13日目 突けば槍、振れば剣

 今回も教習に来たアナタ。すぐに席についたアナタを女神が出迎える


「・・・・」


「よく来ました勇者候補よ!では前回の教習の続きを始めます。今回の紹介するのは少し長くなりまして・・・よいしょっと」


 女神は昨日と同じように空間から棒を引っ張り出した


「今回紹介するのは1メートル前後の長さの棒です。剣の様に使っても槍の様に使っても良い長さですね。ですが剣、槍それぞれの型に捕らわれず持ち方を変えて臨機応変に対応できますが、打撃力不足で鎧相手には不向きですね。関節技で組み伏せられれば話は別ですが」


「・・・・」


「剣や槍の使い方を習っていない? そうですよね、詳しい事はそれぞれの武器の紹介で、ここでは応用できる技術等を紹介します。剣様な振り片から教えるので剣で例えて話しますね」


「・・・・・」


「まず最初にここで皆さんが最も選ぶ可能性が高い握り方、剣道の様に両手で端を握るやり方です。小回りが最も効きませんが振り出された時の打撃力が最も高いです。ですが頭に被っている兜など形状により頭上に振りかぶれない事が有るので注意。そう言った状況なら頭上に振りかぶるのではなく顔の横、つまり肩の上で振りかぶる様にして打ち込めるように前もって練習しておくと良いでしょう。両刃の剣を振りかぶった時に自分の耳を切らない様にしっかりと」


「・・・・」


 女神はさらっと怖い事を言った後、棒を片手で持って言う


「次はサーベルの様に片手で端を持つやり方ですが…。ここに来る皆さんは日本の方が多いのでフェンシング経験者を省けば、あまりやりたがらない方が多いのではないでしょうか? 何時も木刀を両手で扱ってる方が気まぐれで片手で振ってみて、その扱い難さに苦い思いをした方も居るかと思います。その為まず片手持ちのデメリットから説明し、利点は何なのか説明しようかと思います」


「・・・・」


「まず片手での腕力の低下について。ほとんどの方は使う手が2本から1本へ減れば半分の力しか出せないと思われるでしょうが。100キロの両手で使うバーベルを持ち上げられる人間でも、50キロの片手で持つダンベルを持ち上げるのは難しいです。片手で出せる力は両手の3/1ぐらいだと言われてます。使う筋肉も微妙に変わりますから。いつも両手で剣振ってる人間が片手で思う様に剣を扱えないのは当然でしょう。武器も片手では叩き落とされ易いですし、構えてる状態でも両手持ちより腕が疲れやすいです」


「・・・・・」


「もうデメリットしかないんじゃないかって? ちゃんとメリットもお教えしますよ。まず両手よりも片手の方が可動域が広いので自由に動かせます、大きく身体を捻って腕を遠くまで攻撃ができ、一番リーチが長い持ち方となります。攻撃する際にいちいち腕を振り上げるのではなく自由になった手首を使って身体の横で回して勢いをつけそのまま打ち込めば必要な威力は出ます。更に体重を乗せれば打撃力が上がり両手持ちにも引けを取りません。力が出ないなら力で振るのはさっさと諦めて棒の重量を利用して技量で攻撃すればいいのです」


 ブンブン棒を振り回して説明する女神に、アナタは言った


「・・・・」


「簡単に言ってくれるな? 両手持ちでも基本はそうですよ、余計な力が入れば動きが鈍くなり疲れるだけです。防御する際も力が3/1しか出せないなら刀身も3/1しかないと思って受けてくださいね、手元に近い方が力が入りますから対応し易いでしょう。ある長い物を持って、手前と先にそれぞれにもう片方の手で同じ力で押してやれがその差が実感できると思います。そして攻撃に使うのは先の部分、勢いをつけて振ってくる攻撃に対して効率で対抗するのです。ですが棒は剣と違って鍔がついてないので握ってる手に攻撃が当たらない様にしてくださいね。剣で言う切先の方に受け流すのが良いでしょう」


「・・・・!」


「そんな防御法は習って無い? 前回の短棒での逆手での上段受けを思い出してください、アレの応用です」


「・・・?」


「いえ、逆手に持ち替える必要はありませんよ。身体の横で回す動きを利用するのです、相手の上からの攻撃を切っ先を斜め下に向けながら、腕を持ち上げ手に近い側で受けるのです。そうすれば相手の攻撃は切先の方へ受け流されます。サイドステップ等の踏み込みと合わせて使えば力負けしても横に逃げられます。昔々、上段からの攻撃を刀で受けたら、鍔が額にめり込んで死んでしまったお侍さんが居たそうですよ。もちろん両手で握ってました。両手剣でも応用できる防御法なのですが限界があるって事ですね」


「・・・・・」


 死んでしまった人の例を出されて応用できると言われてもと困惑するアナタを無視して女神は喋る


「そしてこの攻撃を受けた状態は剣を振りかぶった状態なのでそのまま直ぐに反撃できます。他の防御と攻撃を合わせた物だと攻撃を手に近い部分で受けながらも切先は相手向けたままそのまま突く物が有りますが棒でやると手が危険ですね。レイピア術の応用です。なぜレイピアが鍔が過剰に発達したかよく分かる例です」


「・・・・・」


「さて次は槍の様な持ち方です。片方の手で後ろの方を握り、もう片方の手は中間辺りを握り棒の先を相手に向けます。握ってる手と手の間隔が広くなるので力が入ります。振り回しの間合いが狭くなりますが、小回りが利くので剣の握りでは不向きな狭い場所でも使えます。相手の攻撃を払う時など棒先を動かす際は、片手を動かさず支点にしてもう片方で動かすと良いでしょう。両手で動かしてたらオーバーアクションになりやすく隙も大きいですからね」


「・・・・・」


「攻撃は、両手でしっかり握って突く体重を乗せた突きは強力です。あ、これは両手を動かしていいですよ。もう一つのやり方は後ろの手を動し、前の手の中を滑らせるようにして捻りながら突くのです。この方法がスムーズにできる様なら剣の様な握り等に直ぐに切り替えられ環境に合わせて臨機応変に対応できるでしょう」


「・・・・・」


「捻る意味があるのかと? 定規での素振りの教習で刃筋の説明をしましたよね。刃筋を通し、しっかり斬るには真っ直ぐ斬らねばなりませんが、その斬る物体が回転していれば刃が食い込んでも刃が捻られて刃筋を真っ直ぐ通し難いですから斬り払い対策になります。それに槍なら刺した傷を更に抉る事も出来ますしね」


「・・・・」


「そして、もし踏み込まれたら近距離でも対応できるようにしなければなりません。先ほどの方法とは逆に後ろの手の中を滑らせ、棒の後側で攻撃します。これで下段攻撃ができますし払う事も出来ます。うまくコントロールできれば棒の前と後ろ、それぞれ対応できない範囲をカバー出来るのです。握りの切り替えは重要ですよ」


「・・・・・」


「今回はここまでにしましょうか。次回は更に応用と練習法を説明します。では勇者候補よ!また次の日に!」


 そう言って女神は去って行き。アナタは日常に戻っていった

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