第34話 シロ「大立ち回りいたしましょうか」



 作戦は簡単。貴賓室から銃で牽制しつつ攻撃、背後から刀で斬る。私達が得意としていた戦法だ、一体一に持ち込まないのが勝つ近道である。


 しかし、ここは異世界なのでどこまで通じるか不明な点も多い。私とクロが倒した魔物はBランクが最高だが、遠くから狙って倒しただけ。まともに戦ったことがあるのはゴブリンくらいか。

 ちょっと不安だが不意打ちは得意、何とかなれ。


 悪魔の精神操作スキルがどの程度が不明だったが、対応策が思いつかなかった。

 一発勝負で、斬り込むしかない。無理だったらその時考えよう。 



 再び貴賓室の中へ入り、クロは壁を伝って位置につく。

 私は刺さった刀を引き抜くが、身長が足りねぇ!

 引き抜いた瞬間倒れ込んでしまった。慌ててガラスの外をみるが、気づかれてはいないらしい。クロが「馬鹿!」と口パクで言っているが無視だ無視。


「くそっ、大太刀の中の大太刀だな。知ってるのよりデカい」


 大太刀は私の身長の二倍は軽く超えているだろうか。

 鬼族は身体が大きく、身体能力が獣人よりも数倍高い。ヤジロベエ様の身長は二メートルを軽く越えていたし、スーさんよりも大きくガッシリとした身体つきだ。ってことは熊よりも大きいひとが使ってた武器であり、子どもの身長で振り回せる物ではないってことだ。大太刀って馬の上で使うものだしな!!


 チート能力のお蔭で刀は持ちあがるので、なんとかなる筈。クセで手首で使いそうだけど、手首を悪くするから腕を使って振り回さなきゃ、いや此処まで大きいと身体全体を使わないと無理かな。

 打刀じゃない、これは大太刀。小手先の細かい動きには不向き、巨大な薙刀か、槍だと思え。……どっちも使ったことないけど!



 レオンさんや、他の冒険者に身バレするのはよろしくない。

 いつもの服を脱ぎ、異空間収納から召喚時に着ていた白いシャツを着て、長い裾はズボンに突っ込む。袖はまくって、クロの寝間着甚平を着こむ。その上から灰色のローブを纏った。

 さらにハンカチで口元を覆い、ローブのフードで顔と髪も隠す。深くかぶれば脱げないでしょう、多分。


 身長でバレる可能性はあるが、レオンさんは私達が刀を使える事を知らない。貴賓室から銃を撃っていれば、銃を使っていたのが私とクロと勘違いしてくれるはずだ。してくんないと困る。





 「ふー」っと息を吐き出し、大太刀の鍔元辺りを握りしめる。


 クロに目で合図を送った。こくりと頷き返された。



 よし、いくか!



 大太刀の切っ先を浮かせ、一歩、二歩、三歩と床を跳び駆けだした。


 四歩目、貴賓室と外の境目。ガラスが割れて刺さりそうだが、気にせず踏みつけて勢いよく外に飛び出した。走り幅跳びみたいな感じ。


 空中落下しながら、距離を確認。

 よし、飛距離も十分足りている。飛んだ瞬間は誰も私の存在に気づいていなかったが、悪魔ガープが上を向いた。山羊に似た赤い瞳を大きく見開き、影を使って攻撃を仕掛けてくる。闇魔法の一種だろう。


 チッ思ってたより動きが早いが、この程度問題じゃない。

 

 影が音もなく撃たれ塵と化す。驚いたガープが複数影を操るが、直ぐに撃ち落とされた。隙を与えない銃撃に「オオオオオオオオオッ!!」と大きな声を上げ身体を揺さぶり始めるガープ、届いた私が全力で大太刀を振った。


 スパンッと斬り落としたのはガープの腕。くっそ思っていた以上に動き回りやがったせいで目標クビを外した!

 運がよかったのは斬り落とした手の中におトマ様がいたこと。気づいたビビアン様が氷で壁を作りおトマ様を守る。ナイスだビビアン様!

 こんな奴と戦う羽目になったのは貴女のせいですがね!!


