2日目 ご家庭にある物でトレーニング

 前回の教習を乗り越え、アナタはまた教習に来た。そんなアナタを女神は出迎える


「おお、第一の試練を乗り越えましたか勇者候補よ。上手くできましたか?あの程度事も出来ない様では戦闘どころではありませんからね」


「・・・・・」


「見てたから知ってるだろうって? ハハハ、それはそうなのですが、正直どのアナタの事なのかこちらには分からないので。ささ、今日の教習を始めますよ勇者候補よ」


「・・・・・」


 女神は笑ってそう言うとホワイトボードと机を用意した


「さあ勇者候補よ。前回は足と体軸のトレーニングでしたが、人によっては足や腰が疲れている事でしょう。そこで今回は腕のトレーニングです」


「・・・・・」


「まあ、そんな緊張しないで、今回も簡単な内容ですから。そこで用意する物はこちら!」


「・・・・ッ!?」


 女神が机に用意した物は、よく見覚えのある物だった


「この1.5リットルのペットボトルです。どうぞ持ちやすいものをお選びください。ご自身で用意する場合は炭酸飲料を振り回し爆発させたり、飲みかけのペットボトルを自分の体温で痛めてお腹を壊す様なアホな事はしない様に、ちゃんと中身は水に入れ替えてトレーニングしてくださいね! それと火事の原因になりますから日の当たる場所にはおかない様に」


 女神の後ろのホワイトボードには”簡単!ペットボトルトレーニング”と書かれている。拍子抜けした様子のアナタに、女神は言った


「・・・・・」


「ちょっと簡単すぎないかですって? 何も問題ありません。重めの片手剣の重量が1.5キロ程なので丁度いい重量なのです。実際に剣を持った時は長さの為にこれより重く感じるでしょうが、これを片手で自由に扱えれば剣を扱えるのに十分な筋力が身につきます。見た目の貧乏臭さに惑わされてはいけません」


「・・・・・」


 女神は真剣な顔で更に言う


「逆に言えばこの程度の重量でへこたれる様では武器もろくに扱えず魔物との戦闘で命を落とすことになります! それどころか装備もろくに用意できない可能性だってあります!必要な効果の有る物なら、こう言った日用品でさえ使いこなす応用力は勇者には必要です!」


「・・・・」


 女神はなぜか、どこかに向かって叫び始めた


「こらそこ! 丁度いいダンベルがあるからとそれ使わない! 用意するのは1.5リットルの水の入ったペットボトルですよ、ペットボトル! ちゃんとした器具じゃないとトレーニング出来ないなどという、チッポケかつ不要なプライドは捨ててくださいね!勇者候補風情が!! それとペットボトルのラベルはすべる原因になりますからちゃんと外してくださいね」


「・・・・・」


「誰に言ってるのかって? たまに居るんですよそんな不届き者が。じゃあトレーニングを始めましょうか」


「・・・・・」


 アナタは女神に言われるままペットボトルを手に取った


「ああ、持つペットボトルは1つで構いませんよ。その方がトレーニングをした際に重心が片寄って、身体を支える筋肉も鍛えられますから。座りながらでも良いですが、出来れば足を肩幅に開いて立って行う事をお勧めします」


「・・・・・」


 女神に言われペットボトルを一つ手に取り運動を始めるアナタを見て女神はうんうんと頷いた


「そうです、そうです。その様にダンベル運動と同じ動きで身体の上下に持ち上げたりすればいいのです。早さはゆっくりやればいいとは言いますが自分のペースで構いません、ブンブンと勢いよく振り回しさえしなければ問題ありません」


「・・・・・」


「物足りない場合は速度をさらに落としたり、重りを自分の身体から離した方が負担が大きくなりますから丁度いい負担を探ってください」


「・・・・・」


 淡々とトレーニングをするアナタに、さらに女神は言う


「さらに同じ動きだけでなく、重りを肩の高さに上げ、腕を上に伸ばして持ち上げる方法や、腕をだらりと下げ、そのまま真横に持ち上げる方法などを行い、腕をまんべんなく鍛えてください」


「・・・・」


 淡々とトレーニングを続け、飽きたアナタは女神に聞いた


「どれくらいやればいいのかですか? うーん…出来るだけ長く行うのが理想ですが。ペットボトル一つを左右の腕で交互にトレーニングしながらアニメ1話を軽く見終えるくらい出来ればいいでしょう。慣れたのなら1時間ほどのバラエティ番組を見終える程、さらに慣れたら映画一本見終える程の持久力が有ればいいでしょうか」


「・・・・!?」


「片足立ちと違って長すぎないのかですって? 勇者候補よ、1.5キロと言うのは剣を想定した物、つまり”持ち上げられなければいけない重量”ではなく、”使いこなさなければいけない重量”なのです。これくらいの持久力が無ければすぐにバテてしまいますし、旅の疲れで戦えないなんて事になりかねませんよ」


「・・・・」


 女神はアナタを見て表情を緩め、こう言った


「きつい様でしたら水を抜くなどして、もっと軽い重量で行っても構いません。片手剣でも軽い物では700グラム代と1キロにも満たない物もありますから。歯を食いしばったり息を止めなくても持ち上げられる丁度いい負担でおこない、それから徐々に慣れていけばいいのです。自分の限界を見極め、それを乗り越えるのもトレーニングの一環ですよ」


「・・・・」


「早く言えよですって? ハハ、すみません。でもこれで剣の重量をどれだけアナタが持ち上げられるか分かったでしょう? アナタが越えなければならない壁も何となく察しがついたかと思います」


「・・・・・」


「では勇者候補よ、今回の教習はここまでです。良い結果を残せなかったのでしたら頑張って精進するのですよ!」


 そう言い残し、女神は去って行き。アナタは日常へ戻っていった

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