第39話 クロ「お、おまえは……!」
ぺろりとおにぎり二個とたくあんを食べた俺達は、お茶を飲みながら一息。
まさか米だけじゃなくて花見までできるとは、最高です異世界。
「二人とも、気に入ったものは無かったのか?」
「すみません、俺はないです」
「私も、それに成人の時国からもらえるらしいので、今は安物でいいかなーなんて」
「駄目だ、安い物などすぐ壊れるに決まっておる。では鍛冶師を紹介して……」
「お話中のところ、申し訳御座いません」
近くで待機していた眼鏡のお姉さんが声を上げる。
「どうした琥珀、申してみよ」
「はっ。陛下のお連れ様方は迷い人でしょうか?」
「そうだ、これは内密だぞ。お前が言いふらした場合、それ相応の罰を受けて貰う」
「陛下のご意志に従います」
「うむ。それで?」
「はい。迷い人でしたならば、我が家に伝わる二振りをご覧いただこうかと」
「あぁ、あの打刀と脇差か。確か賢者の遺言があったな?」
「はい、我が祖である賢者セータ様は『この刀を持つ方に、永遠の忠誠を』をと。我が一族も遺言にのっとり、刀の持ち主への忠誠を誓っております。現在は陛下にお預けしているため、大変申し訳ないのですが……」
「よい、賢者とは一度会ったことがある。賢者の人間性、その功績は素晴らしいものであった。その意志を継いだ一族がいたからこそ、今のヤマトがあると言っても過言ではない。そろそろ本来の主を見つけてもよいはずだ。……まぁこ奴ら、ではないとは思うがな」
「持って来い」と上総介様の許可を貰った眼鏡のお姉さんは蔵の中へ。持ってきたのは赤塗り鞘が目立つ打刀と青塗り鞘の脇差。どちらも柄巻きの色は黒で統一されている。あの鞘な青時雨っていうんだぜ。何で知っているのかって?
俺のだよ、あの脇差。多分だけど。
俺とシロの前に置かれた二振りの刀。俺達は顔を見合わせて、首を傾げる。
あれぇ、ここ異世界だよねぇ?
「この刀は持ち主以外は認めない魔法がかかっております。折角ですから触ってみてください」
「どうぞ」と言われて、俺は脇差。シロは打刀を手に取った。
よくみると鍔には金で描かれた揚羽蝶の模様。鞘には銃身で引っかけた傷もある。完全に俺のです。なんでこんなところに……たしか賢者のものって言ってなかったけ?
シロは赤、というよりも紅色に近い鞘の打刀を上から下まで確認している。シロのだよな、うん。
「あのー、これ賢者様の刀なんですよね?」
「いいえクロ様。この二振りは賢者ソータ様が仕えていた方々のものだそうです。賢者様はこの二振りの刀と共に、この世界の迷い人になりました。柄を持ち、鞘から抜いてみてください。宿った魔法が名を名乗るよう伝えてきます。名を伝えると鞘から刀身が抜けるようになりますが、ただそれだけです。刀に認められると何かが起こると言い伝えられています。抜くたびに名前を聞かれますから……実用的ではありませんね」
抜けんのかい。どこかの聖剣みたいに抜いたら王様! ってわけじゃないのか。抜くたびに名前を聞かれるのも面倒くさいな、俺の脇差だったのに賢者様のせいでこんなことになって。
賢者誰だよ、知り合いだよな?
シロに「先にどうぞ」と言うと「何でや」とツッコみをされたが、大将から試すのがセオリーだろ?
溜息を吐くシロは立ち上がって右手で柄を握り、左手で鞘を掴んで、抜いた。
瞬間、響いた男の声。日本語で『我の主か。名を告げよ』と言っている。これどこから聞こえてんの、魔法? 魔法スゲー!!
