第35話 シロ「真っ赤になりました」
両腕、両足を斬り落とされ、両目を潰された悪魔ガープ。
巨体が故、首を落せなかった時の第二案。五体不満足になってもまだ大きな身体を揺すり、動く尻尾と影を操る。
真っ黒な身体は地面に横たわり、傷口から血が溢れ出る。悪魔でも血は真っ赤なようだ、しかも質量に比例して出血が多い。おかげでローブが赤く染まちゃったじゃないか。血って落とすの大変なんだぞ。
目を潰した結果、精神操作から解放されたらしい冒険者達が意識を取り戻し始めた。
「あれ、俺なにを、」
「いたたたっわたしは、いったい?」
「うおおおおっ悪魔の腕と足が落ちてる!?」
「ほ、ほんとうだ、だ、誰がやったんだ!!」
「いや待て、ガープはまだ動いている!」
「だ、だれがやったんだ!?」
「この際誰でもいい! 今のうちに畳みかけるぞ!!」
「おぉ!!」と声を上げながら冒険者達は悪魔ガープに向かって魔法を放ち、剣や槍等を持ち攻撃をしかける。しかし、悪魔ガープも黙ってはいない。
「ワレニコノチカラヲ ツカワセルトハ!! ショウサンシヨウ カトウセイブツゴトキガヨクヤッタト!! ソシテジゴクヘトオチルガイイ!!!!」
悪魔ガープが横たわる地面が光り輝く。何だなんだと、冒険者たちが攻撃の手を緩めた瞬間、悪魔ガープが叫ぶように詠唱した。
〈地獄から参れ 我が配下 六十六の悪魔よ
赤黒く発光する魔法陣の中心から複数の影が現れ、不明瞭な姿が固定されていく。悪魔ガープと同じ、山羊の角に蝙蝠のような羽が生えた悪魔達が嫌な笑みを浮かべた。耳障りな声を上げ、冒険者達に襲いかかった。
冒険者達はその光景に息を飲む。そして、力強い大声を上げながら召喚された悪魔達に突っ込んでいく。悪魔なんぞに負ける冒険者じゃねぇ!! と言っているようだ。
混戦のさなか、冒険者達の頭上からズドドドッ!! と激しい攻撃が悪魔達を襲う。
何事だと冒険者たちが上を見た。しかし、確認できたのは銃の先のみ。
冒険者達は「援軍だ!!」と喜ぶ。銃弾の援護の中、冒険者達は悪魔達を斬り、突き、燃やし、凍らせた。冒険者達個々の攻撃に悪魔達は反撃する余地もない。六十六体いるらしい悪魔達は胴や腕、足、頭を斬り落とされ、魔法で身体を失っていく。
悪魔達の悲鳴が響き渡った。
冒険者対悪魔達による乱戦の中、私はゆっくりと歩いていく。
「ナンダ コレハ イッタイナニガオコッテイルッ!?」
悪魔ガープの影が目の前に、瞬間撃ち落とされて塵と化す。私は立ち止まることなく前へと進む。
「ナニガ ナンダ ワレハ アクマオウガープサマダゾ!! コンナ コンナ コンナコトガアッテタマルカッ!!」
カリカリ大太刀が地面を削っていたが、小さい両手で握りしめ持ち上げた。
一歩、二歩と私は跳び出す。
「ワレヨリツヨイマリョクダトッ!? キサマガッ アァッ クルナ クルナァアアアッ!!!!」
魔力が注がれ金色に輝きはじめた大太刀の切っ先を、悪魔ガープの顔面に突きつけ、四歩目を全力で踏み込んだ。
「
大太刀による突き。衝撃が一回、ガープの顔がへこみ。
二回、ガープの身体が縦に裂き。
三回、斬撃が大壁をぶち抜いた。
飛び散る血液と肉片が、ボタボタと地面に落ちる。壁の破片がガラガラと落ちる音の後、一帯は静寂に包まれた。
私は、フーっと息を一つ吐き。大太刀を地面に突き刺す。
「ワアアアアアアアッ!!!!」と歓声に包まれた。冒険者達の歓喜の声が、闘技場内に響き渡る。
抱き合って喜ぶ者、泣いて喜ぶ者、抱き合って勝利を分かち合う者。闘技場にいる冒険者全員が、悪魔の討伐達成に喜びの声を上げている。
おわった……。
チラリ、上を見ればクロがこそっとピースサインを出していた。調子のいい奴だなー、今度はクロが前に出ろよな。とか思うけど、結局私が前に出るんだろう。
レオンさんや他の冒険者達に気づかれないよう、闘技場の壁に空いてしまった大穴から気配無く抜け出す。
外まで突き抜けていた大穴。ちょっと自分のチートにドン引きする。いや、もしかしたら大太刀の力かも。ほら、無意識に魔力篭めたら輝きはじめたし金色の斬撃が飛んでったし! 私の攻撃はただの三段突きです! あの新選組のイケメンが得意だった三段突きですよ!
