第32話 シロ「最初に叫ぶ奴ほど先に消えるよね」


 そんなこんなで、研修室に集められた私達Gランクは待機です。


 避難するならギルド本部の建物から出た方がいいのでは? と思ったが、闘技場と本部の各部屋には結界が張られているそうで、結界を破ることができる魔物は滅多にいないそう。今回の悪魔も結界を破れる様なランクではないそうで、安心なんだとか。

 ギルド本部なので冒険者が多く在中。他のAランク冒険者や腕に自信のある冒険者たちが闘技場に向かったそうだ。召喚された悪魔も難儀なもんですね。


 子ども達がざわつく中、いつの間にか戻ってきていたトム様とその取り巻き二人が教壇にたち、大きく宣言した。


「平民諸君、安心しろ! 悪魔はこの俺、トム・シュヴァリエが倒す!!」


 シュヴァリエという苗字はヤマトノ国の騎士に贈られる苗字だ。

 基本的にこの世界の住民に苗字は無い。けど貴族は王から苗字を貰い、英雄なんかは自分でつけたり王様からもらったりなど様々である。平民は「子熊食堂のスー」とか「夢幻草店のエリリー」、トマは「犬族トトマスの息子、トマ!」と名乗ったり。職業とか、種族を名乗ったりする。


 ヤマトノ国の騎士は「シュヴァリエ」を名乗ることができるんだけど、騎士はみんなシュヴァリエだ。ややこしくなる為普段は苗字を名乗らない。シュヴァリエの名は一代限りなので、息子は名乗れない筈なんだけど。堂々と名乗ったトム様に拍手を送ろう、完全に馬鹿にしてるがバレなきゃいいんだよ、バレなければ。

 性格悪いとか言わんといて。


「供として貴様を連れて行く、来い!!」


 といって、クロを指名したおトム様は颯爽と研修室から出て行った。金髪をみると一之宮君を思い出すなぁ、ちゃんと勇者やっているだろうか。


 トム様の行動に言葉を失った子ども達、部屋はシーンと静まり返った。おトム様とは対照的に、危険度合いを理解しているらしい。長生きするなぁ此処に居る子達。


「クロ、ご指名だよ。稼いでこい」

「やだぁ、私まだお化粧もしてないのにぃ」

「ボケてないで行け」


 研修室からクロを蹴り出そうとするが、足にしがみ付いて来て離れない。コントじゃないんだからひっつくな!!


「ちょっ、早くいきなよ、おトム様戻ってくるよ!」

「いーやーだ! 何で俺? なんでおれなの!?」

「おトム様のお眼鏡にかなったんでしょ、よかったじゃん、逝ってこい!!」

「逝くの字が違う気がする!! あっトマ! お前は逝くなって言ってくれるよな!?」

「シロさんがいけっていってるんだから、早くいった方がいいよクロ」

「トマの裏切り者!!」


 「トマがいけよ、おトム様と名前似てんだから!!」と訳の分からないことを叫び始めたクロを引きはがし、溜息を吐く。クロが気に入られたのは銃をもってるからだろう、自分が使えないなら取り巻きに使わせればいいよ作戦だろうか。

 何にしても、子どもが戦闘に巻き込まれるのはよろしくないし、邪魔になることはわかっている。


「トマ、ギルドの人におトム様のこと伝えてきて。私とクロはおトム様回収してくるから」

「わかった!」


 足の速いトマが研修室から走って出て行くのを見送り、近くにいた子に部屋から出ないよう言う。素直な女の子は「わかった! トム様みたいな奴は殴ってでもとめるから!」とガッツポーズを決めてくれた。将来有望ですね。めっちゃ好きだよ君みたいな子、お友達になりたいわ。



 私とクロはおトム様を追いかけたが、意外と足が速いのか追いつくことはなく。闘技場の入り口前に辿りついてしまった。


 入り口は多くの冒険者が集まっていて塞がっている。人が多いのでおトム様の姿を見つけることが出来ない。ここで足止めされてたらいいんだけど、と思いながら探す。

 冒険者の人に「ここに子どもきてませんでしたか?」と聞いてみるが、着ていないとのこと。


 うーん、どこいったんだろ。別の冒険者に話しかけていたクロをみると、首を横に振った。見てないらしい。闘技場の中に入ってないならいいけど、子どもだからすり抜けていきそうだしなぁ……。

 いや、あの性格だ。多分「平民ども、道を開けよ!!」とかいいそうだ。勝気にも程がある、冒険者の前で言ったらボコられるんじゃないだろうか。騎士の子どもならお金はあるだろうに、なんで冒険者やってんだろう。


「どうするシロ、一旦戻るか?」

「うーん、どうしようね。嫌な予感するから、せめて姿だけは見つけたいんだけど」

「シロの嫌な予感当たるからなぁ……。あ、あれ取り巻きB君じゃね?」


 「あ、ほんとだ」と、取り巻きB君という名の眼鏡をかけたオドオドしている大人しそうな男の子が、闘技場入り口から離れた階段の下で挙動不審にオロオロしているのを発見。やだー嫌な予感しかしないーと顔を顰めつつ、側に駆け寄った。


「えーっと、B君じゃなくて。君トム様と一緒にいたよね? トム様ともう一人はどこいったの?」

「あっ、えっと、トム様は……階段をあがって、貴賓室から悪魔を倒すって、言って……ごめんなさいっ僕トム様には逆らえなくて! でも君なら止められると思って待ってました!!」


 「お願いします、トム様を止めてください!!」と頭を下げるB君。なんでもおトム様は銃を使うクロの姿をみて「何だアイツは、俺より格好良いなんて認めん!」と叫んでたそう。でもB君からみたおトム様はクロを羨ましがり、銃を使えず悔しがっていた訳じゃなく、友達になりたくて喧嘩を売ったそうな。不器用かよ。

 魔物に向かって行ったのは、好奇心だそう。


「倒すって言ってたけど、多分魔物を見たいからだと思います。僕はトム様の幼馴染だから逆らえないけど、気に入られた君ならトム様を連れて来れる筈です!」

「えぇ、なんかやだなぁ。それに貴賓室なら結界はられてるだろうし、連れて来なくてもいい気がするんだけど」


 「どうするシロ?」とクロが首を大きく傾げる。私に聞くな、自分で考えろよとクロを睨みつける。

 

 おトム様のご乱心に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい気持ち半分。

 ここまで来たら連れて帰ろうという気持ち二分の一。

 私は関係ない気持ち、二分の一。

 

 面倒臭いから呼ばれたクロだけ行けばいいじゃん。という気持ちが顔に出ていたのか、クロが「お前、俺を一人にするなよ、やめてよっ!?」と叫んでいる。

 面倒な奴だなー、今更かー。

 

 どうせクロの意見は私と変わらないだろう。いや、一回だけ意見の食い違いで喧嘩したな。やっぱだめだわ。でも今日はクロに従おう、助けようとなかろうと。気分的にはどっちでもいい、ただの阿呆な坊ちゃんなんてどうなろうと知ったこっちゃない。

 

「クロ、どうすんの?」

「あーうー、おトム様に仕える気はないけど、……恩は売っとくか!」

「おっけー、んじゃ貴賓室だっけ。さくっといって、連れてこよう。一発くらい殴ってもいいよね」

「えっ、殴るのはやめた方が……一応、騎士団の団長の息子なので」


 「それはやめておいた方がいいな」と私はB君に頷く。長いものには巻かれるタイプですが、何か。「トム様をお願いします!!」とB君の声を聞きながら、階段を駆け上がる。


 上がると扉がいくつかあったが、突き当りの部屋の扉が少し開いていた。


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