第18話 「お店を再建しましょう!」(6)
「ここで良いの?」
馬車から黒須が降りてきて、結衣に問いかけた。「黒須さん、タイミングばっちりですよ! ありがとうございます」と頭を下げる。学校を出る前、ニコとドンの準備の手伝いをしていた時、ニコとドンが「もしかしたら足りないんじゃないか」と言っていたのを聞いて、事前に黒須にお願いしていたのだ。
馬車からマックスたちが木材を降ろすのを見ながら、黒須は「これの代金、総務課につけとけば良いの?」といたずらっぽく結衣に言った。結衣が「あはは……出世払いで……」と困った顔をすると「冗談冗談。同好の士の頼みは断れないって言ったでしょ」と笑った。
夕方になるとデイモンにロッティ、エリオットも店に来て手伝いを申し出てくれた。そのお陰で、日付が変わる頃には、なんとか店内の改装は終了した。
「終わったー!」
「お疲れさまですー」
「疲れたぜぇ。もう動けん」
皆がへたり込んでいるのを見て、結衣はひとりひとりにお礼を言ってまわった。
「結衣ちゃんのお願いだったら、いつもでOKだからな」とはニコとドン。
「俺もこの店には世話になってるからな」と笑うマックスに、ロッティは「こんなに雰囲気が良い店になったんだから、もうあんたは遠慮しなよ」と茶化した。
そんなロッティを横目で見つつも、デイモンが「結衣殿には、お世話になりましたから、この程度のことは何でもありません」と言い「今度はロッティ殿とふたりで、この店に来たいとおもっております。できれば個室で」と声を潜めながら付け足した。
エリオットは「あれから仕事がグンと面白くなってきたんですよ。今ではマックスさんにも時々、剣術で勝てるようになりましたし、色々教えてもらったりしているんです。結衣さんのおかげです」と頭を下げた。
優馬は「結衣がまだいるんなら、俺も」と言ったが、黒須に「ほら、そこの子も乗った乗った」と無理やり馬車に押し込まれていた。
静まり返った店内に、結衣とフィーネ、ジークムントとエリーゼが残った。結衣は「あ、そうだ」と言って、カバンからノートを取り出した。「うちの学校の食堂があるんですけど、そこで働いているおばちゃんが料理にとっても詳しいんですよ」そう言いながらノートを手渡した。
「結構色々なメニューのレシピを書いてもらったので、良かったら参考にしてみて下さい」
「ありがとう! へぇ、知らない料理ばかりだなぁ。あ、でもこれ良さそう。ねぇ、あなた。」
ふたりでノートを見ながら新メニューの構想を練っているふたりを残して、結衣とフィーネも店を出た。
「うわぁ、もう真っ暗だし、人通りもなくって怖いですね」
「そうそう、知ってる? そこの細い路地あるじゃない。あそこって……」
「止めてくださいっ! 怪談でしょ? 怪談なんでしょ? そういうの駄目ですから!!」
「あは、冗談だよ」
「もう……。あ、でも、フィーネさんも、遅くまでお疲れ様でした」
「結衣ちゃんもね。今回、よく頑張ったよね」
そう言われて、結衣は嬉しくなった。以前だったら、こんなことは出来なかったかもしれない。仕事を通じて知り合ったり、助け合ったりした仲間たちの協力に感謝しながらも、自分自身も少しだけ成長できているのが実感できたのが、特に嬉しかった。
工事から2日後。うさぎの耳亭は新装開店の日を迎えていた。2日間でジークムントはノートを参考にメニューを新しくしていた。基本的な料理は残しつつも、客層を意識した酒場らしからぬ上品なメニューを取り入れていた。
結衣はそれを元にメニュー表を作った。ジークムントが仕込みをしている間に、エリーゼとフィーネは店内の飾り付けを行った。夕方にはほぼ全ての準備が完了し、ジークムントは「よし。それでは開店します」と緊張した面持ちで言った。
ほぼ開店と同時に、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー!」
結衣の元気な声が、店内に響いた。
それから数日後。結衣とフィーネは再び総務課へと帰ってきた。再び溜まりかけていた仕事をお昼も食べずに片付けた。お昼過ぎに「そろそろ休憩しましょう」というフィーネの提案に、結衣は大きくうなずく。
「うさぎの耳亭。お客さんが随分戻ってきてくれているみたいですね」
「うんうん、エリーゼさんもなんだか嬉しそうだったしね」
「ジークムントさん『これなら営業していけそうです』って胸張ってましたもんね」
「安売りしていた時よりはお客さん減ったみたいだけど、利益はちゃんと出てるって言ってたしね」
「このまま上手く行ってくれると良いんですけど」
「大丈夫よ、きっと上手く行くって」
「そうですよね!」
「あぁ、そうそう。結衣ちゃんにジークムントさんからお手紙が届いてたわよ」
「え? 何だろう」
結衣は封筒を手に取ると、封を切ってみた。中にはジークムントのお礼の手紙と、一枚の小さな紙切れが入っていた。
「なんだろう、これ? えっと『永久無料券』って書いてます」
「わぁ、凄いじゃない。これ持っていけば、いつでもうさぎの耳亭で飲み放題って書いてわるわよ」
「って、私お酒飲めないんですけど……」
がっかりする結衣の背後から「じゃ、あたしがもらっといてやるよ」とロッティが手を伸ばしてきた。
「わっ! 駄目ですよ。もらったの私なんですから!」
「いいじゃん、たまに使わせてよ」
「駄目ですぅ。ロッティさんはうさぎの耳亭のために、ちゃんとお金を払って飲みに行って下さい」
「けちー」
結衣は大事そうに、その券を抱えてべーっと下を出した。
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