「シロ早くなまえなまえ!」
「え、これ日本語でいうの?」
「日本語で言った方がいいぞ。昔レオンがこの世界の言葉で試した時があってな『ハッ』と鼻で笑う声がしてすぐに消えた。ワシが日本語で試した時は、丁寧に違うと言われたんだがな」
「わ、わかりました」
鞘からちょっと刀身を抜いた状態で、シロがこそっと俺に聞いてくる。
「ねぇ、名前って本名フルネーム?」
「どっかの伝説とかだとフルネームだな。我が名はアーサー・ペンドラコン! とか。此の方御上意、新選組局長近藤勇、推して参る! とかあるじゃん。そんな感じでどうぞ」
「えぇ……上総介様の前で言うの? まぁ生きた時代違うし、大丈夫か」
「折角だし格好つけて言えよ!」と言えば、シロは笑ってから、目を閉じ「すぅ、」と息を吸った。
おぉ、格好いい、子どもの姿だけど大人の姿が見えるようだぜ。いや、みえないけどさ。心の目でみると見えそうだろ?
『我が名は、深山真白。野衾が大将、深山真白である』
『真の名だと、嘘偽りはないか』
『我が名に懸けて、偽り無いと誓おう』
≪────承認 スキル発動 大賢者≫
「はい?」と格好つけてたシロが素に戻る。刀身が突然輝き出したので慌てて鞘に戻した。
しかし、刀から『何か』が飛び出し、敵襲か!? と眼鏡のお姉さん琥珀さんが俺達を守るように短刀を抜いた。上総介様も太刀を抜き、シロと俺はナイフを瞬時に構えた。
飛び出て来た何かは、煙のようにみえる。
煙は桜の花弁を巻き込んで、ブワリと大きな風をおこした。
だんだんと形が明確になっていき、白い狩衣に似た服を着る男の姿に。
二十代後半、黒い髪、散切り頭という名のショートヘアー。丸い眼鏡をかけたその男は、ふわりと優しく俺達に笑いかける。
『大将、お久しぶりです。あぁ、副大将も……』
「「んんんん!?」」
「清太!?」と俺とシロが叫ぶと、清太は『はい。そうですよ』といってシロに笑いかける。あ、そいやこいつ
「清太、え、清太!?」
『はい深山さん、清太ですよ。あなたの柏清太です』
「いや、ちょっと待って……クロ! ここどこ!?」
「異世界だよッ!! 異世界召喚されたじゃん!! されたよね俺達!?」
『異なる世界であっていますよ。そうでなければ、死んだ筈の俺と深山さんがこうして再び会うことは有り得ません。ところで深山さんは何故可愛らしいお姿になっていらっしゃるのでしょう? 副大将も子ども姿ですね、小さい時は可愛かったんですねアンタ』
「おう、よく言われるわコノヤロー。ガキの姿なのは色々あるんだ。あと、シロは元から女だぞ」
『え、深山さんは女……女性!?』
『本当ですか!?』とシロに詰め寄る清太はフワフワと宙に浮いている。うん、清太だ。何で狩衣を、平安時代の生まれでもない奴が着てるのか謎だけど。いや、ツッコミどころはそこじゃない。
「女で悪かったな。それより何で私の刀に変な細工をした? あとその姿は何?」
『いいえ、いいえ! 悪いだなんてそんな!! あぁ何故俺は実体を持っていない!? 持っていたら深山さんとあんなことやこんなことがっ……!』
スパンッと清太の首が斬られた。「あ、」と俺が声を上げる。シロが刀を鞘に戻しながら真顔で「ギルティ」と言っていた。シロ、貞操の危機回避です。
斬られた清太は、断面が煙になった首と胴をくっつけ『冗談ですよ、冗談』と笑っている。目はマジだ。
こいつに身体がなくてよかった。よかったのか……? ぼくもうよくわからないよ!
「質問に答えろ、柏清太」
『わかりました、まずは俺が迷い人になった経緯をお話しましょう。俺は大将が函館で亡くなったと聞き、せめて御身だけでも連れて帰ろうとしました。しかし、大将の打刀しか見つけることが出来ず帰還。その後副大将も肺炎で死んだので、仲間内で葬儀しようとしたら副大将の遺体が消えて大騒ぎしたんです。残ったのは脇差だけでした。野衾も完全解体され、俺は生きる意味を失くしてしまいました。そして大将と副大将の言いつけ通り、刀を海に捨て、俺も海に身を投げまして』
「何で身投げするの!?」
『だって貴女がいない世界ですよ!? 副大将の面倒を見ろと言われていたので、死ぬまで面倒みてましたけど。そうでなければもっと早く深山さんの元へ行けたというのに』
「え、俺の所為?」
『そうですよ!! 死んだ筈の俺は、異なる世界に迷い込んでいました。何度も死のうとしました、深山さんに会いたかったので。そしたら創造神が言ったんですよ『かの魂はまだ生きている。お前の生きている内に、こちらには来ない』って。なので俺が死んでも側にお遣いできるように、俺の意識を打刀と脇差に植え込んでおきました!』
えへん! ほめて! と言わんばかりにシロの周りを飛び回る清太。子どもの周りを飛ぶ大人とか唯の変態じゃないか。昔はささやかな主張だったんだけど、死んで箍が外れたのか?
