5日目 さあ勇者候補よ、地べたを這いつくばるのです
また教習に来たアナタ。そんなアナタを女神は迎い入れた
「よく来ましたね勇者候補よ。身体の調子はいかがですか?」
「・・・・」
「え、まだ違和感がある? それくらいなら気にする事もないでしょう。筋肉痛でも軽く運動した方が血流が良くなって痛みも引きますからね。ささ、教習を始めますよ」
「・・・・」
女神はそう言ってホワイトボードを取り出し、犬の絵を描きながらアナタに言った
「では勇者候補よ。そこに這いつくばりなさい」
「・・・・!?」
「聞こえなかったのですか勇者候補よ。そこに膝を着いて四つん這いになるのです」
「・・・!」
這いつくばれと言われて抗議するアナタに、女神は涼しい顔で答えた
「赤ちゃんみたいでかっこ悪い? 片足立ちだの、ペットボトルだの、ペンギン走法だの今まで散々やって来たではありませんか。ここは超素人編、腕立ても腹筋もろくに出来ない貧弱者のトレーニングエリアです。ここに居る間まともに二足歩行できるとは思わないでください」
「・・・!?」
「さあ勇者候補よ、さっさと這いつくばるのです。
アナタは渋々女神の言う事を聞いて跪いた
「・・・・」
「それで良いのです勇者候補よ。では両手もついて、手のついた場所を覚えておいてください」
「・・・・」
「では、片方の手を一歩前に出し、手を出した方と同じ側の膝を手を出す前に手をついていた場所に動かしてください。その様に交互にゆっくりでもいいですから前進してください」
「・・・・」
「ハイハイするだけなのに指示が細かい? 勇者候補よ、これは四足歩行する獣を参考にした匍匐前進なのです。四足獣の一種には前足が踏んでいた場所に後ろ足を踏み出し移動する習性のものが居ます。そうする事で小枝など足音を出す物を踏むリスクを減らしなが前進するのです。一度踏んで問題ない場所なら安全ですからね」
「・・・・・」
「しかしアナタは人間です、前足ではなく使うのは手なのでそれも生かせます。手は足より敏感で器用に動かせますから、手を一歩踏み出す際にその感触から踏んだら危険な物が無いか慎重に確かめ、必要なら危険な物を退かして膝が踏む場所の安全を確保するのです」
「・・・・・」
ホワイトボードの絵を魔物から逃げる人間の養子に変えながら女神は説明をする
「こうすれば安全に匍匐で移動できますから、災害時に張って進まなければならない時や、暗い場所で足元が見えない時に姿勢を低くして隠れながら進む場合などにも効果的です。体重をかければ音を出す床などでも体重を分散させる事で静かに移動可能です。慣れないと身体に負担がかかるのでトレーニングにも向いていますので時間と場所が許すなら積極的に練習する事をお勧めしますよ」
しばらく匍匐全身をしていたアナタは、女神に質問した
「・・・・・」
「立って静かに移動したい? ふむ・・・、まあ良いでしょう。今回の匍匐を応用できますからついでに済ませておきましょうか」
女神は忍者の絵を描いて説明した
「基本はアレです。昔のアニメなんかで膝を高く上げてつま先で歩きながら進むシーンが有ったりしますよね、アレです。細かい方法をお教えしましょう。ささ、立って」
「・・・・・」
女神の指示でやっと立つ事が出来たアナタは、女神の言う通りに動いてみる
「まず、足の裏の感触に意識を集中して、足を浮かせた際に音が出ないよう注意しながら膝を高く上げます。イメージトレーニングで感覚が強化されているなら十分感覚は掴めるでしょう? ふらつく様なら片足立ちからやり直しです。ハハハハ」
「・・・・・」
「では、その上げた足を物にぶつからない様にゆっくりと前に出して、つま先からゆっくりと地面についてください。その時に匍匐の様に手で地面を探る様につま先で地面を探り、邪魔な物が有ったらつま先で退かします。問題無い様でしたらつま先から踵までゆっくりと地面につけてください」
「・・・・・」
「出来ましたか? ではそれを繰り返しながら進んでください。足を静かに上げる”抜き足”、つま先から着地する”差し脚”からなる”忍び足”です」
「・・・」
「踵を付けずにつま先だけで歩いちゃダメなのか? それでもいいですが勇者候補よ、それでは不安定な場所ではふらつきやすくなるので注意してください。それとこの歩法を身につければ足音は出ないかもしれませんが、見た目が凄く目だちますので注意ですよ」
「・・・・」
「そうですねぇ。人がよく出入りする舗装した場所や屋内では踵から着地する方法もあります。腰を少し落として軽く膝を曲げ、脚で着地の衝撃を少なくする様にするとやり易いとか、慣れない内は不自然な歩き方になるでしょうが、慣れると人混みの中ででも自然に行える様になります。スニーカーなどを履いてる場合はこちらの方が歩きやすいと言う人も居ますね」
「・・・・・・・?」
「ハハハ、確かにこちらの方法の方が現代的かもしれませんね。この歩法を極めると人に気付かれずに姿勢を落せますから、人混みで追跡者をまくのにも役立ちます。人混みの中では人を頭の高さを目安にしてしまいがちになるので、姿勢を落されると目安を失って混乱するそうですよ」
「・・・・・」
「まあ、この方法はかなり上級なのでアナタが気にする事はないでしょう。ただこんな事が出来る人間が居ると言う事だけは覚えておいてください、異世界で相手にする可能性もありますから」
「・・・・」
「では勇者候補よ、今回の教習はここまでにします。それではまた次回!」
そう言って女神は、突然現れた天使達が作る人混みの中に消え。アナタは日常に戻っていった
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