第4話 BBAはBBAだろ
「きゃっ! どうしたのいきなり?」
「あぶねぇな!! ヤんのか?!」
「シャルデュンシー様に対して……貴様! 勇者だからといって」
彼の右手に持ったレイピアがカタカタと震えだす。
「待ちなさい! 駄目よ。ここで闘っちゃダメ!!」
「コイツの無礼を見過ごすわけにいきません。いくら勇者であろうと、シャルデュンシー様に向かって……BB。侮辱しているとしか考えられません!!」
彼の言葉で驚愕の事実を知った。
はっ! 私、BBA慣れしている。私、女神なのよ……光の女神・シャルデュンシー。なのに、なのに……。
女神は固まったように動かなくなった。シャルデュンシーは一時的に思考不能状態になってしまった。
「BBAはBBAだろ」
「二度ならず三度も……生きては返さぬ!!」
「そう来なくちゃな! 喧嘩しようぜ!!」
一触即発かと思われたそのとき、教会の奥のドアが開く。中から司祭服を着た老人が姿を現す。
「おやおや。レミファード殿」
「!! ペトス司教」
「おい!」
「また今度だ!」
「ちっ。仕方ねぇな」
「レミファード殿のお知り合いの方ですか?」
「ペトス司教。こちら」
「ユーシャの悪垣将太だ。おっさんアンタは?」
「貴様! ペトス司教に」
「私はペトスという者です。ここサダス教会で司教をさせていただいている者でございます」
「へぇ。こんな、でっけぇとこ任されてんのか。んじゃ偉いんだな」
「いえいえ。勇者様ほどでは……ん? そちらのご婦人のお顔どこかで」
「ペトス司教! 女神シャルデュンシー様でございます!!」
「なんと! シャルデュンシー様でございましたか!!」
「おい。BBA起きろ」
将太は気の抜けた声で女神の肩を揺さぶり、起こした。
「んぇ」
「なんと。尊きお姿」
私に眩しいほどの視線を向けた男性が、瞬き一つせず見惚れていた。
「あの、どちら様でしょうか?」
「これは失礼致しました。ペトスという者で………」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
突如現れた女神は教会関係者に埋もれていた。
二人の男たちは、それを礼拝椅子に座りながら見守る。
片方は手を膝に置き行儀よく座る。もう片方は前の背もたれに両足を乗っけている。
態度のデカい男がつぶやく。
「BBAって有名なんだな」
「貴様! またしても、シャルデュンシー様に向かってBBAなどと!!」
「よせよ。今は喧嘩したくねぇんだ」
「ふん」
「なんかよ。ここにいると安らぐっつうか。妙に落ち着くんだよな」
「その点については同感だ。サダス教会含め、アイーネ国は素晴らしい国だ。人と自然の調和がとれている……きみもそう思うか」
「んだよ」
「貴様ではない。精霊に話しかけたのだ!」
「そうかよ。気持ちわりぃ野郎だな」
「貴様は馬鹿そうだ」
「「はははははははは」」
「殺す!!」 「ぶった斬る!!」
「やめなさい!!」
「「グオァッ!!」」
女神の拳骨で二人を沈黙させ、そのまま床に正座させる。
「何? 貴方たちの血はエーテルで出来ているの?」
たん瘤を頭にのせた二人を叱る。二人して沸点低すぎよ!!
「ん? 外が騒がしいな」
「コラ!! まだお説教は終わってないわ」
入口の扉が強く開かれる。息を切らした中年の男性が転がり込んできた。
「ペトス司教!! た、大変です!!」
「どうなされましたか? やけに外が」
中年男性の後ろから若い男が続けて入る。
「魔物の群れが来ている!! 急いで避難するんだ!!」
「将太!」
「あ? んだよ。ここに来てっから、すげぇダリィんだよ」
「……喧嘩ができるわよ」
「なら。シャーねぇな」
ふっ、単純。
「シャルデュンシー様。私もお供します」
「レミファード。あなたも来てくれるのね。頼もしいわ」
「女神様をお守りするのは騎士の務めです」
「ありがとう」
「ペトス司教。行ってまいります!! お早く避難を」
「はい。レミファード殿ももちろんのこと。勇者・将太様。お気をつけてください」
二人が出ていったその後を追うように、私も扉を潜る。
「え。シャルデュンシー様も行かれるのですか?」
女神は振り返る。
「ええ。女神ですから」
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