一回だけじゃ無駄にデカい身体を突き抜ける気がしなかったからさ。あんまり得意じゃないんだけど、三回突いたんですよ、そしたら顔面から下半身まで裂けたんですよ。真っ二つにですよ? びっくりだよね。
人間相手には絶対やりませんよ、多分。
隠れ走りながら真っ赤に染まったローブを異空間収納へ。
ギルドの中へ入ると色んな人が騒いでいる。そんな横を駆け抜けて階段を上るとA君B君は居なかった、研修室に戻ったんだろう。貴賓室の前に辿りつくと、クロが扉の近くにしゃがみ込んでいた。私の姿を見かけると「おつー」と笑う。
「まじ疲れた。つか普通にこわかった。どうしてくれるこの恐怖!」
「えっ、こわがってるようには見えないけど?」
「あの未知の巨大生物をみてこわくないとか有り得ないからね? 私のメンタル強化ガラスじゃないからね?」
「最後の三段突き最高だったぞ。返り血浴びてさ、まじ紅き修羅だった」
「やめろ黒歴史」
「くふふふ」と気持ち悪い笑みを浮かべるクロをひと睨みし、服を着替えて研修室に向かう。
途中、クロと口裏を合わせた。「貴賓室にはトムを迎えにいった。でも悪魔攫われたのでどうしようと思っていたら、偶然知らない人が現れて大きな剣を引っこ抜いて悪魔を倒した」というシナリオだ。
研修室に戻ると、職員の人に「何故部屋を出た。何故すぐ戻らなかった」と怒られたが、先に出て行ったおトム様を連れ戻そうとしたことと、人が多くて研修室まで戻れなかったと説明する。事実半分、嘘半分。この配分で嘘はバレにくくなる。
A君は大泣きしていたが、B君が挙動不審になりながらもおトム様の行動を説明してくれたので、職員の人も信じてくれたようだ。
おトム様はGランク登録の抹消がされるらしい。残念だねー。
悪魔ガープを倒した人物については、レオンさんや、ギルド長だったハゲのおじさんに根掘り葉掘り聞かれたが「こわくてよくわからなかった」と子どもらしく説明。大人たちは納得し、私とクロは暫く家で大人しくしてろとレオンさんに言われた。
「こわい思いをさせて、申し訳なかった」と私達に頭を下げるレオンさんには驚いた。自分も傷だらけで戦い、結局いい所を持っていかれたというのに、真面目な人だ。
後に悪魔ガープを倒した謎の人物にはギルドから多額の報奨金と、Aランクまでの試験免除が。ギルド本部、ひいてはヤマトノ国を守った英雄として国王から褒美、名誉が与えられると発表された。
戦った冒険者たちにも報奨金が出たそうだが、紅蓮の獅子には暫くの活動停止命令が下ったという。ビビアン様が起こした悪魔召喚事件を、パーティーとして責任を取ったようだ。
ちなみに私のローブは〈復元〉をしたら、元の灰色に戻った。よかった、これで
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