6日目 一歩進もう

 ハイハイ教習を乗り越えて、再び教習に来たアナタ


「よく来ました、勇者候補よ。では教習を始めましょう」


「・・・・・」


「昨日ので精神的に疲れた? まあそう言わず。今回は踏み込みの教習をします。普通に歩ける権利まで一歩前進ですよ!」


「・・・・」


 女神が手を広げると、アナタの足元に十字線が現れる


「練習しやすい様、床にガイド線を作りました。これを目安にやっていきます。ではまず、十字線の中心で利き手を前に出し半身になって構えてください。腰は少し落とし膝を軽く曲げ、直ぐに動ける様に。足は肩幅に開いて、利き手側の足のつま先は、相手が前に居る事を想定し前に向けます。反対の方の足のつま先は自然に斜めに」


「・・・・」


「利き手と逆の方を防護の為に前に出すのでは? 格闘技ではその様な構えが多いですね。ですが勇者候補よ、これは利き手に剣などの武器を持った事を想定しています。武器は攻撃と共に相手の攻撃を防ぐ盾でもありますから、相手の攻撃を捌けるように今回は前に出します。もちろんもう片方の手に盾を持っている場合はそちらを前に出す逆の構えになりますがそれは後で」


「・・・・・・」


「納得してもらえましたか? では腕をボクシングの様に軽く上げて、脇を閉めてください。肩に力が入らない様にしてくださいね、力が入ると脇が開いて的が大きくなってしまいますし、力めば機動力が大きく削がれます。リラックスですよ、リラックス」


「・・・・・・」


「納得のいく構えになりましたか? では前に踏み込んでみましょう。前の足で踏み込んでから後ろの足を引き寄せる様に前へ。足の裏全体を地面につける様に踏み込みますが慣れないと上手くいかないと思います。その場合はつま先が先につくくらいなら、踵から先につける事を意識して練習してください。肩の位置は上下しない様、高さを一定に保ちながら、移動中も姿勢を安定させる事に注意です」


「・・・・・」


「何故つま先からではだめかと? 勇者候補よ、つま先でカンガルーの様に腱の弾力を利用し跳ね、小刻みにリズムを取りながら戦う方法は機動力はありますが、武器や鎧などの装備を身に着けてると難しく極端に体力を消費します。そしてつま先で立つとぐらつきやすく地面が不安定な場所だと転ぶ危険性が有りますので、こちらの方法をとらせていただきます。転生先で格闘技のリングの様な場所で戦うのは稀でしょうからね」


「・・・・・」


「では、自然に動ける様にこの動きを繰り返してください。一歩進んで戻る!繰り返している内に位置がズレたりしない様に、足元の目印を時々確認して! ご自宅でも行う場合はビニールテープを床に張るといいでしょう。 ほらドタドタと足音を立てない! 動きが安定すれば足音はほとんどしませんよ!」


「・・・ッ・・・ッ」


「もう慣れましたか? では次のステップにいきましょう。真横に移動するサイドステップです! 移動する側の足を先に出し、もう一方の足を引きつける! 右に踏み込み元の位置に戻り、左に踏み込んで元の位置に戻る!いち、に!1、2!」


「・・・・・・」


 この反復横跳びの様な動きに苦戦するアナタに、女神は言った


「よし!今度は斜め前に踏み込みます。相手の斜め横に回り込む訳ですが、そのまま斜めに直進しても前方には相手は居ませんので身体の向きを変えながら踏み込む必要があります。先ずは利き手側に方に踏み込む方法、踏み込んだ前の足のつま先を相手に向け、後ろの足を引きつけながら相手を見ながら向きを変えます。一歩進んでから向きを変えたのでは隙が出来ますが、この方法なら直ぐに対応できます」


「・・・・・」


「そして元の位置に戻る訳ですが、戻る時も後ろ足のつま先の位置に注意してください。つま先を相手に向ける訳ではありませんが、自然に元の構えに戻れるよう感覚を掴みながら行ってください」


 戸惑いながら踏み込みを続けるアナタ


「・・・・・!」


「そして利き手と逆側です。サイドステップの応用で、後ろの足を斜めに踏み込んでから前の足を移動させます。そうしないと半身になってますので踏み込んだ際に背中を相手に曝しやすくなるので危険ですからね。左右どちらでもできる様に! コラ、構えを逆にしない! 武器を持ってない腕を前に出しても防御できませんよ! 相手も武器を持ってると思って!」


「・・・ッ!・・・ッ!」


 どうにかできる様になった頃、女神は次の試練をあたえた


「もう慣れました? では今度は後ろに踏み込む練習もしましょう。後ろに引いて元の位置に戻る!斜め後ろへの移動ももちろん行ってください」


「・・・ッ!・・・ッ!・・・ッッ!!」


 しばらく続けて慣れたアナタの姿を見て、女神が口を開いた


「動き自体に慣れたら。後ろに引いて相手の攻撃を躱し、斜めに踏み込んで攻撃など、相手の動きをイメージしながら行ってください。この動きにアナタの命!そして世界の命運がかかるかもしれないのです! さあ頑張るのです勇者候補よ!!」


「・・・・・ッッ!!!」


「あ」


 無理な動きでアナタは転んでしまった


「ハハハ、すみません勇者候補よ。少し詰め込み過ぎましたかね」


「・・・・・!」


「え、脚を使いすぎて思う様に動けない? そんな時の為のイメージトレーニングですよ。先ほどの動きを細部までしっかりイメージして上手く行えば、次に行う時もっとスムーズに動けるはずです」


「・・・・・・・」


「では今回の教習はここまでとします! ではまた次回!さらばです勇者候補よ!」


 そう言って女神は消えていき。アナタは日常に戻っていった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る