第37話 クロ「おっさんの種類は多い」



 俺達は以前連れて行かれた酒場ではなく、ギルド本部へ連行されていく。

 しかも裏口から入り、職員から隠れるように侵入。忍者屋敷かと言わんばかりの隠し扉の数に圧倒されながら、着いた部屋にはハゲでちょっと小太りなおっさんがいた。誰デスカネ。あ、悪魔討伐の時ヒーラー役やってたハゲのおっさんか!


「おや、カズサノスケ様。如何なさいました?」

「気持ち悪い口調はやめろ。いつも通りに話せ福太郎」

「えー上総介君国王様でしょー? 僕は一介のギルド職員にすぎないのにー」

「福太郎こそ何言う、お主はギルド本部の長だろうが。いやそんなことよりも、この度の事件の功労者を連れてきたぞ」

「無理矢理連れて来たんでしょー? ごめんね、シロちゃんクロ君」


 「この人いつも強引なんだよー」と語尾をのばすハゲのおっさん、ではなくギルドの最高責任者、所謂総大将。

 そして織田信長様とお知り合いで、何でか俺達のやったことを知っていて……よーし、シロに任せちゃおう!!


 シロの肩にポンと手を置けば、ブリキ人形のように首を動かして俺をみた。「お前、まじぶっころだぞ」と目で語ってくる。ごめん、俺も無理なんだ。この状況が全く分からないんだ。


 目の前には、ヤマトノ国王の織田上総介信長とギルド本部の長がいる。

 俺達が悪魔討伐をしたことを、何故か知っている。


 ほわい?


「あの、えっと、すみません。ここに連れて来られた意味がわからないので、説明してください……」


 シロが疲れたように言った。ギルド本部長は「ほらー! いつもちゃんと説明しないと駄目だっていってるでしょ!」と織田信長様に言い、笑顔を俺達に向けた。スーツ着てたら完全にサラリーマンだよ見た目は。


「僕はギルドを取り仕切ってる『福太郎ふくたろう』っていうんだ。君たちは召喚者だから日本語は話せるよね? 僕は父が召喚者でね、日本語は話せるから是非日本語で話して欲しいな。今から話すことは機密になるだろうからね」

「迷い人ではなく召喚者だと? ワシにそんな報告は上がってないぞ」

「僕が止めたんだ。子どもの召喚者なんて初めてだったし、上総介君がすぐ捕まえそうだったからね」


 『日本語でお話しよう?』とギルド本部長にせっつかれ、シロが渋々口を開く。


『わかりました。それで、連れて来られたのは……』

『君達が悪魔ガープを倒してくれたからだよ。大丈夫、ガープを倒したのが君達だってことは僕と上総介君しか知らないから。君達のお目付け役のレオン君も気づいてないよ』

『いえ、あの、悪魔を倒した人は私達の目の前を横切って行ったんです。私達じゃありません』

『そうだぞ福太郎。こ奴ら召喚者とは言え、まだ子どもだ。鑑定を使えるようだが、ヤジロベエが使う大太刀『金色金剛丸こんじきこんごうまる』を振り回せるとは思えん』

『いーや! 僕はあの時、回復ついでに鑑定したんだ。そしたら『シロ、レベル一』って出たんだもん。『シロ』なんて名前、君以外に聞いた事なかったからビックリしたんだよー』


 あ゛ー! ツメが甘かった!! 鑑定スキルのことすっかり忘れてた!!

 『やっちまったな、シロさんよ』と言えば、口の端をピクピク痙攣させるシロがいた。俺達には江戸時代がお似合いのようです、魔法とスキルの世界には慣れません。


『不思議なのは、レベル一でガープを倒したことだね。上級悪魔はAランクなんだけど、ガープは精神操作のスキル持ちだったから、Aランクでもかなり強い魔物になるんだよ? ということはシロちゃんはAランク冒険者、レベル七十くらいはないと可笑しいんだ。だけど僕の鑑定スキル神級でも、君のレベルは一と出たんだよね。ということは、本当にレベル一か、または神級の隠蔽系スキル持ちかってことになるね!』

