第36話 クロ「まおう、さいらい」



 異世界召喚され、冒険者として華々しいデビューを飾った……わけじゃないけど。イベントらしいイベントを乗り越えた俺とシロ。


 シロは悪魔討伐で全身筋肉痛になったらしく、次の日ベットの上でのたうちまわっていた。普段は魔法銃を使っているから、刀は久々だ。しかも自分の身長の何倍もある大太刀を持って跳ねて走り回れば筋肉痛になるのも納得。江戸時代では人間が相手だったが、今回は巨大な悪魔なので勝手も異なったようだが。


 まぁ、能力補正チートのない江戸時代であんなワイヤーアクション以上の動きができたら、無双してますけどね。


 俺も魔法銃の新たな使い方を発見してほくほく顔ですよ。敵が多すぎて撃ち落とし切れないなーとか思ってたら、シロが攻撃喰らって「やべ、大丈夫か」とか思ってた時に気づいた。

 魔法銃で魔力の篭め方と詠唱を変えれば、ガトリングガンみたいにさ引き金を一度引くだけで超高速連射が出来たんだよね。そこからテンション爆上がりで、丁度いい具合に的も大量に召喚されたんだ。


 これは試すっきゃないっしょ!

 銃で弾幕を張るの夢だったんだー! 


 好き勝手ぶっ放せて楽しかった。と、シロに話したら「楽しんでじゃねぇよ黒田ァ」と怒られた。


 魔法銃は俺のメイン武器にして、シロは安物の刀でも手に入れるかという話になった。ヤジロベエ様があれだけの業物を持ってるなら、売ってる場所も知っているだろうということで。俺とシロはAランクパーティー「紅蓮の獅子」の拠点に向かって、冒険者通りと言われる通りを歩いていた。


「シロー、レオンさんに「何故刀なんだ」って聞かれたらどうする?」

「悪魔討伐した人が使ってて格好良かったから。とか子どもらしく言えば大丈夫でしょ」

「子どもって便利だなぁ。あ、手土産いらないかな。薬とかさ」

「あー、夢幻草店寄ってく?」

「いこう! 予算は二人合わせて銀貨二枚程度だな」


 俺は使い慣れた二つ折りの財布を覗くと銭貨がちょっとと、銅貨三十枚。これが俺の手持ちの小遣いだ。異空間収納に仕舞ってある共同費は俺が管理してるし、シロも金を使う方じゃないから銅貨十枚くらい持ってるだろう。

 ちなみに銅貨は日本円で千円くらい。下級回復薬一本銅貨三枚ってことは、三千円ってことだ。物価が高い。


 その辺の屋台で売ってる揚げ芋は銭貨五枚くらい。約五百円。学食ならラーメンとご飯を食った後に、缶コーヒーが飲める値段だ。比べたら負けですね。


 通りから外れて小道を進むこと数分、冒険者が住むエリアの奥まった場所にあるのが夢幻草店だ。

 エリリー婆ちゃんは気難しい性格なため、こんな所に店を構えたらしい。客は少ないが、一人当たりの購入量が多いからやっていけてるようだ。エミリアちゃんも計算が出来るようになったので、知らないうちに値引くことも無くなった。先生うれしいよ、教えた甲斐があるってもんだ。



 「こんにちわー」と挨拶して店の扉を開けると先客が。珍しいとよくみれば、黒羽織が似合う男が一人、エリリー婆ちゃんと親し気に話している。

 よっしゃ逃げよう。回れ右をしたらシロの額に額が勢いよくぶつかった。二人揃って「痛い!」と声を上げる。シロが「痛いんだけど」と俺を睨みつけるが、脅威に気づいたようだ。二人揃って「お邪魔しましたー!」と店から出ようとするが、直ぐ黒羽織の男に捕まってしまう。


 あぁ、さよなら一時の平和よ。俺達焼き討ちされるんじゃないかな!


「久しぶりだな二人とも、探したぞ」


 愉快そうに笑う男は織田信長様である。「ワシは昔から運はいい方だが、今日もツキが回ってきておる」とか言ってるんだけど。そうだね、俺達どちらかといえば運悪いわ。

 悪く無けりゃ江戸時代に行ったり、異世界召喚に巻き込まれたりしないよな。うん!


「何だい、今日は掃除依頼出してないよ?」

「俺達今日は買い物に来たんだけど……」

「どれ、ワシが買ってやろう。かわりにちょっと付き合え」

「カズサノスケ。二人を連れて行くのは構わないけど、変な事したらタダじゃおかないからね」


 「で、何買うんだい」とお助けキャラになってくれないエリリー婆ちゃんにうな垂れる。シロが「この際頭ぶち抜いてやろうか」と危ないことを呟き始めたので、慌てて「上級回復薬一本と中級回復薬二本ください!!」と叫んで遮った。


 エリリー婆ちゃんは追加攻撃で「どうせカズサノスケが払うんだ。上級をニ十本くらい買っていきな」と紙袋に上級回復薬を詰めてくる。織田信長様も「いや在庫ある分だけくれ」とにこやかだ。



 上級回復薬五十本、一本銀貨一枚。中級回復薬五十本、一本銅貨六枚。総額金貨八枚である。日本円換算なんてしないんだからっ……。

 一度シロが「持てませんから……」と断ったが、エリリー婆ちゃんが「ならマジックバックも買っていきな。お前たちに売ろうと二つ仕入れてたんだよ」と、一個金貨一枚するマジックバックの中に回復薬を詰め込み始めた。総額金貨十枚になっちゃった。

 織田信長様は「白金金貨一枚で丁度いい。小銭は邪魔だからな」とか言って懐から白金金貨という、金属の板を取り出した。初めてみちゃった白金金貨……この世界で一番高い貨幣です。



 エリリー婆ちゃんの悪い笑みと「まいどあり!」という声を聞きながら、俺とシロは逃げられないよう、右にシロ、左に俺と織田信長様に手を繋がれて連行されていく。

 買ってもらったマジックバックはベルトについていたポシェットと交換済みだ。


 もうやだぁ、俺達のことは放っておいてよ!!


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