石化草篇

第24話 クロ「うちの大将がすみません」



 ある日、ギルドに向かう途中。悲鳴が聞こえた。

 「私の財布が!!」というベタな叫び声であった。


 「何だよ朝から、下手な盗人だなー」と呟いていると、人混みの中から犯人らしきものが飛び出て来た。奴の足元を、シロが勢いよく蹴り飛ばした。

 オウ……容赦ない。


 蹴飛ばされ足元を物理的に掬われた盗人は、勢いよく顔面で地を受け止めた。盗人が落とした財布を拾い上げたシロは『クロ、そいつ隠せ』と日本語で言って、財布の持ち主の元へ走っていく。

 周りの人が「なんだなんだ?」と俺と盗人を見はじめた。


 俺は笑顔を浮かべつつ「あー大丈夫かー、そうかそうかーちょっと陰で休むかー?」と適当な事をいいながら、盗人と共に路地の裏へ。

 脛を思いっきり蹴られ、顔面を強打した盗人は気を失っていたので、異空間収納から縄を出して後ろ手に拘束しておく。


「ったく、シロの悪い癖が出たなぁ」


 うちの大将シロはちょっと道を外しただけの奴には寛容だ。

 大方見回りの騎士には引渡さず、逃がすつもりだろう。なにせ盗人はまだ子どもで、財布を取った事がすぐに気づかれるほど下手くそだ。手慣れていないってことは、初犯かな。

 だが居合わせた大人たちは反応出来ていなかったようだ、シロと俺がいなければ盗みは成功していただろう。運の悪い盗人である。


 しっかし珍しいな。ヤマトノ国は子どもに優しいし、貧乏でも子どもなら食いっぱぐれない。国が経営してる孤児院もあるしな。

 ということは盗みを働くほどに追い詰められていたのか。それとも誰かにやれと言われたのか。後者は無いな、やれと言う奴は大抵どこからかみているもんだ。そんな視線は感じない。



 しばらくすると、シロが戻ってきた。手には最近ハマっている揚げ芋。財布を盗られたおばちゃんが驕ってくれたそうな。最後まで「あの泥棒、次会ったら騎士様に突き出してやる!!」とおばちゃんは意気込んでいたらしい。

 こわやこわや、かといって盗みは犯罪ですからね。許してはいけないのですよ、本当は。


「どうすんのこいつ」

「さぁ、気分によるかな」


 盗人が起きるまで揚げ芋を食べて待っていると、唸り声を上げながら盗人が目を覚ました。弁慶も泣く脛だもんな、そりゃ痛いわ。

 鼻も真っ赤になって、ちょっとだけ鼻血が出ていた。「痛っ……くそっ何だよこれ!!」と縄を解こうと暴れはじめる。


「おまえら俺をどうするつもりだっ!!」

「どうもこうも、見りゃわかるでしょ」

「俺を騎士に突き出すつもりだなっくそっ、ガキの癖になめやがって!!」

「同じ子どもに子ども呼ばわりされてもなぁ……騎士様に引き渡す前に、一つ聞きたいんだけど。何で盗んだの?」


 「まぁ服からみて、金に困っているのはわかるけど」というシロに、盗人は顔を顰めた。盗人はボロボロの服と靴を着ていた。見た目から金に困っているのはすぐにわかる。


「お前たちには関係ないっ早く騎士に突き出せよ!!」

「質問に答えろ。何故財布を盗んだ?」


 シロは盗人との距離を一気に詰め、低い声で再度問う。

 シロの感情の無い顔と声に怯えた盗人は怯え、声を震わせながら「と、とうさんが……とうさんがびょうきなんだ」と答えた。ベタだな、とは思うが盗人にとってありがち設定なんて関係ない。待っているのは酷い現実である。


「父さんと俺は別の国から逃げて来たんだ。だけど逃げる途中で父さんがバジリスクに噛まれて、石化にかかった。何とかこの国に入れたけど、父さんを見てくれる人がどこにいるかわからなかった。だけど金さえあれば何とかなるんだ、だから財布を盗ったんだよ!」


