第5話 BBAの加護
「衛兵はどうしたの?」
「いいから逃げろ!!」
「子供たちを優先して先に避難させろ!! 落ち着いて避難するんだ!!」
「教会に急げ!」
街中に響く混乱の声の中。流れに逆らうように進む私たち。気付くのが早かったためか、街の被害はない。私は少しほっとした。
「シャルデュンシー様が態々、戦場へ赴かなくともよろしいのではないのでしょうか。我々が敵を倒しますので、シャルデュンシー様も皆と一緒に避難されては如何ですか?」
「私はアイーネ国を守護する者。逃げ隠れするわけにはいきません」
「た、大変失礼致しました。私の軽率な発言をお許しください」
「いいえ。これは、私のワガママでもあります。『女神として国、民を守らねばならぬ』とは古くからの考えでもあり、掟や心構えがそれに通じております。それを守ることが、女神の一柱としてあるべき姿だと思っております」
彼の手を握り、微笑む。
「騎士レミファード。期待しています」
「が……命を懸けてお守り致します」
レミファード。貴方には期待しているわ。横目でチラリと将太を見る。
これから戦うってのにコイツ鼻く……ゲフン、ゲフン。女神が言ってはならぬ事を言いそうになってしまった……私も若いわね。
中から、一人の髪の乱れた若い女性がレミファードに駆け寄る。
「あぁ!! レミファードさん。どうか我々をお助けください」
「大丈夫。安心してください。魔物など、神聖なアイーネ国に一匹たりとも入らせません。女神シャルデュンシー様のご加護の下に」
「あ、ありがとうございます。女神シャルデュンシー様のご加護の下に」
「さぁ、早く避難を」
二人のやり取りを聞いていた将太がぼやく。
「けっ。BBAの加護か」
―――――おい将太。後で教会裏集合な。
「将太。そういえば、武器は携帯していないのか?」
「あ? んなもん要らねぇよ。喧嘩はステゴロに決まってんだろ!」
「ステゴロ?」
「武器を使わずに戦うことです」
「なるほど。己の肉体が武器……お前は武闘家か?」
「あ? ユーシャに決まってんだろ!」
「「……」」
いやそうじゃない。
白いレンガが高く積まれている門を抜け、平たい一枚岩でできた長い石段を駆け下りていく最中に数人の影を見つける。
「下に集まっているみたいね」
「そのようですね」
丘のような草原に剣やスコップを持った男たち数人と、甲冑を着た兵士らしき者が十人程度いる。一人、兜をかぶっていない指揮官と思われる人もいる。
我々に気付いた兵士たちが
「ん! あの御方は」
「レミファード様!」
「心強い御方だ」
草原に降り立った直後、指揮官らしき頬のこけた老人が私たちに声をかける。
「レミファード殿。来ていただけましたか……そちらの方々は?」
「女神シャルデュンシー様と勇者・将太です」
「なんと! 女神様に勇者様。しかし何故、女神様がここに」
私は、レミファードに言ったことをそのまま伝える。
「……わかりました。シャルデュンシー様のご意志になるべく沿うようにいたします」
「無理を言ってすみません。戦闘のサポートはお任せください」
「お心遣い感謝いたします」
レミファードは指揮官に尋ねる。
「シリス殿。状況は?」
「見張りの者の活躍もあって、『怪しい影がある』といち早く気付くことができました。戦闘はまだ行っておりません」
「そうでしたか。その者には後で礼を言わねばなりませんね」
「全くです」
「しかし、奇妙ですな」
「ええ。我々が気付いた時にはもう、その場で立ち尽くしていたのです」
ギリギリ視認できるところに、凍り付いたように動かない白い集団。数はざっと百弱。
「おい! なんだあれ。骨か?」
歯切れが悪そうに一人の兵士が応える。
「スケルトンという名のアンデッドです。恐らく、魔王軍の尖兵かと」
「ほぅ。アイツらがマオウか」
「武装しているのもちらほら……もしかすると」
「えぇ。自然発生したものでは」
レミファードは手を顎に当て、考える。
アイーネ国を狙っている者の仕業……いや、シャルデュンシー様を狙っているのか。指揮官らしき者も今のところ見当たらないし、交渉をしに来たわけではなさそうだ。意図が見えない……
若い兵士が石段を駆け下りてくる。
「全住民の避難完了いたしました」
「ご苦労。総員、第二次戦闘態勢」
「「「はっ!!」」」
「なにしてんだ? テメェら」
「『なに』と申されても。我々はアイーネ国もとい、国民を守るために防衛のための戦闘を……!? 勇者様お一人では危険です!!」
「将太!」
うんぅもうあのバカ! なんで、集団行動ができないのよ!
「……仕方があるまい。我々も勇者様に」
「お待ちください!」
「レミファード殿?」
「シャルデュンシー様。私に出撃のご許可を」
「……あのバカをお願いします」
「畏まりました。皆様方、シャルデュンシー様をお願致します」
「我々が命を懸けてお守り致します」
「感謝致します。では」
レミファードは、打ち出された弾丸の如く草原を駆けて行った。
「速い!」「流石は隼の騎士だ」
「鎧を着てもあの速さ。流石『隼の騎士』の異名は伊達じゃないですな」
私は近くに居た兵士に尋ねる。
「彼ってそう呼ばれているのですか?」
「はい! 剣技はどれも音速を超えているとか。実際に見るのは初めてですけど」
「そうなの?」
「レミファード様が剣を抜くなど稀の稀ですから」
「稀の稀ね……」
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