第26話 クロ「探せぇ! 石化草はそこにある!!」



 火の番は俺とシロでやることにした。

 トマもやりたがっていたが、この山は本来Dランクからしか入れないことを教えると黙った。のほほんと飯を食っていたこの場所が、本当は危ない場所だということをわかってくれたようだ。

 俺達はGランクで、Gランクの依頼を受けて外へでた。ルールの隙間をついただけだが、その分死ぬ確立が増えることを理解しなければならない。


 トマは「だ、大丈夫なのか?」と不安がっていたが、シロが「トマは私達の側を離れなきゃ大丈夫」と言ったのを聞いて、何故か安心したように横になる。


 え、その言葉だけで安心するの?

 突然シロを信じすぎじゃない? 大丈夫?


 一応補足しておくと、トマはギルドに登録したのでこれから城壁の外に出る際には見張りという保護者がつくし、夜になっても帰ってこない場合はギルドが探しにでる。

 今回は明日の夕方まで帰らなければ捜索されるので、危ない目にあってひとりで逃げ出した場合の目安にするといいぞ。とトマにきちんと伝えておく。

 が、寝ているので、ちゃんと聞いているのかわからない。こいつ大丈夫だろうか。


「そういえば、シロさんよ」

「なに? 私が先に火の番するから寝てなよ」

「今更だけどさ、トマの親父さんに〈復元〉をかけたらよかったんじゃね?」

「それは考えた。けど効くかわからないし。突然石化が治ったらびっくりするどころじゃないでしょ。トマがこわがって私達の能力のことを言いふらす可能性もある。でも石化草がみつからなかったら、こっそり使ってみよう。復元は最後の手段だね」


 焚き火に薪を足しながら説明するシロに拍手を送ろう。ちゃんと考えていたみたいだ。俺とは大違いだぜ!! 流石だね!


 シロの言葉に従いたくなる気持ちはよくわかる。


 トマもシロの言葉から察したんだろう、大将の言葉だからな。俺はシロについて行くだけだ。

 だって、大将シロは道を外れたりしないから。意味のある行動しかしないんですよ、うちのシロさんは。




 火が昇ってすぐにトマを起こし、昨日の残りのスープをかきこんで準備万端。


「えーっと、昨日もいったけど制限時間はお昼まで。それまでに石化草をみつけよう」

「おっけーい」

「わかった!!」


 シロの号令に返事を俺とトマが返し、石化草の捜索がはじまる。


 ゲームだとドロップアイテムとか、宝箱の中にあるのでただひたすら周回すればいいのだが。残念ながら現実は地道に探してみつけるしかない。

 かといって石化草は金貨一枚もする珍しい薬草、そう簡単に見つかんねぇよなぁ……。


 とりあえずGランク依頼で受けていた薬草をみつけたので採取してしまう。残りは石化草を探すのみ。

 エリリー婆ちゃんに石化草の絵も描いてもらったので、見た目はわかっているんだ。

 なんかこう、ずんぐりむっくりした感じの薬草。地面の中に埋まっているらしい。


 一時間ほど山の中を探していたが、見つからない。落したコンタクトレンズを探しているみたいで、なんか嫌だ。中腰のせいか腰も痛い。こんな時こそチート能力発動してくれよ……と溜息を吐きながら探す。


 あ、そうか。能力チートも使いようによっては探し物に役立つのでは?


 思いたったら実行するのみ! 鑑定と魔力感知を使ってみる。

 ものには基本的に魔力が備わっている。その魔力感知して、すべて鑑定すれば見つかるのでは!? と早速やってみた。


 瞬間頭が割れそうな痛みに襲われて、俺はぶっ倒れる。


 情報過多、頭が大量に集まった情報の処理に追いつかなかったらしい。パソコンのフリーズみたいなもんだろうか。


 ドサッ! と倒れる音に気づいたのか「クロ!?」とシロとトマが駆け寄ってくる。

 鼻血も出ていたのかシロが慌ててハンカチを鼻に当て、小鼻を指で圧迫しながら俺の顔を下に向かせた。血は飲むと吐き気をよぶからな。いつもながらシロの対応は手慣れてるぜ……。


 トマには大丈夫だと言って、捜索を再開させた。日が昇って結構経つからな、残り時間は少ない。


「しゅまん、じかんにゃいのに」

「別にいいけど、突然どうしたの。鼻くそでも深追いし過ぎた?」

「シロ、他の人の前でそれいうなよ。ドン引きされる。それよりも、新しいことがわかった。鑑定と魔力感知を合わせて発動させるとな、頭がパンクする」

「あぁ……それで鼻血か。てか鑑定っていう便利なものを忘れてた。使ってみよう」


 「クロの二の舞にならないよう、一個一個ね」と近くに埋もれている葉っぱを鑑定したシロが、黙り込んだ。

 「どうした?」と聞けば、「……探し物って、意外と近くにあるよね」と鑑定した葉っぱを引っこ抜く。すると、ずんぐりむっくりしたお姿が現れた。石化草だ。


 え、なに、そんな近くにあったの? というか葉っぱが聞いていた形と違うんだけど、花が咲いているし。


 鼻血は今だ止まらず、まだ頭痛が酷い。だが、確かめたかったので痛む頭を押さえながら鑑定してみた。



────────────────


石化草(春の姿)


