第27話 クロ「とりあえず石化は解決」
それから魔物に会うことはなく、休憩を数回挟んで歩くこと数時間。
夕日が沈む前にヤマトノ国王都エドの門の前に到着した。
仁王立ちしているスーさんと、笑顔のククリさん。門にもたれ掛かり、目を閉じているレオンさんを見た瞬間、来た道をダッシュで戻りたくなったことは正直にお伝えしておく。
スーさんとククリさんには「友達の家に泊ってくる」と伝えてあったし、門番のおじさんには野営の練習だと伝えてあったはず。どうしてバレた? いや西の山にいったことはバレていない? と息を飲み込み、三人へと近づけば。
スーさんとククリさんが、俺達三人を勢いよく抱きしめた。
「よかった、無事でよかった!!」
「三人とも心配したんだからっ」
ぎゅーっと力強く抱きしめられるが、俺達は現状把握できていない。
何でトマのことも知っているんだろうか? と疑問を浮かべていると、レオンさんが目を開き「薬屋の婆さんから全部聞いた」と教えてくれた。
そういえば内緒にして欲しいと言うの忘れてたな。ちょっとだけ詰めが甘かったようだ。
スーさんに「何で大人に相談しない!!」と怒られる俺とシロを庇うように「俺の為に二人とも頑張ってくれたんです!!」と叫ぶトマ。よしよし、トマ君いいやつだな。
トマの言い分を聞いたスーさんは「それでも一言相談して欲しかった。シロとクロにとって、俺達は信用できないか?」とずるい質問をされて、困ってしまう。
信用できないわけではないが、精神は大人なので自分達でやれることは自分たちで片付けてしまうのだ。それを言う訳にはいかず、俺とシロは黙り込む。
「スーおじさん、こいつ等のことは後で。それよりも石化草は取ってこれたのか?」
「あ、はい! 二人のお蔭で取ってこれました!!」
「見てください!」とトマが大人三人に石化草を見せると「四つもか、やはり二人のランク上げた方がいいな」とレオンさん。
「石化草を四つも……すごいわ、凄いわよ三人とも!!」「こいつはすげぇな、早く夢幻草店に行くぞ!」と夫婦の褒める声と急かす声を聞きながら、俺達はトマの親父さんの元へ走った。
夢幻草店に到着するやいなや、シロは婆ちゃんに攫われるように「ついでに調合も仕込んでやるよ!!」と連れて行かれた。
俺とトマは親父さんの様子を見ながら、スーさんとククリさんに説明しろと言われて、説明する羽目となる。こういうのはシロの役目なんですが……。
「えぇっと、偶然トマと友達になったんだけど、お父さんが石化にかかっていると知って、助けてやれないかなあぁと思って……」
「外に出るために受けたGランクの依頼はどうした?」
「ちゃんと取ってきました」
はい。と薬草をレオンさんに渡せば「うん、状態もいい。明日依頼達成書を出しにいけ」と返された。レオンさんいい人。だが、スーさんのお怒りはまだ収まっていないらしく、今度はレオンさんに突っかかっていた。
「俺はお前たち二人、いや三人が城壁の外へ行ったと聞いただけで竦みあがったのに、レオンは何とも思わないのか!?」
「……スーおじさんはシロとクロを甘く見過ぎだ。この二人なら多少危険な場所、Cランクが行く場所でもやっていけるだろう」
「シロとクロはまだ十二歳だぞ!? しかもトマ君は冒険者に登録したばっかりだって言うじゃねぇか!!」
「二人とも銃の腕はいいし、下手な冒険者よりも危機管理能力に長けていると俺は思っている。それに魔物避けの匂いがする、常に焚いていたんだろう。トマ、この二人と一緒にいて魔物に会った回数は?」
「えっ。えーっと、一回だけです」
「西の山まで行って、一回の遭遇か……トマ、それが普通だと思うな。二人が魔物を避けて歩いていたから、一回だけで済んだんだからな」
「一回でも危ないことにかわりはねぇだろうが!! トマ! 魔物は何だった!?」
「えぇっ。えーっと、ゴブリンでした」
「ほらみろDランクの魔物じゃねぇか!! よく無事だったな……! 怖かったろ!」
「い、いえ。シロさんと、クロが倒してくれたので……」
「そうよねぇ、よく考えれば岩猪と跳び鹿を仕留める二人だもの。近づかなければ、余裕かしら?」
「ねぇ貴方、褒めるのも大切よ」と鼻息荒い
そうこうしている内に、石化を解く薬が完成したようだ。
顔にまで石化が進んでいた親父さんに出来立ての薬を飲ませると、石がぱりぱりと剥がれていく。
エリリー婆ちゃん曰く、かなり石化が進んでいたので数日間かけて少しずつ飲ませる必要があるらしい。上級回復薬も服用しておけば命に別状はなく、二週間もすれば元気になる。とのこと、それまでは店で面倒を見てくれるそうだ。
エリリー婆ちゃん曰く「途中で投げるのは好かないね!」とのこと。口は悪いがいい婆ちゃんだ。
親父さんはまだ話せる状態ではないが、目に光が戻っていた。トマは「よがっだあああっ!!」と大泣きしている。もらい泣きしそうだぜ。
「二人ともありがとうっ、本当にありがとうっ!!」
「いいよ、シロの気まぐれだから」
「気にすんなって」と俺が言うと「気にする!!」とトマが涙を流しながら笑った。
ちなみにシロは正座でスーさんのお怒りを受けていた。心配させてほんとすんません、まさかこんなに心配されるとは思ってもみなかったよ。
「あ、そうだ。トマ、これ内緒話な」
こそっと、トマに近づき、大人達に聞こえないように言う。
「残った石化草と、ゴブリンの耳と魔石を金にして生活費の足しにしてくれ」
「えっ。でもこれ二人が取って、倒したやつだし……」
「俺は石化草取ってないし、ゴブリンの剥ぎ取りをしたのはトマだろ? 俺達はゴブリン倒しただけ、剥ぎ取ったのはトマだ。好きにしてくれ」
「あ……いや、っホントごめん、ごめんっ」
「俺はごめんじゃなくて、ありがとうの方がいいなー」
「っ、ありがとう!!」
突然お礼を大声で言ったトマに、大人たちが驚いていた。
シロは口角を上げ、口パクで「ナイス、クロ」と言う。シロも同じ考えだったようだ。うんうん、大将の意志を汲むのも副大将の役目だよな!! シロならこうするだろ、というただの経験によるものだけどな!!
帰り道、俺達を心配して怒り続けているスーさんに、シロは言った。
「ごめんなさい、私にはクロしかいなかったから。大人に頼ること、したことなかったの。ごめんなさい、スーさん、ククリさん、レオンさん」
頭を下げた。俺も慌てて頭をさげれば、スーさんの男泣きが聞こえ、ククリさんが「もぉぉぉっ可愛い子達、ごめんね私達は家族よ!!」と抱きしめてくれる。レオンさんは何でか頷いていた。
シロはククリさんの腕の中で「解決したぜ」とばかりにニタリ笑う。あぁ、まぁ嘘はついてないもんな。うん……。
俺は心の中で謝りつつも、怒ってくれる人がいるこの状況を喜んでいた。シロももう少し他の人を信じられるようになると、いいんだがなぁ……。
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