19日目 女神とお散歩

 今日も教習に来たアナタだったが、また何時もと別の空間だった


「お、勇者候補よ、よく来ました」


 辺りは何処かの部屋の一室だった。 部屋の中心には大きな地図が広げられている


「・・・・」


「今日は何の教習かって? 今回の教習はズバリ! ・・・お散歩です!」


「・・・?」


「お散歩と言っても教習ですからしっかりやってくださいね。まず手始めにこの地図からお散歩コースを決めてください。ここが現在地、ここが目的地の宿屋になります。一階が食堂になってますから着いたらお酒でも飲みましょう。状況の変化により予定のルートが使えなくなる事も考え複数の移動手段を用意してください」


「・・・・・・」


「移動手段と言っても今回使えるのは徒歩ですから、駅馬車の予定とか気にしないで良いですよ。あと定期的に休めそうな場所を探してください。50分歩いて10分休むなど、定期的に休憩を挟めば長時間の移動でも楽に進めます」


「・・・・!?」


「どれくらい歩く気か? 片道3時間程ですが問題でも?」


「・・・!」


「やわですねぇ…、たったの3時間ですよ。ダンジョン直通の駅馬車が通ってる訳でも無し、そんなでは町から出れませんからね、まったく。今日は頑張って歩いてください、どうせ本物の身体使うわけじゃ無いんですから精神疲労で済みます」


「・・・・!」


「ごちゃごちゃ言ってないで! さあ、さっさとお散歩コースを決めてください! ダンジョンに数日かけて移動する事なんて珍しくないんですから、これ位でヘコタレテどうするんです。今回は杖を貸しますからそれを使ってください」


「・・・・・」


 アナタは地図を見ながらコースを決め、女神に提案した


「このコースで良いのですね? では杖を貸すついでです、各小物やベルトとポーチもお貸ししますから身に着けて出かけましょう。ほらベルトに必要な物を通して巻いてみてください」


「・・・・・」


 アナタは装備を整えた


「結構、問題なく装備できたようですね」


「・・・・」


「コスプレみたい? ハハハ、その内慣れますよ。これからも散歩に出る際にはご自分で装備を整えていただきます。いいですね? ではこれを渡しましょう、今回向かう宿で使うお金です。さあベルトに着けてみて」


 アナタは硬貨の入った袋の紐をベルトに巻いた


「ちゃんと取り付け片は覚えてるようですね。では出発しましょう勇者候補よ。今回は私もご一緒しますよ」


 そう言って女神な扉を開けた、アナタは後をついて行き外に出ると人気のない道にいた。後ろを見ると自分達が居たはずの建物は跡形もなく消えている


「・・・・・」


「さあ勇者候補よ、どちらに進みますか? 渡した地図をよく見て判断してください」


 地図を見ると道の形が特徴的なのと、目的地の方角に有る農地の風車が遠くに見えたのでそちらに進みむ事にした


「・・・・・」


「こちらでいいですね? よしよし、では行きましょう」


 アナタは女神と一緒にデコボコした田舎道を、雑談しながら進んだ


「・・・・・」


「杖が邪魔? フフ、疲れてくるとそうは言ってられませんよ。後になって有難さが分かりますよ」


「・・・・」


「コンパスをくれればいいのに? 勇者候補よ、異世界がコンパスが役に立つとは限りません。電気系の魔法やスキルで磁場を操れる物が居る可能性もありますから、コンパスの指す方向を頼りにすればいいという先入観を利用される可能性だってあります。まあ、何かしらの代用品が有るでしょうから探してみてもいいですが。地球の様な丸い惑星ではなく世界の果てが有る平面世界かもしれませんし、夜空に輝く星も純粋な魔力の塊かもしれません。金属に磁力を与えてコンパスを作ったとしても北を指すとは限らないので、注意してください」


「・・・・」


「まず事前に集めた情報や、地図や目印を見て現在地がおかしくないか判断できるようにしましょう。町を歩く時にコンパスなんか見ませんよね? 慣れますよその内。あ、そろそろ休憩ポイントですね、休みましょう」


 そうして、アナタは町の近くまで歩く事が出来たのだが・・・・


「………」


「疲れましたか勇者候補よ? しかしそんな杖のもたれかかっては余計に疲れますよ? ほら背筋を伸ばして! ヘソの下の下腹部に力を入れる! そこに力を入れると上体が少し起き上がりますから、姿勢が乱れた時に使ってください!」


「……ッ・・・ッ」


 町につけば後は旅人らしい風貌の人達の流れを追って、アナタはどうにか目的地の宿屋についた


「・・・ッ・・・ッ」


「もう本当にだらしがないですね。さあ勇者候補よ、水でも飲みましょう。ほら注文して」


 アナタは席に座って、注文を取りに来た店員に水を二つ注文した


「・・・・」


「お茶が来ましたねぇ。何味なんでしょうか?」


「・・・・」


「毒は警戒した方が良いか? じゃあついでに警戒しましょうか。疑いのあるものは口をつけないのが正解なのですが。今回はうざいワイン飲みの真似をしましょう」


「・・・?」


「ハハ、聞いたら意味が分かりますよ。まず見て判断します。色が変では無いですか? それに毒物が分離して油の様に少し浮いてたりしません? 飲み口も注意しましょう、何か塗られてる形跡がありませんか?」


「・・・・・」


「うん、茶柱が立ってますね。問題ない様でしたら臭いを嗅ぎます。異臭がしませんか? 特に生のアーモンドや桃の臭いがしたら注意です。毒草の中にはシアン化物、つまり青酸系の毒を含んでいる物が有るのです。このアーモンド臭は青酸カリ!って言うでしょ」


「・・・・・」


「う~ん、香りは良いとは言えませんが悪くも無し。では次は少量を口にふくみましょう。飲んではダメですよ、口の中で転がす様に味わって変じゃないか確かめましょう。妙な苦みは無いか? 口の中がヒリヒリしないか? 大丈夫なら飲んでみてください。そしてしばらくたっても問題ない様なら、少しずつ飲んで構いません」


「・・・・・」


「初めて飲んだ味だから分からない? まあそうですよね。これに合わせて話術を使うのも手です。これ前にも飲んだことあるんだよね~、こんな味だったかな~、とか言ってどこかに潜む暗殺者を挑発するのです。ね、うざいワイン飲みでしょ?」


「・・・・」


「アハハ、周りを探る時はキョロキョロしちゃだめですよ。広げた視野をうまく活用してください。ではそろそろ部屋に行きましょうか、この宿は個室ですよ。ささ、勇者候補よ、お金を払って。すみませ~ん、予約した女神ですけど」


 アナタは部屋の鍵を受け取り部屋に向かったが、そこは初めの部屋と同じ作りだった


「・・・・・」


「今回の教習はここで終わりとします! どうでしたか勇者候補よ? これからもたまにお散歩しながら教習しますのでお楽しみに。ではまた次回!」


 女神がそう言うと周りは何時もの空間に戻り、女神は去って行った。そしてアナタは日常へ戻っていく

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