいか?」
「何かしら?」
誤魔化されないよう慎重に確認する必要がある。
「なんでユキヒョウ船内で、コネクトを持ち歩かないんだ?」
「必要ないからだわ」
やっぱりだぜ。
「ロイヤルリングで、ユキヒョウ船内のコントロールは可能なんだな?」
「そうなの?」
史帆が驚いたように呟いた。
「あら、良く分かったわね」
「・・・凄い」
ここからが核心だ。
さあ、一気にいくぜ。
「格納庫から気密ブロックへの扉もコントロールできるよな? オレより上位権限もってんだろ? それなら扉もロック可能だぜ。そうだよな?」
風姫は含み笑いを美しい顔の下に隠す・・・気もないようだ。
「ああー、なるほど。そーーねーー。できそーーだわぁ。それはぁ、思いつかなかったわぁーー」
あからさまに、台詞が棒読みだった。
唸り声を殺しきれず、少しだけ音を漏らし、アキトは思わず右拳を固めた。
「ぐっ」
殴りてぇー・・・。
ヒメシロランドで絡んできたグリーンユースの連中の気持ちが、今なら理解できる。
ユキヒョウは今、当初の目的地であるヒメジャノメ星系へ向かって、ワープ航路を疾走している最中であった。
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