 「金さえあればいいんだろ!?」と逆ギレしはじめた盗人にシロは「天誅」と言って頭の上を拳骨で殴る。綺麗に垂直に入ったなぁ。

 盗人は地面に「痛ああああああっ!!」とのたうち回っていた。


「金があっても使い方次第では無駄になるだけだ。とりあえずお父さんのとこに連れてって」

「オウ、大将の悪い癖がでましたよー」

「へーへーすんませんね。あ、名前は?」


 手を拘束していた縄を解き、名前を聞くシロに「え、あ、……トマ」と現状を飲み込めない盗人が答えた。素直な奴だなぁ。

 バジリスクは鶏と蛇が合体したCランクの魔物。蛇側に噛まれると石化する。いつ噛まれたかはしらないが、早く石化を解かないと命にかかわるだろう。


 盗人トマの脛の傷も低級回復薬を飲ませて治してやり、「逃げても追っかけて蹴り飛ばすからな」と脅して家まで案内させた。


「父さんただいま」


 トマが大きな家へと入って行く。貴族地区にあった空き家に身を寄せているらしい。

 しかし大きな家の見た目とは裏腹に、部屋の中はボロボロで穴だらけ。父親の被っている毛布もかなり擦り切れて薄いものだ。


 トマは父親に駆け寄り水を飲ませる。両足と腕は石化が進んでいるようで動けないらしい。鑑定にかけてみると体力も残り少ないことがわかった。



────────────────

『トトマス』(石化:中)

40歳

Lv:20

HP:50(100)

MP:10


◆スキル

剣術:中級


◆魔法

風魔法:中級


◆称号

「犬族の男」

「奴隷兵士」


────────────────



 称号の「犬族」と「奴隷兵士」に首を傾げるが、今はそんな場合ではない。シロも状況の悪さに気づいたのか、舌打ちして「トマ、父さん背負える? 知り合いの薬師に見せるから」と言って、トマと父親を連れて夢幻草店へ。


「エリリー婆ちゃん客!!」


 シロが店に入った途端大声を出した。「お客さん!?」驚くエミリアちゃんを置いて、シロが店の奥へ入って行く。どっちが孫だかわからなくなってないか? 


 「何だいクソガキが! 今日は掃除の日じゃないよ!!」と叫ぶ婆ちゃんに、トマの父親を見せると「けったいな客を連れて来たね! こっちに寝かせな!!」と店の奥にあったソファの上にトマの父親を寝かせてくれた。

 エミリアちゃんは今だ「あわわわわっ、何事ですかクロ君!?」と慌てている。そんなエミリアちゃんを俺が落ち着かせいる間に、シロが婆ちゃんと話をしていた。

 トマは父親の側で「……そうだ、俺を奴隷として売れば金が、父さんが助かる」と歯を食いしばっている。トマ、この国に奴隷はいないぞ。


「婆ちゃん、石化って薬で解けるんだよね? いくらするの?」

「金貨一枚銀貨五枚ってところだね」

「高い。安くして」

「馬鹿を言うんじゃないよ。石化草は売ったら金貨一枚もする珍しいもので、ギルドでも滅多に出回らない薬草だ。調合だってその辺の薬屋じゃできないね! わたしゃ簡単に出来るけどな!!」

「んじゃその石化草取ってくるから、安くしてよ」

「……ふん、いいだろう。お代は調合代だけと約束してやろうじゃないか」

「婆ちゃんならそういうと思った。代金は掃除代の銅貨三枚から一枚ずつ徴収で。あと掃除するのは私達じゃなくてトマね。ギルドに登録させるからギルド経由でよろしく」


 「こいつがやるから」とトマを指さすと、婆ちゃんが「お前さん。掃除をちゃんとしなきゃ、全額払わせるからね?」と言って脅していた。トマは頭を縦にブンブン振っている。


 婆ちゃんに石化草の群生地までの地図を書いてもらい、トマの父親を任せて店をでた。

 トマが父親の側を離れがたそうにしていたことに気づいたエミリアちゃんが「大丈夫! 私がみてるから!! 頑張ってね!」と笑顔で言ってくれた。トマは、顔を真っ赤にし「と、父さんをよろしくおねがいしましゅ!!」と頭を下げていた。舌を噛んでるが、からかうほど俺達は子どもじゃないぜ! と思ってたらシロが「若いねー」と小声でツッコんでいた。


 少年トマ君を俺達はギルドまで引っ張っていき、ギルドに登録させる。そして仮パーティーとして俺達二人とトマの三人を登録して、城壁のすぐそばに生えている薬草採取の依頼を受けた。

 受付のお姉さんに「あら、今日はレオンさんと一緒じゃないのね?」と言われたので、「レオンさんに許可はもらってますよー!」と子どもらしい声を表情で言っておく。嘘はついてないぜ!


 Gランクのカードを貰ったトマを連れて、武器屋と防具屋に行く。俺がトマの装備を簡単に見繕っている間に、シロは野営をするための道具を買いに走っていた。


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