季節によって葉の形を変えるため、発見は困難を極める。

春には黄色い花をつける。花や葉は毒があり、他の毒草と間違われることが多い。

根は石化を解く薬となる。


────────────────



 石化草が珍しい意味が分かった。上の葉と花は毒草扱いで取られるけど、根っこは取られない。しかも石化草だとは思いもよらない、ということですね。取られないようにするための知恵だろうけど、頭良すぎないかこの草。


 エリリー婆ちゃんが書いてくれたのは冬の姿の石化草らしい。

 俺達が異世界に来たのは冬から春にかわる移行期。今の季節は春のはじめということになる。

 葉っぱの形も変わっているか、変わってないかの狭間の季節だったようだ。エリリー婆ちゃんに文句は言えまい。


 近くの黄色い花に片っ端から鑑定をかけると、ほとんどが石化草だった。トマに伝え、シロとトマは石化草を掘り出していく。姿を、俺は鼻を抑えながらみつめていた。鼻血が止まらないのです。

 取り過ぎも駄目だ。ということで、石化草を四つ手に入れた。やったね!


 空をみれば昼より少し前。時間も頃合いだろう。俺の鼻血もやっととまり、口の中にたまった血をペッと吐き出す。


 トマの背負い袋に石化草を詰め込むのを確認した俺は、スッと立ち上がった。


「さぁ、帰ろうか諸君!」

「クロは鼻血出してただけじゃん」

「そーだそーだ!」


 「でも大丈夫か?」というトマ君のやさしさに俺の心は震えちゃう。シロの無表情には身体が震えています。役に立ってなくてすんませんした。



 山から下りた俺達は、来た時と同じフォーメーションで平地を歩いて行く。魔物避けを焚くのも忘れない。が、それでも避けれない場合がある。

 特にゴブリンという魔物は中途半端に頭がいいそうで、襲っても大丈夫そうな人間を区別しているらしい。ってことでゴブリンが近づいているようです。


 魔力感知で近づいてくる生き物に気づく。鑑定してみるとゴブリンが五体、距離二百メートルくらい。

 平地なので逃げ場所も無し。走ってもシロと俺ならば追いつかれやしないだろうが、トマは疲れているので途中でバテてしまうだろう。

 迎え撃った方がいい。と判断し、目立つ魔物避けの煙を一旦消す。土が押し固められている道から外れ、ちょっとだけ背の高い草の中にしゃがみ身を隠した。

 シロがトマに「剣は抜かず、クロの隣で待機。危なくなったら合図するから、その時は走れ」と言い、しゃがみながら大きく弧を描くように歩いて行く。背後を取るためだ。


 俺は銃を構えた、まだ撃たない。トマはシロの言葉にしたがって、いつでも走れるような体制だ。素直なやつだな。

 銃口をゴブリンに向け、詠唱。


〈魔力装填・範囲一体・目標固定〉


 シロとゴブリンの背後を取った。瞬間、引き金を引く。

 弾の飛翔音もなく一体のゴブリンの頭が吹っ飛び地面に倒れた。ゴブリンたちがそれを見て慌て始める。

 時を狙っていたようにシロが後ろから強襲する。踊るようにナイフを操り三体の首をはね、一体は心臓を一突き。


 俺は銃を構えつつ、状況を確認していた。五体の沈黙を確認。付近に他の魔物の影は無し。

 シロが大きく手を振っている、敵襲による警戒は終了だ。


 本当は銃で離れた位置から倒した方が安全だし、簡単。だけど今回はトマに危機感を持たせるべく時間を使って倒したのだ。一人で城壁の外にいかないよう恐怖をうえつけるためだ。親父さんがバジリスクの毒にやられてるトマのことだから、大丈夫だとは思うけどな。


 シロは倒したゴブリンの前にトマを連れて行き「こいつらの剥ぎ取りは耳と魔石ね」と言って剥ぎ取りをやらせていた。トマは顔を思いっきり顰めながらも「はいっ!」と言って持っていたナイフをゴブリンに突き刺した。躊躇いもなかったな、強い奴……。

 ラノベ展開ならば、亜人系を倒した時は吐き気がーとか。俺の手は汚れてしまった……とかありそうですが。俺らの手はとうの昔に汚れちゃってますので、今更何も思わなかった。

 むしろ簡単すぎて、物足りない。ある人間は腹を掻っ捌いても俺達に向かってきたというのに……。


 いやいや、バーサーカーじゃないんだから。

 何を考えているんだ俺は。落ち着けよ。


「……あれ、シロさん。このゴブリン魔石壊れてるよ」

「え、……ほんとだ。最後嫌な音がしたと思ったけど、壊した音だったか。やっちゃったなぁ、もったいない」

「やーい下手くそ」

「よっしゃ次クロな。銃貸してよ」

「え、やだ」

「ヤダじゃねぇよこの黒田!!」


 スパンッと頭を叩かれた俺。いい音がしたよ。「くっそ、魔物の心臓は魔石か。狙っちゃだめだな。ってことは狙いは首かぁ、ナイフだと短いしなぁ、大きい敵の時はナイフじゃ首を落としきれないだろうし」とブツブツ呟くシロに俺もちょっと頷く。

 刀に慣れていると剣も使い勝手悪いし、ナイフだとなおさらだ。やっぱり刀欲しいよなぁ。使う場面に会わなきゃいいんだけど、冒険者だとそうも言ってられないし。


 血や死体をそのままにしていると他の魔物が寄ってくるので、ゴブリンたちをひとつにまとめ〈火よ、燃え上がれ〉と詠唱し燃やしてしまう。

 剥ぎ取った耳と魔石はトマに持たせて、道に戻った。

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