「あー、クロさんや。マインドコントロールはどうやって解くもんかね?」
「知らんわ。清太、創造神ってお前の脳みその中にいるやつ?」
『この異なる世界を創った神のひとりですよ。二人ともこちらに来る時会いませんでしたか?』
「「会ってない」」
『可笑しいですね。創造神が連れてくるとおっしゃっていたんですが』と不思議そうに首を傾げる清太が、危ないカルトにでも入った人のような台詞を語る。俺達がこの世界に来ることは確定事項だったの? え、やだ、こわい。
二人でちょいちょいと鞘に入ったままの刀で清太をつつく。煙のように実体がない清太を面白がっていると、二つの視線に気づいた。
上総介様と眼鏡の
やばい! と二人揃って振り向くと、上総介様は目を大きくかっぴらき、琥珀さんは短刀を地面に落としていた。
「あ、あのこれはですね……」とシロが声をかけると、琥珀さんが「賢者様!!」と正座し頭を下げる。賢者様と呼ばれた清太は『あぁ、俺の子孫ですか。名前は?』と面倒臭そうに聞く。
しかし、琥珀さんは答えない。あれ? と思っていると、気づいた上総介様が「琥珀よ、賢者はお前の名前を聞いているぞ」と教えた。優しいな織田信長。
「申し訳御座いません、異世界の言葉は不勉強でありました。私はカシワ家第十四代当主
『俺の子孫のくせに不勉強とは、残念です。深山さんどうしますこの女、斬りますか?』
「なんでそうなる」
「日本語なんて勉強する意味無いでしょこの世界は。清太がこっちの言語で話せばいい」というシロに対し、清太は『刀に宿した魔法を日本語で組んだので無理でーす』とそっぽを向いた。
俺達は異世界言語で話してるんだけどなー。言葉は理解できるけど、その言葉では話せないってことか。仕様変更案件だ、不便すぎるぞ。
「あ、あの。陛下、賢者様は何と仰られましたか?」
「あー、……精進しろと言っている」
「は、はい! 大変申し訳ございません!!」
上総介様グッジョブ!! オブラートに包んだ言い方最高です! 本当にあの織田信長かよ!
ふわりふわりと浮く清太はシロの横を定位置にしたらしい、背後霊みたいになってるんだけどこわい。背後霊な清太君は俺の持っていた脇差を指さし『副大将も、さっさと名前登録してください』という。……するのはいいんだけど、清太がもう一人発生するとかないよな?
ちょっと不安になりつつ、抜刀し名前を言った。
『黒田海斗、です』
≪────承認 スキル発動 大賢者≫
『はい、これで俺は副大将の味方にもなりました』と軽くいう清太に少し苛立つ。俺の脇差に演出はなしかよ!!
「賢者セータよ、ワシを覚えておるか?」
『織田信長様ですね。お久しぶりです、お姿はお変わりないようですが不老不死の薬が完成したのですか?』
「不老不死の薬なんぞ、人道的ではないとお主の時代から禁止されていたであろうが。ワシは迷宮で不老の薬を間違って浴びただけだ。あと二百年ほどで効果は切れるがな」
『不老の薬がでる迷宮がまだ残っていたんですね。是非大将たちにも浴びて欲しいところです。ね、深山さん』
「え、やだよ。普通に歳とって死にたいし」
『俺に再び貴女の死を見ろというのですか!?』
「そ、そんなこと言われましても人間死ぬ時は死にますからー。だよねクロ!」
「そこで俺に振るのぉ?」
「しらないよーやめてぇ」と返せば「役に立たねぇ副大将だな!!」と胸倉を掴まれて何度も揺さぶられた。やめてー頭がシェイクされるーこれ以上俺の頭の中を混ぜないでー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます