3日目 いきなり奥義!?

 第2の試練、ペットボトルトレーニングを乗り越えたアナタは、再び教習場に来ていた


「お、勇者候補よ。第2の試練を乗り越えましたか? 何だかんだで基礎体力は必要ですからね。やってみると面白いでしょう? 人によって工夫したやり方が有って、底を持って逆さにしたペットボトルを上下に動かして握力鍛えたり。腕を前に伸ばしてペットボトルをグルグル回して肩回りを鍛えたりとバリエーションが有りますから、他の人の練習も見てみると良いでしょう」


「・・・・」


 ペットボトルはもういいからとウンザリしているアナタの言葉を聞いて、女神は口を開いた


「ハハ、そうですね次ですね。では初日に練習した片足立ちを生かし、それから一歩進んだ訓練法を行なう事にしましょう。当然ですがまだ片足立ちすら出来ないのにここまで飛んできた人は初日に戻ってください。ズルはいけませんよ」


「・・・・・」


 女神はそう言ってホワイトボードにデカデカと文字を書いた。題して・・・・


「今回のお題は・・・、奥義!ペンギン走法です!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 アナタが奥義ペンギン走法という謎の単語に絶句していると、女神は何でもない様に言った


「雪国の方が氷の上を歩く時に使うペンギン歩きとは違いますよ、全く別の鍛練法です。ではまず下準備をしましょう、アナタにこの走り方ができるか試せねばなりません。そこに気をつけして立ってください」


「・・・・・」


 アナタはとりあえず女神の言う通りにした


「よし! そのまま足をピンと伸ばした状態で骨盤を傾けて片足を垂直に上げてください。どうです、出来ますか? 出来ましたら足を下ろし反対の足を上げ足踏みをしてください」


「・・・・・」


 かっこ悪い、凄くかっこ悪いと思いながらアナタは足踏みする。しばらくすると女神から次の指示が下された


「その動きにもう慣れましたか? では次の段階へ。骨盤を上下に動かすのではなく回す動きも加えて歩いてみてください」


「・・・?」


「ですから足を曲げずに骨盤の動作だけで歩いてください。はい、膝を曲げない! 腰を捻って進まない! 腕を振らない! 動かすのは腰の下の骨盤で足はピンと伸ばしたままです! 胸は常に真正面に向けることを意識して! ゼンマイ仕掛けの玩具が歩く様に進むのです! 骨盤を八の字の様に回して!」


「・・・ッ・・・ッッ」


 戸惑いながらもアナタはどうにか実行した。子供が見たら確実に馬鹿にされるだろう


※この鍛練法を実行し、人に見られたことで読者が社会的に抹殺されようと作者は責任を取りません


「もう、その歩き方に慣れましたか? ではペンギン走法の名の通りスピードを上げ走ってください。もしふらつく様なら片足立ちからやり直しですからそのつもりで。さあもっと早く!」


 そう言いながらペンギン走法を実演し追いかけまわしてくる女神に、アナタは従いながらも走った!ペンギン走法を!


「ッ・・・・・!?」


 そしてしばらく走った後、アナタは女神に疑問を投げかけた


「この鍛練に意味があるのかですって? これも下準備の様な物ですからこれ単体では意味はありませんね」


「・・・・!」


「まあ、落ち着いてください勇者候補よ、順を追って説明しますから。まず格闘技の基本として軽く膝を曲げて構えますよね? それは膝を曲げて遊びを作らないととっさに動けませんからなのです」


「・・・・」


「ですが日常生活で常に膝を軽く曲げて生活するのは困難です。そこで日常生活で不意を討たれても対応出来るように、膝が伸びきった状態でも動ける移動手段が必要なのです」


「・・・・」


「そこで初めの一歩を骨盤を使って踏み出し、骨盤の片側を下げると逆側が上がる性質を利用して一挙動で加速して相手の懐に飛び込むか安全圏に離れ体勢を立て直して不意打ちに対応します。慣れた使い手が使うと初動が見えないので一瞬で移動したように見えます。武術の縮地法に似てますね」


「・・・・!」


「中二臭い技がでて喜んでいるのですか勇者候補よ? でもそう簡単にはいきませんよ、骨盤の動き以外にも肝心の足の使い方や重心移動など様々な技術が必要な上に、習得できるかは使い手のセンス次第な所が有りますから期待しない様に。このペンギン走法だって骨盤を強引に動かせるようにする為の準備運動の様な物で、骨盤動かせるようになったらもうやらなくていいぐらいです」


「・・・・・」


「そう落ち込まないで、一度骨盤が動かせるようになると自然と身体が使って、歩くだけでトレーニングになります。骨盤が柔軟になり過ぎて姿勢が崩れる様ならちゃんと姿勢を正せるように意識してください。重心がちゃんと身体の中心を通るようにです」


「・・・・・」


「それとですね。骨盤操作以外にもこのペンギン走法には意味が有ります」


「・・・?」


「胸を正面に向けて走るように言ったでしょう? 普通に腰を捻り腕を振って走る方法なら胸も左右に激しく動きます。そんな状態で武器を持ったらどうです? 腕と一緒に手に持った武器を振り回すのは危険ですし体力の浪費です、自然と武器を持った手の動きは止めるでしょう。そうなると腰も思うように降れずに走りにくいでしょうが、胸を正面に向けて走る方法を身に着けた今のアナタなら問題無く武器を持ったまま安定した走りができるはずです! ……たとえあの奇怪な走りだったとしても」


「・・・・ッ!?」


「最後に何か言ったかですって? いいえ、何も言ってませんよ勇者候補よ。では今回の教習はここまでです。アナタにやる気があるのなら次回でお会いしましょう! さらばです」


 そう言って女神は去って行き。アナタは日常へと戻っていった


    ・

    ・

    ・


 一方、別の世界線では


「なんですか勇者候補よ?」


「・・・・・」


「なに? 言われた通りに武器を持って走ったら重心が武器の方へ偏って走りにくい? さてはペットボトルトレーニングをサボってましたね!? ちゃんと立ってトレーニングする方法もやりました? まさか…よくばってペットボトルを両手持ちにしてたんじゃないでしょうね!?」


「・・・・ッ」


「言い訳はけっこう! アナタはペットボトルトレーニングからやり直してください!!!」

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