第11話 「それは直接本人に言った方が良いんじゃないですか?」(中)

 指定された時間に、学校の校門へと行くと、そこにはオルランドに、エリオット、そしてマックスが待っていた。「遅いぞ、結衣」文句を言うオルランドに「時間通りです」と言いたくなるのをグッと押さえる。


「で、どうするんですか?」そう尋ねると、オルランドは「まぁ、乗れ、乗れ」と近くに止めてあった馬車を指差した。馬車へ近づくと、中から「よぉ」「やぁ」と言う声が聞こえた。御者席を見ると、そこにはロッティと優馬が座っている。


「あれ? どうしたんですか?」と聞くと「いやぁ、なんか知らないけど、学校長が奢ってくれるっていうからさ」とロッティが嬉しそうに答えた。「さっ乗った乗った」とオルランドが結衣の肩を叩きながら「優馬を呼んだのは、俺の優しさだからな」と耳元でささやく。


 結衣は少しムッとした表情になりながらも、馬車に乗り込んだ。馬車にはジーンと施設課のライマー、購買課の黒須、警備課のデイモンが既に乗り込んでいた。「他の課のやつも呼んだんだが、なんか忙しいらしくってな。暇人はこれだけってこった」とオルランドが笑う。


 ロッティが鞭を入れると、馬車はゴロゴロ音を立てて走り出した。「どこへ行くんですか?」そう聞く結衣にオルランドは「良い所だ」とだけ答えると、隣に座っていたジーンに「なぁ、ちょっと頼み事があるんだが」と話しかけてしまう。


 結衣はマックスやライマーたちと楽しく話をしながら過ごしていたが、馬車の一番端に座っているエリオットだけは、どこか居心地が悪そうにしていた。やがて馬車は城下町へと入っていき、町一番の大通りにある一軒の店の前で止まった。


「着いたぞ! 降りろ」


 オルランドの言葉に、結衣たちは馬車から降りる。そこは一軒の酒場だった。以前、ロッティと来た店の倍以上はあるほどの大きな店だと、結衣は思った。「さ、行くぞ」とオルランドが張り切って言う。


「ちょ、ちょっと待って下さい」結衣がオルランドの袖を引っ張った。オルランドは「おう、お前ら先行ってろ」と言うと、結衣に「何だ?」と聞いた。


「もしかして、これってみんなで飲みに来たってことですか?」

「そりゃあ、お前。酒場に来て酒飲む以外に、何があるんだよ?」

「まぁそれはそうですけど……って、そうじゃなくって! 私、エリオットさんの件を何とかして欲しいって言ったんですけど」

「だからぁ、なんとかするために、ここに来たんじゃねぇか」

「もしかして、あれですか? 飲みニケーションってやつですか? 飲んで有耶無耶にしちゃうってやつですか? 駄目ですよ。今の若い人は、そんなの嫌がるだけですよ」


 オルランドはうんざりした顔をしながら「お前だって、若いだろうが」と、ぶつぶつ言った。そして「人に任せたんなら、最後まで任せろ。嫌なら、自分でなんとかしろ」と突き放すように言った。


 結衣は渋々ながら「分かりました」と答え、酒場へと入っていく。「あらあら、結衣ちゃ〜ん。こっちよ〜」いつの間にかフィーネまで来ているらしく、テーブルから手を振っていた。


 結衣はフィーネの隣に腰掛けた。テーブルを挟んでオルランドが座り「ここに座れ」と隣にエリオットを座らせる。そして別の席に座っていたマックスに「おい、お前はここだ」とエリオットの隣の席を指差した。


 結衣は嫌な予感がしていた。マックス自身は、エリオットに対して特に何とも思っていなかったらしく「おー、エリオットじゃねぇか」と言いながら、早速教練関係の話を持ち出していた。


 それを聞くエリオットの表情を見て、結衣は嫌な予感が的中していると確信した。なんとかマックスの話に相槌を打っているものの、顔は引きつっており、どこかぎこちない感じになっている。


「よーし、おめえら。今日は総務課の奢りらしいから、好きなだけ飲んで食え!」


 オルランドがジョッキを掲げながら、そう言うのを聞いて「ちょっと! 総務課の奢りってどういうことですか!?」と結衣が抗議する。しかし、その声は皆の歓声にかき消されてしまった。ロッティが「総務課太っ腹!」と言っているのを聞いて「あなたも総務課でしょうが」と小さく突っ込む。


「それにしても、こんなお店ありましたっけ?」結衣が店内を見回して言った。フィーネが「最近出来たばかりらしいよ。結構流行ってるみたい」と答えた。ふーん、と思いながら、ジュースを口に運ぶ。出来るだけ現実逃避したいと思っていた。


 と言うのも、目の前では見たくない光景が繰り広げられていたからだ。既にすっかり酔いが回っているマックスが「だからよぉ、剣術っていうのはな」とか言いながら、エリオットに管を巻いている。


 エリオットの方も、もう表面的な取り繕いをしようともせず、マックスの方も見ることなく、完全に無視していた。やはり逆効果だよ。結衣はうなだれた。時々注がれる、エリオットの視線が痛い。


 いたたまれなくなって、もう消えてしまいたいと結衣が思い始めた頃。ロッティと飲み比べをしていたオルランドが、ドンとテーブルの上に肘を着いた。


「おい、若造。勝負しようじゃねぇか」

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