『ふむ、福太郎の話が本当ならレベル一は有り得ない。戦闘系スキルを持っていたとしても、スキルに身体がついていかないからな。本来のレベルは幾つなんだ? 剣術のスキルも持っているだろう、あの大太刀で悪魔の巨体を脳天から突いたのはあっ晴れだ。ヤジロベエでもできん』

『も、黙秘します……』


 『勘弁してください……すみません』と頭を下げるシロに、俺も頭を下げた。正直言って、俺達のことはどう説明すればいいかわからない。能力がバレると面倒事を押し付けられるかもしれない。なので、黙っておいた方が楽でもある。

 だが、相手は国王とギルド本部長だ。どこまで黙っていられるか……まぁ大部分はバレているんですがね。


『クロ君も魔法銃での牽制凄かったよ!! 魔法銃であれだけ撃てるってことは魔力が相当あるんだね! いいなぁ。僕も魔力もう少し欲しかったんだけどねー』

『福太郎もかなりあるだろう』

『ないよー! 今回も冒険者百人近く回復させたんだけどさー、結構ぎりぎりだったんだよー?』

『福太郎は魔力制御が下手くそなだけであってな……いや、お主のことはどうでもいい。シロ、クロ。お主たちは自身の持つ力を話たくはないのだな?』


 こくり。二人同時に頷けば、『わかった。だが、ワシはお主たちの強さがAランクだと判断する』と織田信長様が真面目な顔でおっしゃった。


『ワシは戦う姿をみてはいない。だが、悪魔につけられた刀傷は手練れのものだった。銃での攻撃も百発百中だったと聞いている。お主たちは見目は子どもだが、死線をくぐってきた武士だというのは大方予想ができる。そしてワシは君主だ。この度の業績に対し、褒美をやらねば面子が立たぬ。言っておくが回復薬如きはした金だ、期待して待ってろ』

『流石上総介君、格好良い!』

『……福太郎、お主には毎度苛立ちを覚えておる。そろそろ火をつけるぞ』


 手のひらにボッと赤黒い炎を出した織田信長様。対しギルド本部長は「えー? 僕に燃やす髪はないよー?」と笑っている。どんな関係なんだこの人たち。あの織田信長にへらへらしているギルド本部長も凄いが。


『君達の能力を知りたいけど強制はできないからね。僕はギルド本部長として、全冒険者の長としてお礼を言うよ。悪魔ガープを倒してくれてありがとう、君たちはギルドとヤマトノ国の守ったんだ。誇っていいことだよ。でもAランクの称号はいらないんだよね? 未成年だからあげられないんだけどねー』

『あの、私達が悪魔を倒したことは認めますから。事実は隠してもらえませんか?』

『いいよ。けど、自慢できるのにいいの? 冒険者はランクを自慢してなんぼだと僕は思っていたんだけど』

『私達が悪魔を倒したようには、普通見えませんよね。いらない喧嘩を買うだけなので隠しておいてください』

『成程ね、君は自分の立場をよく理解してる。わかった約束するよ。だけど、報奨金は君たちのギルド口座に入れておくからね。白金金貨で十枚なんだけど、銀貨と銅貨にしたほうがいい?』

『あ、そうしてください。俺とシロ半分半分でお願いします。この際なんで聞きたいんですけど、刀と銃、あと弾売ってる店ってヤマトノ国ありませんか?』

『財布を握ってるのはクロ君かー。うん、銃なら『ナガサキの町』にいい店があるよ。ちょっと遠いから転移魔法陣で行った方が楽なんだけど。こんど僕が連れて行ってあげる。刀は上総介君がいい鍛冶師を知っているから、お金もあることだし作ってもらいなよ』


 「ね!」とギルド本部長が織田信長様を見た。織田信長様は頷き、『鬼族の打つ刀は業物が多い、気に入る筈だ』と頷いている。これで刀もゲットできるし、俺が隠れて欲しがっていた別の銃も手に入れられそうだ。ラッキー。

 日本語からこの世界の言葉に戻し、「他に欲しいものは?」と聞かれてシロが思い出したように言った。


「お米ってこの世界にないんですか?」


 「白米が食べたくて」と言ったら「わかるぞ、その気持ち」と上総介様が大きく頷いていた。

 ギルド本部長は「召喚者も迷い人も、お米が好きだねー」と笑っていた。あるのか、米。米はあるんだな!?




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