第17話 「お店を再建しましょう!」(5)

 次の日。結衣は朝から施設課を訪ねていた。


「ライマー課長。私達って持ちつ持たれつ、ですよね?」猫なで声でそう聞いてくる結衣に、ライマーはギクッとした顔をしながらも「お、おぉう。そうだな」と答えた。


「私、ライマー課長のお願い、何度も聞いてあげましたよね?」

「そうだっけ……な?」

「その、新しい機械の使い勝手どうですか?」

「……そうだったな。聞いてもらったよ」


 ライマーは両手を上げて降参する。「で、何だ?」結衣は満面の笑みで、ノートを机の上に置いた。そこに書かれた図面を見せる。ライマーは渋い顔をしながらも、頭をボリボリとかいた。


「しゃーねーなぁ。おい、ニコとドン! おまえら結衣ちゃんに着いてって、手伝ってこい!」




 総務課を出た結衣は、食堂へと向かった。食堂は、朝ごはんの時間を終え、ちょうどお昼ごはんの準備前の休憩時間だった。顔なじみのおばちゃんを見つけると、声をかける。


「あ、おはようございまーす」

「結衣ちゃん、おはよう。あれ? さっき朝ごはん食べてなかったかい?」

「あはは、まだそこまでボケてないですよ。おばちゃんにお願いがあって」

「へぇ! 結衣ちゃんが私にお願いとはね。最近人手不足でてんてこ舞いだけど、今は暇だしね。良いよ、何でも言いな」


 結衣はノートを開いて、食堂のおばちゃんに説明をする。おばちゃんは何度かうなずいた後、声を上げて笑いだした。


「なんだよ、そんなことかい! お安い御用さ」



 結衣は昨晩、ジークムントとエリーゼに「店を変えましょう!」と提案した。「変えるって、どういうことですか?」と首をかしげるふたりに「安売りを止めるってことです」と言った。


 ジークムントは当初反対した。


「とんでもない! それじゃ元に戻るだけじゃないですか!?」

「いえ、私は変えるって言ったんですよ」

「……と言うと?」

「安売りを止めて、高級酒場に変えるんです」

「高級……酒場……?」

「はい。まぁ高級って言っても、誰でも通える程度のものですけど。私、ライバルの鳥殿下に行った時、思ったんですよね。安いし、そこそこ美味しいけど、なんだか混雑しているし、ゆっくりお話ししたい時なんかには向いてないんじゃないかなぁって」

「あぁ、それは確かに結衣ちゃんの言う通りかも」フィーネが合いの手を入れる。

「で、ここうさぎの耳亭は、鳥殿下に比べるともっと店内は狭いし、かと言って安売りをするんだったら、たくさんのお客さんを入れないといけないから、もっと混雑しちゃうんですよね」

「そう言えば、この前なんて店に入れなくて帰っちゃうお客様もいたものね」エリーゼもウンウンとうなずいた。

「そうなんです。だから、お店を改装しましょう。客席ももっと減らして、落ち着いた雰囲気で食事を楽しめるようにしませんか? 個室も作りましょう。きっとゆっくり飲みたい人には受けると思うんです」


 ジークムントとエリーゼは、結衣の説明を聞いて唖然とした。「酒場に個室……だって? 聞いたことがない」と言う。ジークムントはしばらく考え込んでいた。


「昨日おふたりは『お客さんに喜んでもらえるのが嬉しい』って言ってましたよね。確かに値段を下げれば、みんな喜ぶかもしれません。でも、一緒に飲みに来た人たちとゆっくりおしゃべりしながら、美味しい料理を食べたりお酒を飲んだり、そういう楽しみ方もあると思うんです」


 ジークムントの肩にエリーゼが手を置いて「結衣さんの仰っていること、私は正しいと思うんですけど、あなたはどうです?」と聞いた。腕組みして目をつむり結衣の話を聞いていたジークムントは、目をゆっくり開くと「ありがとう、結衣さん、フィーネさん! よし、やろう!」とエリーゼの手を取って答えた。


「しかし、個室を作るとか、改装とか言われても、先立つものが……」

「その点なら、大丈夫です!」ジークムントに向かってドンと胸を張った。




 お昼過ぎ、結衣がうさぎの耳亭を訪れると、店内には施設課のニコとドン。それにマックスに優馬までやって来ていた。「なんかよぉ。ロッティのやつが『結衣を手伝って来い』っていうからさ」とボヤくマックス。「僕は、そのマックスさんに『お前も来い』って連れて来られたんだけど」と苦笑いする優馬。


「じゃ、ニコさんとドンさんを中心に、改装を始めちゃって下さい!」結衣の言葉に「おー!」と全員答える。ニコが店内のサイズを測り、それを見たドンが店頭に置いてあった木材に印を付けていく。


「おい、兄ちゃん。ここで切ってくれ」と優馬にノコギリを手渡し、優馬は慣れない手つきで木を切る。切ったものは順番にマックスが店内へ運び、それをニコとドンが組み上げていった。


 夕方になる頃には、店内の一角に立派な個室の枠が出来上がった。結衣は「凄いですね。もうこんなに」と感動していたが、ニコは渋い顔をした。「やっぱり木材が足りねぇな。思ってたとおりだ」ドンは「かと言って、親方に『これでなんとかしてこい』って言われているしなぁ」と頭を抱える。


「大丈夫です。資材のことなら心配しないで下さい!」

 

 結衣がそう言った時、ちょうど店先に一台の馬車が止まった。

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