第33話 「えっ 引き受けてくれるんですか!?」(3)
結衣とフィーネは、ウィンターズの店を再び訪れていた。ウィンターズは結衣の話を黙って聞いていた。結衣が「そういうわけなので、ちょっと困っています」と言うと、ウィンターズは「分かった」とだけ答えた。
「とりあえず、うちが資材の手配をすることはOKだと言っています」
弟子のフィルが翻訳してくれた。
「ただ、アストリーさんとの契約の件は難しいかもしれませんね」
「やっぱりそうですか……」
「ええ。契約書っていうのは、結構重いですからね。『勘違いしてました』では、覆らないと思います」
「考える」
「親方は『どうなるか分からないが、ひとまず考えてみる』と言っています」
「なんかすみません」
「構わない」
「『お互い気持ちよく仕事をしたいから、そんなことは構わない』そうです」
なんでこの人は一言しかしゃべらないんだろう? 結衣は不思議に思いながらも、この人たちを頼るだけじゃ駄目だと思った。理不尽とは言え、元々は自分のミスなのだ。本来であれば、契約書を持ち帰り設計課のリタに確認してもらっていれば、こんなことにはならなかったのだ。
ウィンターズの店を後にした結衣は、フィーネにそう言って「自分でなんとかしないといけない」と口元をキュッと結んだ。フィーネは「まぁまぁ、そんなにひとりで背負い込まないでも」と慰めてから「リタさんと言えば、この前設計図見ていた時に『不完全だ』って言ってたよ」と言った。
「不完全?」
「うん。確か『地下施設がない』って言ってたかな?」
「地下? コロッセオって地下があるんですか?」
「うん。まぁ施設っていうよりは、牢獄だったり、戦い前の準備する場所だったりするらしいけどね」
「へぇぇ。なんか怖いですね」
「だね。でも、結衣ちゃんはコロッセオをそういう施設にしたくないって言ってたから、必要ないよね」
「ですよねぇ。少なくとも牢屋は要りません」
結衣とフィーネは、ひとまず学校へと戻った。「結衣ちゃん、朝から何も食べてないんだから、お昼はちゃんと食べよう?」と言うフィーネの言うことを聞いて、食堂へと向かった。
「誰かと思ったら、結衣じゃないか」
「マリカさん! お元気そうで」
「元気も元気。家に引きこもっていた時よりも、よほど元気になっちまったよ」
「そうですかぁ。よかったです!」
「まぁ……あんたのお陰だよね。ありがとね」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「あれ? なんだか元気がないね?」
「あはは……ちょっと仕事で」
「いけないね。ちょっと待ってな」
マリカは厨房に引っ込むと、小さな鍋を取り出して何かを作り始めた。
「お待たせ。あんたこれが好きなんだろう?」
「うわ〜。カツ丼だ! ええ、好きなんですけど、なんで知ってるんですか?」
「マーサに聞いたのさ。と言うか、食堂のスタッフで知らないやつはいないんだけどね」
「いつの間に、そんなに噂が……」
「まぁ良いから冷めないうちに食べな! ご飯の下にもカツを敷き詰めてある『結衣スペシャル』だからね。きっと美味しいよ」
「下にも?」
「そうさ。二重構造になってるんだよ。若いんだから、このくらい食べても大丈夫だろうね」
「二重……構造……」
「どうした? まだカツが足りないのかい?」
「ううん! マリカさんありがとう!」
「おやおや、そんなにカツ丼が好きだとはね。ま、早くお食べ」
結衣は大きくうなずいた。
「あぁ、その使用方法なら大丈夫だろう」リタは結衣の話を聞いて、そう太鼓判を押した。
「本当ですか!?」
「前にも言ったけど、構造物としては使えないけどね。結衣の言うやり方なら問題ないだろう」
「うわー! よかった!」
「数日中には設計図を引き直しておいてやるから、またおいで」
「ありがとうございます!」
それから3日後。結衣とフィーネは再び王宮を訪れていた。ここのところ、何度か往復していた成果か、階段を昇り降りするのにも、随分慣れてきた。
「あっ、マス……結衣殿ではありませんか!?」
「こんにちはー。国王様いらっしゃいますか?」
「ええ、陛下なら、多分お庭に」
「ありがとうございます!」
「お気をつけて。あ、それとこの前の件ですが」
「この前の……あぁ、アレですね」
「はい。また伺いますので」
「いつでもどうぞ!」
「噂では、マスターご自身の恋愛も成就されたとか、流石です……」
「いや、成就したわけでは……。と言うか、私の噂って、流れるのがとてつもなく早い気がするんだけど」
チラッとフィーネの方を見ると、すかさず目を逸らされた。
城門をくぐり庭へ入ると、初めてここを訪れた時と同じように、国王は庭木の剪定をしていた。「陛下、こんにちは!」「おぉ、結衣。よく来たな」国王は手を止めると、結衣の元へとやってきた。「して、順調かの?」「その件で、陛下にお願いがあるんです」「ほぉ?」
結衣は事情を全て包み隠さず、国王に報告した。自分のミスだったことを正直に話し、丁寧に謝った。
「私の不注意でした。フィーネさんの言うことをちゃんと聞いていれば、こんなことにはならなかったのですが」
国王は黙って聞いていたが、結衣が頭を下げると、肩にポンと手を当てて「お前に任せたのはワシじゃからな。最終的な責任はワシにある」と言った。その言葉に思わず泣きそうになった結衣だったが、言うべきことを思い出し、なんとか踏みとどまる。
「ありがとうございます。それで、どうしてもアストリーさんとの契約は解除できなくって、無駄な石材が出てしまうんです」
「ふむ、ワシからの依頼に、そのような手を使うとはのぉ」
「いえ、それは私の不手際ですので、仕方がない部分もあるのですが……その……」
「うん? どうした? 結衣」
「あの、陛下はコロッセオの外観が好きなのですよね。コロッセオが城下町にある景観をお求めなんですよね?」
「そうじゃ。機能的には結衣に任せると言った通りじゃ」
「でしたら、ひとつ提案があるんです」
「ほほぉ、聞こうか」
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