凡人編

15日目 モノの見方を変えましょう

 超素人編の教習を無事に終え、晴れて凡人クラスの教習に来たアナタ


「ようこそ勇者候補よ。待っていましたよ」


「・・・・」


「今までの試練を乗り越えよくぞここに来られました。無事凡人暮らしに来られたアナタはッ! ・・・・農民と喧嘩になってもどうにか生き残れるかもしれない実力を身に着けた事でしょう!」


「・・・!?」


 女神の言葉に動揺するアナタの反応に、女神は戸惑いながら言った


「え?なんですその反応、ご不満ですか? 凡人なんですからそのくらいでしょう。少し戦闘技術をかじった程度で農民に勝てると思わないでください。クワを振り下ろす事、太刀の如し、スキを突き入れる事、槍の如しですよ。例え戦闘技術を習って無い農民だったとしても油断なりません」


「・・・・・」


「と言うか、徴兵された経験があるなら戦闘経験がありますし。特に注意すべき点は徴兵され習うのは個人戦闘ではなく集団戦、つまり同じ徴兵経験がある他の人と直ぐに連携できると言う事! 集団で囲まれたら落ち武者狩りの如くやられますよ! それに平時は農業をやり、戦時には戦場に赴く足軽の様な人だったら個人戦でも勝てません。トラブルになったらさっさと逃げましょう。もし狩人を怒らせたなら馬に乗っていたとしても足跡を見てどこまでも追跡して来るので逃げる事さえ敵いません。村人を舐めない事です」


「・・・・」


 女神は村人が如何に危険か語った後、何故か熱く次の事を語った


「ですから勇者候補よ。うかつにアイテム欲しさに物を漁ったり、井戸に飛び込んで水場を荒らすなどもってのほかです! 絶対にそんな真似しないでくださいね!」


「・・・・」


 貴方の言葉を聞いて、何故か女神は安心した様子だった


「そんな事しない? よかった…、それが普通ですよね、うん。では、気を取り直して今回の教習内容ですが視覚の使い方についてです」


「・・・?」


「どういう事かって? そのままの意味です。視力に限らず人間は各感覚器官の情報を全て知覚出来てるわけではありません。例えば部屋にアナログ時計があっても動く針の音を聞こうとと思ったら聞けるでしょうけど常に認識してはいないでしょう? 人間の脳はそう言った余分な情報を知覚してしまいストレスにならない様に、情報をカットするフィルターがついているのです」


「・・・・・」


「聴覚以外にも視覚も同様で、好きなテレビ番組を見ている時は画面以外見えていないですよね? そこで今回の教習は少し工夫してその視野を広げるための練習法をお教えします」


「・・・・?」


「まず自分に視野がどこまで広いかチェックしましょう。まず真っ直ぐ立って前を向き目印になる物を見つめて目を動かさないようにしてください。そうしたら両手を開いて顔の横に上げ出来るだけ後ろに引いてください。準備が出来ましたら視界の横端を見る事に集中し、その手を徐々に前に出してください。開いた手がギリギリ見える位置に来たら止めましょう。その手が止まった位置がアナタの横を見る視野の限界になります。結構広いでしょ?」


「・・・・・」


「次は視野の上をチェックします。片手を開き水平になる様にしながら顔の前から上に上げ、準備が出来たらその手をゆっくり下ろして手ば見えたら止める。そこがアナタの上の視野の限界です」


「・・・・・」


「次は下。気を付けの姿勢から徐々に手を前に出してみましょう。手が見えたらそこが下の視野の限界です。下の視野ってかなり広いでしょ? 逆に上の視野は思ったより狭く感じるはずです」


「・・・・」


「それは人間の構造上仕方のない事。アナタの目はそれだけの範囲を見る事が出来ますが、普段はそこまで見えてませんよね。あまり広範囲を見て知覚しようとしても脳が視覚情報を処理しきれないんです。ですのでこのチャックした視野の範囲を憶えて、物を視界の端で見る練習をしてみてください。そうすれば脳が慣れて視野が広がります。一種の脳トレですね。どこでも思い立ったら出来ますが慣れない内は何かを作業をしながら行うのは控えてください、事故のもとですよ」


「・・・・」


「さて、それが出来るようになったら次の段階に入りましょう。暗がりでもモノを見やすくなる暗視法です」


 女神がそう言ったとたん、真っ暗とまでは行かないまでも辺りが暗くなった


「・・・!?」


「ハハハ、私の顔が見えますか勇者候補よ? 多くの人は視野の中心で物を見るクセがありますが、視野の中心は明るい場所で物を見る事に特化しているので暗い場所では不向きです。そこでです、拳を握り腕を前に伸ばし突き出してください。その握り拳一個分視線を上にずらして見る様にすると暗がりでも物を見やすくなります。もちろん突き出した拳は引っ込めていいですよ」


「・・・・・」


「どうです、私の顔が見えましたか? 見えたら次のステップです」


「・・・・!?」


 辺りが明るくなったと思ったら女神の姿は消え、アナタは街中に居た、目の前にはには背の高いビルが建っている


「勇者候補よ~! 今私はアナタの前にあるビルの何処かからアナタに手を振っていま~す! これから言う方法で私を見つけてくださいね勇者候補よ~!」


「・・・・」


「人の視野の中心は物を細かく見るのに適してま~す! しかし!動く物体を見るには中心より外の方が適しているのです! ですから目をグルグルと動かしても私は見つけられませんよ!景色が動いちゃいますから~! そこでビルの上の端から横文字を一つづつ読むように1ブロックづつに分けて見て下さ~い! 一番端にまで見たら下に段を読むように視線を動かして~!」


 アナタは女神に言われるまま視線を動かした。屋上で作業する男性、窓を拭く女性、尻尾を振ってアナタを見る犬など様々な物が目に移り・・・・そして女神を見つけた


「・・・・・・? …ッ!」


「アハ! よく見つけられましたね勇者候補よ! とう!」


 女神が窓から飛び降りたと思ったら、アナタは何時もの場所に戻っていて、女神は目の前に立っていた


「・・・ッ!」


「よくできました勇者候補よ。今の方法はボディーガードがスナイパーなどの不審者を探すテクニックなのです。人を探す時に便利ですよ。地上を探す時は横文字を逆から読むように、下から上へと近くから遠くを見る様にして使いましょう」


「・・・・」


「そして視野の中心の外で見る方法は格闘戦でも使えます。動くものをとらえやすいですから相手の目や首、胸などを見て攻撃して来る手足の動きを直ぐに知覚できる様にするのです。武術で言うところの散眼さんがんと言う技術ですね」


「・・・・」


「そして勇者候補よ。これまでは視野を広げる技法でしたが、最後に逆にし視野を狭めて使う方法をお教えします」


「・・・?」


 今度は地平線が見える草原に変わった


「勇者候補よ、あの遠くに立つ私の人形が見えますか? 望遠鏡の様に手で小さな輪っかを作り、その穴からあの人形を見てください。視覚情報が減って今見えてる物がより見えやすくなって遠くの物体でも見やすくなるでしょう。どうでしたか?」


「・・・・」


「よし!じゃあ今回の教習はここまで! では次回でお会いしましょう!」


 そう言って女神は去って行き、女神人形はロケットの様に飛んで行った。アナタはまた何時もの用に日常に戻っていく

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