9日目 まったく、最近の勇者は火も使えない…
何時もの様に再び教習に来たアナタだったが・・・
「・・・・・」
そこは何時もの場所とは違い夕闇の薄暗い森の中の少し開けた場所で、その暗がりの中で女神は立っておりアナタに微笑みかけてきた
「よく来ました勇者候補よ。待ってましたよ」
「・・・・」
「え、なんか怖いから帰る? ちょっと待ってください! ちょっと雰囲気出しただけじゃないですかもう! はい!」
女神がそう言うと、辺りは何時もの何もない空間に戻った
「・・・・・」
「ふう、こっちの空間の方が普通の人間は怖がると思うんですけど・・・。慣れって怖いですね」
「・・・・・」
「なんであんな場所にしたかって? 実は前回の教習の後、転生担当神の集まりが有りまして。そこで”最近の勇者は魔法が無いと火もおこせない”との声が多く上がったので、今回の教習は火のおこし方をお教えしようかと。先ほどの場所なら焚き木なんかやると良い雰囲気になりそうでしょ?」
「・・・・・」
「焚き木が無かったら薄暗いホラースポットにしか見えないって? そんな事で帰ろうとしないでくださいよ。魔物と戦う気あるんですか?」
「・・・・・」
「では勇者候補よ。仕方がないのでこの空間で予備知識を身に着けた後、先ほどの空間で焚き木をしてもらいます。いいですね?」
「・・・・」
アナタはこくりと頷いた
「よろしい。ではまずここに来た勇者候補達の多くは紙とライターが有れば、乾燥した木の枝を集めて焚き木をする事は出来ると思いますが。まず異世界でマッチやライター等の直接火が出る道具がある保証が有りませんし、有ったとしても予算の関係で手が出せない可能性が有ります。アナタの世界でもライターだって一昔前は高級品だったのを考えれば分かるでしょう」
「・・・・・」
「そして、火種として燃やす紙ですが、紙が貴重な世界だったらそんな使い方出来ませんし。紙がある程度普及してたとしても火を点け様とする度に紙を求めていたら、”いや、わざわざ紙なんて使わずに
「・・・・・」
「火口ってなにか? それはですね、サバイバル系の映画とかで木の摩擦熱で赤く光る火種を作ってそれを繊維の様な物に包んで息を吹きかけて火をおこすシーンとか見た事ありませんか? あの繊維状の物です。アレ以外にも様々な物が存在しますが・・・まあ順を追って説明しましょう」
「・・・・」
女神はいくつかの道具を出した
「一番出くわす可能性が高いのはこの火打石でしょう。使い方は適量の火口を火打石の鋭くなっている縁の上にのせて、火口が動かないように指で固定しながら火打石を握ります。そして打ち
「・・・・・」
「面倒くさい? 火が使えないと色々面倒ですよ。自分で暖かい料理を作る事も暖を取る事も出来ず、水を煮沸消毒する事も出来ませんから命にかかわります。火打石を使う際の注意としては火花が出ないからと力を入れる為に斜めや真横から打たり強すぎる力で打たない事!石が欠けるだけですよ。それと火花が出るのは打ち金の方で火打石ではありませんから、火打石同士をぶつけても火花は出ませんよ!」
「・・・・・」
「他の方法はないか? 木をすり合わせた摩擦熱で火をおこす弓切り式などがいいですか?」
「・・・・!」
「アハハ!今回は火打石だけの教習にしましょうか勇者候補よ。着火手段が何であれ火種から火をおこし、そこから炎とする基本は同じです。便利な道具があってもきっと役に立つはずですよ」
「・・・・・」
「まず焚き木をする為の燃料をいくつか用意します。まず火花から火種にする為の火口、これはヤシなどの細かい繊維やフワフワの羽毛。適当な物がなければ竹や木材にナイフなどの刃をこすり合わせて出来たケバを集めて使います。布や紙などもこうやってケバを作ると火をつけ易いですよ。チャークロスと言う布を蒸し焼きにして作った炭があると使いやすいですね」
「・・・・」
「そして次に用意するのは火種から火にする為の乾燥した枯れ草や砕いた樹皮、これを火がつきにくそうな物から鳥の巣状の形を作り、その内側に次に燃えやすそうな物を詰めて真ん中にくぼみが出来るようにします。空気が通るようにあまりギュウギュウ詰めにしないでくださいね。これとは別に火種に蝋引きした紙をつけて火をつける方法もあります」
「・・・・」
「このままでは火は直ぐに燃え尽きてしまうので、火を炎にする為に燃料を用意します。枯れ落ちている木の枝、割った薪などです。これらを燃えやすい細い物から順番に火をつけて焚き木にします。一気に燃料を入れて火が消えない様にしてください。予め枝や薪をテントの様に組み上げる方法があります。ティーピー型と言ってインディアンの三角のテントをまねた形です。入口になる部分を開けておき、そこに火をつけた火口を中に入れて焚き火にするんです。そこで・・・・」
「・・・・?」
「超ド素人な勇者候補の為に、お手軽三点セットを用意しました! 先ほど紹介した方法で作った。火打石!鳥の巣!テントを既に用意しています!」
女神がそう言うと目の前にお手軽三点セットが現れ、周りは森の中のような景色になった
「・・・!?」
「ささ、勇者候補よ。説明した方法で火打石に乗せた火口に打ち金で火種を作って!」
「・・・・」
アナタは少し苦戦しながらも火口に火種をつける事に成功した
「良くできました勇者候補よ! その火種がついた火口を鳥の巣のくぼみに置くのです! そうしたら、鳥の巣を持ち上げて火種に息を吹き込んで。大丈夫、燃えても直ぐには火傷しませんし。熱い空気は上に上がっていくものですからご安心を!さあ!」
「・・・・ッ・・・ッ」
女神に言われるまま息を吹き込んでいると・・・
「煙が多くなってきましたね。そろそろ火がつきますが、勢いよく燃えるのでびっくりして落とさないでください。火がついたらテントの中に入れるのですよ」
「…ッッ!」
アナタは火がブオッと燃え上がり、驚きながらも火のついた鳥の巣をテントに入れた
「後は樋がテントに燃え移る様にするだけですね。火を囲っているので熱が逃げないので効率が良いんですよ。息を吹き込む時も風が逃げませんから便利です。火が足りない様なら燃えやすい物を中に入れて足すなり、空気をおくって火を大きくしてください」
「・・・・・」
しばらくすると火がテントに燃え移り、りっぱな焚き木になった
「あ、出来ましたね。ほら、簡単でしょ?」
「・・・?」
「これで良いのかって? 良いんです。作りも簡単ですからアナタでもマネできますでしょ? 苦手意識を克服すれば後はどうにでもなります」
「・・・・」
「ご自分で練習する際は場所と火の始末に注意するのですよ。不適切な場所で火をおこせば警察沙汰ですからね!火の用心! では今日の教習はここまで! これまで教えた身体トレーニングもちゃんと復讐し鍛えるのですよ」
そう言って女神は火を消して去り。アナタはなんだかなと思いながらも日常へ戻って行った
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