第25話 クロ「冒険者っぽいことしてる」


 城壁の外にでる準備が整った頃には太陽が真上に、時間もない。トマに俺の服を貸し、身ぎれいにしてから防具と剣を持たせる。合流したシロはリュックを背負っていた。これで準備万端だ。


 門番のおじさんにギルドカードと依頼書をみせて、「野営の練習もするから、明日の夕方に帰ってくるね」と適当な理由を伝えるのも忘れない。子ども冒険者は理由が無い限り、門が閉まる前に戻ってこなければならない。という決まりがあり、守らないとギルドから捜索隊が出るのだ。



 門番の「遠くまで行くなよー」という声を聞きながら、俺達は城壁の外へ。



 魔物避けの薬草を焚き、前衛にシロ、後ろにトマ、後衛に銃を装備した俺で道を進んでいく。トマを守る布陣だ。

 本来トマは大人の冒険者がいないと城壁の外へはでれない、今回は俺達がいるということで許してもらっている。その説明をトマにすれば「ギルドでも言われた……お前たち何なんだよ……俺に何をさせるつもりだ」と疲れたように言った。


 トマは理解しないまま、俺達に連れ回されていたようだ。

 やっべ説明した気分だった、と俺は慌ててシロをつつく。


「あ。説明したつもりになってた。ごめん、歩きながら説明してもいい? クロは警戒よろしく」

「おっけーい」


 俺は魔力探知を広げ、銃をいつでも使えるように手で持っておく。シロは魔物避けをトマの腰につけさせた。煙いんだよなこれがまた。


「えっと、これからトマの父さんを治す薬草を取りに西の山に行く。山までは子どもの足だと半日かかるらしいから、今から行くと夜になる。山で野営をして朝になったら石化草探しをする、制限時間は昼までかな。昼を過ぎたら速攻で帰らないと捜索隊が出ちゃうからね。質問は?」

「お、俺のためになんでそこまで……」

「あー……気分?」

「きぶん?」

「そう、気まぐれ。あんまり深く考えなくていいよ」

「え、えぇ……」

「あ。盗みはもうやめといた方がいいよ。君下手だし、ギルドで依頼受けた方が金を稼げる。とりあえず薬屋の掃除で銅貨二枚は確定したんだ。銅貨二枚あれば二人分のごはんは食べられるはず」


 「わかった?」と聞くシロに、頷くトマは「そんなに下手かよ」とブツブツ言っていた。上手い人はな、いつの間にか盗ってるもんだぜ。



 西の山までの道のりは遮蔽物が少ない平原である。


 レオンさんには行くなと言われていたが、しょうがないしょうがない。

 調子にのった冒険者フラグは折っておきたいので、注意を怠らず、立ち止まないようにサクサク歩いて行く。が、ちょっと早すぎたのかトマがバテ始めた。よく考えれば昼飯も食ってない。

 シロに「飯食おうぜ」と伝えると、「あー、んじゃあの大岩の上で休憩」となった。

 

 シロが岩の周りに婆ちゃんから借りてきたパクってきた結界石を置いている間に、俺は背負っていた鞄の中からスーさん手作り岩猪のロースト肉が入ったサンドウィッチを取り出しトマに渡す。

 ちなみに鞄の中身は野営荷物の軽いものだけ、重いものは異空間収納だ。鞄の中で異空間収納を発動させればバレないだろう。

 

「うまい……うまいよこれ!! 何の肉だ!?」

「岩猪らしいぞ」

「げっそんな高いもん入ってるのかよ!? うぐっ、げほげほっ」

「はい、お茶」


 むせたトマがシロからお茶をもらって一気飲み。お茶は体力回復の効果がある薬草茶だ。トマにそれを伝えると「あ、あぁ、高級なものが俺の身体に……あぁっ!」と騒ぎ始めた。わかる、高いものって食うと混乱するよな。めっちゃわかる。


「はー美味かった。それにしても、こんないいもん食ってるってことはお前ら金持ちの子だろ? 何で冒険者なんかしてるんだよ、親は怒らないのか?」

「いや俺達に親はいないよ。偶然いい人たちに拾われただけ」

「そ、そうか……ごめん」

「気にすんなって。あ、俺はクロ。そこの気分屋はシロっていうんだ。シロは怒らせるなよ、また蹴られるからな」

「うっ、あれは痛い」

「よし、立てクロ。ケツを思いっきり蹴り飛ばしてやる」

「ごめんなさい」


 「立て」と微笑むシロに土下座して、もう暫く休憩したのちに、再び歩き出した。



 魔物を避けつつ、日が沈む前に何とか山に着いた俺達は、開けた場所を探し結界を張って薪を集め焚き火をする。

 俺が魔法で火をつけた時はトマが「ま、魔法使えるのか……」と驚いていた。トマのいた国では魔法を使える人はとても限られていたらしい。

 トマの父親は風魔法が使える珍しい人だったそうな。ステータスに風魔法って書いてあったな。


 焚き火とは別に窯を作って、夕飯を作り始める俺をトマが興味深そうに覗いて来る。

 知っていて損はないしなーと俺は窯の作り方を教えて、シロに水を入れて貰った鍋を置き乾燥した豆を入れ放置。その間にスーさんお手製岩猪のベーコンを切っておく。

 豆が水を吸って膨らんだ頃に乾燥したトマトを刻んで入れてベーコンも投入。その辺で取った薬草も入れて煮立たせ、塩で味を整えれば完成だ。買っておいたパンも添えてトマに渡すと「外でこんな美味そうなもんが食えるのか……」と感動していた。食ってから感動してくれると嬉しいんだが。


