第38話 クロ「おこめたべろ!!」




 イベント発生────お米を食べよう!! 


 ということでギルド本部長に見送られ俺とシロは、上総介様のおうちにご招待されました。えぇ、おうちです。決してお城とか言いません。日本の城百選とかに出てくるようなお城とか言いません……。


 ヤマトノ国首都エドの丁度中心地に建てられている、白い壁が特徴のお城。上総介様曰く、当時いた迷い人や生き残った召喚者達と一緒に建てた日本風の城なんだとか。

 城下も日本風なのは意図的らしい……異世界の世界観ぶち壊さないでくださいよ。


「城の中は広いからな。転移門を起動させて一気に進む。これは内緒にしてくれ」


 ウインクした上総介様は大門の前に手を翳し〈転移 武具保管蔵へ〉という。すると門が大きく開き、向こう側の景色が見えた。

 手を引かれながら、元の世界でも見慣れている大門をくぐる。砂利のひかれた道を進み、大きな日本庭園を鑑賞しながら歩くこと数分、大きな蔵の前についた。

 蔵の中に入ると、中にいた眼鏡をかけた女性が気づき頭をさげる。


「陛下、お越し下さり感謝いたします。この度の御用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「うむ。こ奴らに合う武器をなと思ってな。あと、握り飯とたくあん、茶も用意してくれ。同郷の者としてもてなしたい」

「畏まりました」


 眼鏡の女性が頭を上げ、俺とシロを見た。すぐに視線を別の方へ向け、どこかへと行ってしまったが。視線が妙に気になった、それに誰かに似ていたような……誰だろうな。


「飯がくるまで、ワシの集めている武器を見ていってくれ。手に取っても構わん、気に入ったら教えてくれ」


 「この棚にあるものは全て刀だ。手入れはワシがしておる。どうだこの太刀の輝き、鬼族が打った名刀だぞ」と色々説明してくれるが、俺は聞き流している。シロは真面目に聞いてるけど家に帰ったら忘れるだろうな。

 刀には興味あるんですけどね、使い勝手最優先だったもんだから。持っていたのは無銘の刀だったし。


 部屋にずらりと並ぶ刀や剣、槍などの武器。気に入る物があれば持っていっても構わないと言われたが、特別気になるようなものは無い。二人揃って博物館の客になったかのように「へー」と言いながら見学していく。


 しばらくすると、眼鏡のお姉さんが帰ってきた。


「陛下。今の季節は春です、迷い人様がつくり出したサクラという花が咲いております。そちらで頂いてはどうでしょう」

「桜か、そういえば一本だけまだ残っていたな。シロ、クロ。外で食うおうぞ」


 桜!? と驚いている俺達を引っ張って上総介様は外へ。蔵の裏手にある小さな庭には、見たことのある樹が悠然とたっていた……薄い色の花びらがひらひらと舞う。満開の桜だ。

 その下に座れるよう赤い布が敷いてあり、座るよう促される。おにぎりとたくあんがのった皿を渡され、此処はどこだっけかな? と一瞬意識が飛んでった。


 おにぎりを手で掴み、一口。もっちりとした食感、ちょっとの塩気。中には昆布の佃煮だろうか……ここ異世界だよね。米の味も、佃煮の味も元の世界で食べたものと変わらない。おいしい。

 ちょっと泣きそうになって、目が熱くなった。シロは皿を持って、茫然と桜を見上げていた。あ、まだ桜に感動してる方ですか。日本人は桜が大好きですからね。


「美味いかクロ」

「美味しいです。まさかこんなちゃんとした米が食えるなんて……」

「この世界に米は存在していたんだが、不味くてな。迷い人が何百年も改良を続け、ここまで美味くなったんだ。感謝して食え」

「はい!」


 桜から意識をおにぎりに向けたシロが「うまっ。米じゃん!!」と騒ぎ始めた。そんなシロを面白そうにみつめる上総介様。燃やすのが大好き織田信長だと構えていたが、悪いひとじゃないんだよなこの人。

 何で裏切られたんだろうね。裏切られたからこそ、今の上総介様がいるのかもしれないが。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る