「っ新しい助っ人か! 奴の目を見るな精神を操られるぞ!!」


 レオンさんの言葉に頷き、私は地面を駆ける。もう見ちゃったんだけど、特に操られる感覚は無い。

 一応〈復元〉と自分の頭にかけようかと考えたが、復元スキルは物が以前の状態に戻るイメージで創ったため意味はないか。


 タンッタンッと氷の壁を使って跳びあがり、銃撃で牽制され動きが鈍っているガープに一太刀。寸前で腕を守りに使われた。ドサッ! と大きな音を立てながら大きな腕が落ちる。「アアアアアアアアアアアアッ!!!!」と悪魔の叫び。声だけで十分頭がイカレそうだ。

 私は止まることなく、ガープの周りを跳び走り続ける。巨体を相手にする場合は動き回っていた方が分がある筈。


「キサマアアアアアアッ!! アクマオウガヒトリ ガープノリョウウデヲキルトハ、イッタイナニモノダッ!?」


 ガープが叫び話しかけてくるが、知ったこっちゃねぇ。攻撃してくる影をクロが撃ち落としてくれる間を駆け抜けて、私は勢いをつけてガープの両足を斬り落とす。

 「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」と叫びながらも、ガープがある一点を見た。のちに勢いよく斬撃が飛んでくる。続けて拳、地面が抉れた。

 最初はレオンさんの剣で、拳はヤジロベエ様か。


 跳び身体を捻って二人の攻撃を交わす。


 面倒だな、斬るか? いやいやいや、一番やっちゃいけないわそれ。



≪水よ、氷となり足止めしろ≫



 威力が不明だったので、日本語全力で水魔法を詠唱。レオンさんとヤジロベエ様の足元が凍り、足止め完了。よし、狙い通り! と思っていたら、ガープの尻尾で払い除けられた。「くっ!」と刀で攻撃を受け止めるが、痛いもんは痛い。

 闘技場の壁際にぶつかる寸前、刀を地面に向かって大きく振り、風と斬撃を飛ばした勢いで私は飛び上った。


 ビビアン様も操られているのか、〈氷よ、刃となれ〉と私に杖を向ける。空中に氷の刃が飛んでくるので「チッ!!」と舌打ち、≪水よ、厚く大きな膜となれ≫と詠唱すると、水の膜が出現し氷を受け止めた。それでも回避しきれなかった氷は刀で弾き飛ばす。

 他にも復活した冒険者たちが魔法を撃ってきたり、斬撃を飛ばしてきたので、全てを躱し切れず、一発脇腹に喰らってしまった。

 クロだけじゃガープの影を相手するのに一杯一杯らしい。一応射撃で魔法を何個か排除したみたいだけど、乱戦になりすぎて流石のクロも援護しきれないみたいだな。私も躱し続けるには限度がありまして。魔法を使いながら刀を使うのはこれが初めてだし、どうも上手くいかない。


「ハハハハハッ! ナカマドウシデコロシアエ!!」


 ガープは両腕両足を斬られてまだ元気らしい、恐れ入るよ!

 影を使って落ちた腕と足をくっつけようするガープ。視線は腕と足に向かっている。私は異空間収納から投げナイフを取り出して、ガープの両目に向かって全力で投げた。


 ドスッ、両目にナイフが刺さる。


 「ギャアアアアアアアアアアアッ!!!?」とのたうち回るガープから影が消えた。よっしゃいまだ! と踏み込むが、冒険者の土魔法で地面が泥になり、踏み込みが甘いっ。いつの間にか飛ぶようになっていた斬撃が闘技場の壁を傷つける。あとで金払えって言われても私は関係ないぞ!!


 ズキズキ痛む脇腹に顔を歪めた。

 意外と深いな。隙を見つけたら復元詠唱しようと考えていたら、身体全体に魔法がかけられた。脇腹と痺れ始めて来た腕の痛みが消えていく。

 何事かと思えば、我に返ったらしいハゲのおっさんが「残りの魔力全部つぎ込んだ回復魔法だ!! あと少しだぞ!!」と言いながら地面に倒れた。魔力切れだろう、ハゲのおっさん。恩に着る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る