第22話 「違います! そういうんじゃないんです」(4)
「まったく、もう!」
結衣は怒っていた。4人に散々説教をした後、説明を求めた。ロッティが言うには「結衣と優馬の間を取り持とうとして、小芝居を打った」とのことだったが、結衣にしてみれば余計なお世話だったし、それに他にもやり方があっただろうに、と思った。
優馬は完全に被害者の方で「いきなりロッティさんとフィーネさんに襲われて」と言っていた。けど、いくら2対1とは言え、女性相手に何してるんだと呆れてしまった。
とりあえず優馬は無罪放免ということにして、ロッティとフィーネ、それに黒須をこってり絞った後「しばらく入室禁止です」と言い渡し、自室からフィーネを追い出した。フィーネは半泣きで「ごめんなさーい、結衣ちゃーん」と謝っていたが「当分頭を冷やして下さい」と言い放った。
3人の気持ちは分からないでもないし、ある意味そこまで気を使ってくれていることには感謝していた。実際、ロッティとデイモンをくっつけようと、結衣がしたことも似たようなことだったと言われれば、そうだとも思った。
でも、何故だが結衣は無償に腹が立っていた。ベッドに横たわりながら「あれ? もしかしてこれって自分勝手なのかな?」と思ってもみたが、どこか違う気がしていた。毛布にくるまりながら、なんで自分がこんなに腹が立っているのか考えを巡らせる。頭がこんがらがってくる。
「あー、もう!」毛布を跳ね上げて、勢い良く起き上がる。「もう、いいや。私のことはともかく、今回悪いのはフィーネさんやロッティさんたちだし」ベッドから降りて、窓際に行く。窓の外に生えている大きな木に、二羽の小鳥が並んで止まっていた。
「どうせだったら、ちゃんとやって欲しかったのに……」
無意識のうちにそう呟いてしまっていたのに気づいて、慌てて周りを見回す。フィーネを追い出したので、当然部屋には自分しかいない。結衣はホッと胸をなでおろした。そして、ようやくどうしてこんなに怒っていたのか理解できた。
きっと、ロッティたちがふざけていると感じたからだ。結衣は、ロッティとデイモンの間が上手くいくよう、彼女なりに一生懸命考えて行動した。結果としては、そこそこ上手くいっているようだが、やった内容自体は、ロッティたちが結衣にしたこととそれほど変わりはない。
しかし立場が変わって、される方に回った時、ロッティたちのおちゃらけた姿勢に「どうしてそんなに稚拙なことをやるのか?」と腹が立ったのだ。やるんなら、ちゃんとやって欲しい。キチンと上手くいくように計らって欲しい。
そんなことを考えている時、結衣の頭にある疑問が沸き起こった。「って、あれ? それってつまり、私が優馬とつき……もっと仲良くなりたいって思ってるってこと?」首をブンブンと振って否定する。
「そんなことない。だって優馬は弟みたいなものだし、頼りないし、私がちゃんと見てあげてないと駄目だし、私がいないと駄目だ……し」
大きく目を見開いて、もう一度窓の外の木を見上げる。そこにもう小鳥はいない。既にほとんど日は暮れていて、辺りは静寂に包まれていた。そっと窓を開けてみた。夜の少しひんやりとした風が、結衣の髪の毛を揺らした。
「私、どうしたいんだろうな……」
翌日、結衣が部屋から出ようとドアを開けると、そこにフィーネが立っていた。「結衣ちゃん、昨日はごめんね」と頭を下げるフィーネを見て「こちらこそ、強情になってすみませんでした」と謝る。
「それじゃ、もう許してくれるの?」
「ええ。考えてみれば、フィーネさんもロッティさんも黒須さんも、良かれと思ってやってくれたことでしょうし」
うんうんとフィーネがうなずく。結衣たちは総務課へと並んで歩いていった。
「ところでフィーネさん、昨日は結局どうしたんですか?」
「黒須さんの部屋に泊めてもらったの。彼女も学校に住んでるから」
「あー、そう言えばそうでしたよね。でも、なんでこの学校って、こんなに宿泊できる部屋が多いんですかね?」
「寮を作ろうって話もあったんだけど、学校長さんが『中にあった方が便利だろう』って」
「また、あの人か」
「うふふ。それでねそれでね。寝る前に黒須さんと反省会って言うか、昨日のことをお話ししてたんだけどね」
「もういいですってば」
「違うのよ。黒須さんと優馬さんって、ラノベ仲間なんですって」
「えっ!? ラノベ?」
「うんうん。結衣ちゃん、黒須さんとラノベで仲良くなったでしょ? で、結衣ちゃんに貸してあげようと思って、黒須さんラノベを抱えて歩いていた時、たまたま優馬さんとすれ違って、その話になったんだって」
「あぁ、それでこの前『次のラノベ、ちょっと待ってね』って言ってたのかな」
「そうそう。それで、ロッティさんが黒須さんにそれを聞いて、昨日のことがあったんだけど……って、その話はもういいかな。だからね、黒須さん『それが結衣ちゃんに誤解されたんだったら謝らないと』って言ってたのよ」
「誤解は私もしてたから、お互い様ですけどね。分かりました。私も後で黒須さんに謝ってきます」
結衣がそう言った時、廊下の先にロッティが走ってくるのが見えた。
「あ、いた! 結衣、大変なんだ」
「どうしたんですか? ロッティさん」
「優馬が……優馬が!」
「また、それですか? もう引っかかりませんってば。って言うか、何回同じ手を使うんですか?」
「違うんだって! 今度は本当。今朝、優馬が学校の近くで倒れてて、今医療課に運ばれたって」
「えっ、本当に……?」
「本当本当。今度は本当なんだって! 医療課の先生によると、まだよく分からないけど、意識がないって」
真剣な表情のロッティを見て、本当のことだと分かった。気がつくと、結衣は駆け出していた。
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