 「いただきます」と手を合わせた俺達を不思議そうにみたトマは、「い、いただきます」と真似をして食べ始め、「うまい!」と言って勢いよく口の中に入れていく。素直なやつだなー。

 シロは「毎度思うが女子力……」と言って食べていた。シロも料理はできるが、俺がいるとやらない。美味しいものが食いたいから、らしい。


「うぅ、こんな美味いもんが食えるなんて……父さんにも食わせてやりたい……」

「今から食わせてやりゃいいだろ。ところで、トマは何でヤマトノ国に?」

「……クロとシロは、獣人を見たことあるよな?」

「ヤマトノ国にはいっぱいいるな」

「ヤマトノ国とかメリカ王国、ユナイ王国では、獣人は普通に過ごせるけど、他の国ではそうでもないんだ。獣人、耳や尻尾があるってだけで働かせてもらえない。隠して働く奴もいるけど、すぐにバレる」


 「俺、犬族っていう獣人なんだ」と二の腕に隠すようにつけていた腕輪を外すトマ。

 すると頭の上に犬耳、背には尻尾があらわれる。狼みたいな耳と尻尾だなと手を伸ばしかけて、引っ込めた。あっぶねぇ、シロも触りそうになっていたので慌てて腕を掴んでやめさせた。獣人の耳や尻尾を触るのは失礼になるとスーさんやククリさんに教えられたばかりなのに、好奇心とはこわいもんだ。


 俺達の反応に「触れるのは家族か、主君だけだ」トマは腕輪をつけ直す。「ちぃ、もふりたい」というシロの声は無視だ無視。


「俺が住んでいた国は獣人を奴隷として扱っている。それでも飯が食えるから受け入れていたけど、戦争がはじまると聞いた父さんが俺を連れて国を逃げ出したんだ。戦争なんて始まったら俺達は即前線だからな」

「そんで逃げる途中、バジリスクに噛まれたってわけか」

「犬族は毒に強いんだ。けど、疲れてたのもあって毒に負けた。前の国では金さえあれば獣人でも医者に診てもらえたから……」


 「だから財布をとった」というトマに「なるほどなー」と頷く。


 あの時、周りの大人の中には冒険者もいた。冒険者が反応できない足の速さとは、と思っていたが獣人なら納得だ。獣人は人族よりも力が強く足も速い。盗るのは下手でも逃げきれれば勝ちだからな、勝算があって盗みを働いたとトマはいう。悪かったな、俺らが偶然居て。文句は足癖の悪いシロに言ってくれ。


「なぁ、クロ。なんで俺に、ここまでよくしてくれるんだ?」


 シロが水魔法で食器を洗って俺とトマに背中をみせている時、トマがこっそりと聞いてくる。

 まぁ今日会ったばっかりの奴なんて信用できないか。しかも気分で動いてるとか言われたら猶更だ。言葉が足りないシロの行動は、副大将だった俺の役目だ説明してやろう。


「シロは気分って言ってるけど、トマが親父さんの為に盗みをしたから助けたんだ。トマが自分の為だけに盗みをしてたら騎士に突き出してる」

「え、なんで」

「トマだけなら騎士に突き出したほうが、トマにとって良い事だからだな。捕まってた方が飯は食えるだろうし。だけど親父さんがいるなら別だ、トマがいなきゃ親父さんの病気は悪化する。かと言ってただトマを解放しても、結局は盗人に落ちつきそうだった。意味がない事はしたく無い、関わっちまったもんは最後まで見届けるのがシロだ。行動に善意はあるから、ちょっとだけでも信用してくれると嬉しい。それに、この国では優しくしてもらってたし。俺も返そうかなー、なんて」


 「やりたいからやってるだけだ、気にすんな。ただ盗みはすんなよ」とトマの背中を軽く叩くと、「うっううぅっ」と声を上げて泣き出した。「ありがどうっありがどうっ!!」と礼を言いながらボロボロ涙を流すトマの背中をさする俺。泣き声に気づいたシロもトマの背中をポンと軽く叩き、


「朝一で薬草さがして、早く父さんのところに帰ろう。約束する」


 といって、涙を見ないように再び背を向けた。かっこよすぎーうちの大将。と笑いを堪えた。

 暫くして泣き止んだトマをみると、すっきりした顔。うんうん、いい顔になったなー先生嬉しいよ。トマは生徒じゃないけど。


 ただ、シロを見るトマの目が憧れと尊敬を含み始めたような気がした。おいフラグかこれ。逆ハーフラグですか? とシロに教えてやれば「どっかで折っておいてよ副大将」と言われた。

 面倒臭い命を受けてしまったでござる。

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