第33話 シロ「腹くくりましょうかね」


 そっと扉から覗き込めば、部屋の中に散乱しているガラスの破片。事件イベントです!!


「クロ警部、事件のようです!! ガラスの破片が散乱し、子どもの悲鳴が聞こえます!!」

「うむ、この状況どうみるかなシロ警部!」

「ダッシュで逃げるべきだと思います!!」

「やっぱりシロの嫌な予感当たったじゃねぇか!!」


 私たちがボケをかましている間。貴賓室で影のようなものから逃げ惑うおトム様。

 取り巻きA君は「トム様のせいだ! 俺は死にたくない!!」と言って、トム様を盾にして上手いこと貴賓室から脱出した。

 急に開いた扉に驚いた私とクロだったが、走って逃げていくA君をみて悟る。


 おトム様は取り巻きに見捨てられたようだ。


 見捨てられたおトム様は「きさまっ主を置いて逃げるなんてっ、くぅっ放せ!!」と台詞を吐いている途中で影に捕まったようだ。


 貴賓室から引っ張り出されたおトム様の悲鳴を聞きつつ、私達二人は部屋に入り二手に分かれた。匍匐前進で割れたガラスの前に向かい、そっと闘技場を覗き込むと屍累々。沢山の冒険者たちが倒れている光景。


 悪魔は羽を一枚失っているようだが、まだ元気らしい。気を失ったのかダラリと力が入っていないおトム様を振り回して冒険者を牽制。

 「ハハハハハッ!! この餓鬼がどうなってもいいのか!!」と高笑い。


 あちゃー、おトム様の好奇心が仇になってしまったねー。ちょっといい気味とか思う。性格悪いとかいうな、知ってるよ。



 悪魔を前に、レオンさんは傷だらけで膝をついている。


 魔法使いのビビアン様は「汚いわよっ子どもを放しなさい!!」叫んだ。


 ヤジロベエ様は大太刀で大きく斬りつけるが、悪魔の操る影に弾かれ大太刀を手放してしまった。


 弾かれた大太刀は、私達のいる方へ飛んできて貴賓室の壁に刺さった。ビビった私たちは走って後方に引き貴賓室の外に出た。あーびっくりした。


「あっぶねぇ、気づかれたか?」

「どうだろねぇ。クロ、戦況をどうみる?」

「どうもこうも冒険者ボロ負けしてんじゃん。端っこの方でギルド長っぽいハゲたおっちゃんが回復魔法使ってるぽかったし、誰も死んでないとは思うけど」

「うーん、鑑定かけてみたらさレベル九十の上級悪魔だって。ちなみにレオンさんはレベル七十で、他の冒険者はそれ以下ね」

「わぁ……」




 ────────────────

『レオン・ヤマト』


 Lv:70

 HP:1543(7000)

 MP:1672(7000)


 ◆スキル

 剣術:上級

 格闘術:上級


 ◆魔法

 火魔法:上級

 闇魔法:上級


 ◆称号

「紅蓮の獅子」

「Aランクランカー」

「迷い人の血族」


 ────────────────



 ────────────────

『ガープ』(上級悪魔)


 Lv:90

 HP:27650(330000)

 MP:18970(330000)


 ◆スキル

 精神操作:上級


 ◆魔法

 闇魔法:上級

 召喚魔法:上級(66/66)


 ◆称号

「悪魔王」

「堕天使」


 ────────────────



 よくみると、ステータスが凄い。私達より体力あるじゃん、無理ゲーきましたー! レオンさんについてはツッコミ一旦待ちで、今そんな状況じゃない。 


「精神操作か、ハハッチートだ! キタコレ!!」

「キタコレじゃねぇよ! ガラスぶっ壊してるってことは結界を壊せるってことだろ? どうすんだよシロさんよぉ」


 「俺ここで死にたくないよ? まだ異世界楽しんでない」と言うクロの言い分はもっともですね。異世界全く楽しんでないわ。

 もうちょっとパーッと遊びたい、ちょっとお手堅く過ごしすぎたかな。



 精神操作が使えるってことは、冒険者たちは物理的に倒されたわけでない可能性が高い。

 精神を操り戦闘不能にさせたか、冒険者同士戦わせたか。どちらにしてもやっかいだ。レオンさんたちが操られていない理由はわからない、補助魔法だろうか。



 何にしても、私達が手を出すものではない。



 そうだよ。私達が戦闘に参加しても、どうこうなるわけじゃない。

 Aランクのレオンさんたちがボロボロになってるんだ。Gランクの私達が出たところで形勢は変わらないだろう。



 ふと、クロを見ると視線が合った。ジッと黒い目に見つめられて、私は「はぁ」と溜息を吐く。

 本当にクロには敵わない、ムカつく。何故か笑ってるし。ほんと殴りたいこの男。


 元々私はかなり糞野郎だ、正義感なんて持ってない。んなもんゴミ箱に捨てろ。


 自分の身は自分しか守れない。

 余計な事に首を突っ込むな。

 死にたくないなら自分のためだけに刀を抜け。


 生きたければ、他人を踏みつけてでも前を進め。


 よそ見をするな、弱い奴は捨てていけ。

 


 そう、師匠から習ったんだけどなぁ……。


 


 クロの前では何故か『大将シロ』でいたいんだよね。




 コイツ《クロ》が大将なら、こんな気持ちにならなかっただろうに。

 今更だけど、変わってくんないかな? 誰かのために刀を抜くキャラじゃないんですよ私。

 クロは侍、私は暗殺者。ほら、逆でしょ。


 元教師の癖に性格悪いって?

 教師の前に人間だよ、わかるだろ?

 

「シロ、どうする?」


 無駄に正義感を持っている副大将を持つと大変だなぁ。裏切られないように必死にならなきゃいけないんだから、まぁクロが裏切る姿は想像できないけどね。うん、出来ないんだよ。こいつは裏切らないって、わかってる。


 私がレオンさんたちを見捨てても、クロは何も言わない。……言わないんだよこいつ。


 かわりに目で「本当にそれでシロは満足なのか?」って言ってくるんだ。




 私に無い筈の正義感を、無理矢理着火してくるんだよ。




 おクロはライターか、ジョブチェンジしろ。

 私は面倒な大将の振りをしなきゃいけないんだぜ? ほんと、叫びたい。お前クロの方が大将向きだよ!!




 パンッ! 両頬を叩き、自分に喝を入れる。




 さて、大将やりますか。




「勝負を仕掛けよう。運がいいことに刀があるんだ、使ってやらないと刀が泣く」



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