第23話 クロ「美味しいおいしい」



 『成人の儀式』とはヤマトノ国の王がはじめたもので、成人の祝いに国から武器や防具などを贈られるものらしい。


 何故国が武具を配るのかというと、現国王が即位したばかりの頃は国内の治安も、経済も荒れていた。そのため王が「すぐに助けに行けない時もある、それまで自分の身は自分で守れ。腹が減った時は金に換えろ、その金で飯を食え」と国民に配ったことから始まったとのこと。


 武具を配る金があるならそれで経済を回せよと思ったが、不必要な関税を撤廃したり商売の規制を緩和させた金で武具を輸入、輸出などを行ったらしい。

 どこかで聞いたことがあるような話である。



 現在、平民は盾やナイフなど実用的なものを受け取る子が増えてきており、貴族は派手で装飾品のような武具を受け取るようだ。



 「お前たちの成人の際に話すつもりだったが、突然どうした?」とスーさんに聞かれ、「ちょっと人から聞いてー」とはぐらかした俺である。



 織田上総介信長との衝撃の出会いから数日。

 落ち着ける筈もなく、食堂から一歩もでなかった。シロは仕事モードに切り替えたのか、目が据わっていた。銃を構え、窓から気配を探る。俺も気配を殺し、窓から外の様子を伺っていた。

 また連れ回されるのは勘弁して欲しい、命がいくつあっても足りない気分にさせられるからな。


 外出しない俺達の様子に気づいたのか、飯を食いに来たレオンさんが「そろそろ魔物と戦ってみるか」と外に連れ出してくれた。


 しかし、逆効果だった。殺気立っているところに油を注いだら、猶更殺気立つに決まっている。


 城壁の外に出て森の中へ。レオンさんが見つけた獲物を、離れた場所から銃で狙い倒す。

 俺は岩猪、シロは跳び鹿という魔物を一撃で仕留めた。レオンさんが「お前たち、練習していたのか?」と疑問を浮かべて、難なく解体を終わらせた後に「俺はお前たちを過小評価していたようだな」と言われ、やっと我に返った。


 能力チートは隠し、のんびり子どもライフをおくる計画が! と慌てたが、レオンさんは銃が高性能なことと、俺達が隠れて銃の練習や魔物の解体を勉強していたと勘違いしてくれたようだ。どこかズレている人だな。


 お蔭で「二人一緒ならば城壁の外へ出てもいい。ただし油断はするな、森は浅い所までだ。平原は隠れる場所がないから行くなよ」という許可を貰ったのでラッキーだった。これでまとまった金が稼げそうだ。


 倒した岩猪と跳び鹿は食べる分だけ取ってギルドに売った。魔石、毛皮と肉で金貨一枚と銀貨六枚である。美味い仕事だった。

 帰宅して肉をスーさんに渡すと「レオンよ、お前は子どもに何をさせている?」とレオンさんに怒鳴り散らしていた。ククリさんは丁寧な言葉遣いで、静かに怒っていた。目は笑っていなかった、こわい。


 岩猪というのはCランク、跳び鹿は跳んで捕まえにくい事で有名なBランクの魔物だったらしい。いくらレオンさんがいて、はなれた場所から狙ったとしても子どもが相手にする魔物ではなかったようだ。


 その日の夕飯は岩猪のステーキ、跳び鹿肉のスープと豪勢だった。岩猪からは結構な肉が取れたので、夕飯にならなかった分はスーさんが加工してくれるという。ラッキーラッキー。異空間収納があるとしても、加工食品は持っていて損はない。

 いつ何があるかわからない。江戸時代で俺は嫌ってほど勉強させられた。この世界でも準備を怠らず、何が起きてもすぐに対応できるようにしなければならない。


 第六天魔王にも会ったしな、ああいうのはもういりませんが。



 夕飯後、目に光が戻ったシロは「魔王は勇者を相手にするからな、忙しいね、うんうん」と納得し、ニヤニヤしながら銃を手入れしていた。

 こわいこわい言いながらも銃が気に入っているようだ。現代では見られなかったお姿にちょっと笑ってしまった。


 俺達、元『野衾のぶすま』は、刀も使うが銃も使用していた集団だ。武器としては使い慣れているし、仲間の銃まで手入れをしていたシロである。かといって、実行の際に銃を使うのはもっぱら俺か別の仲間だったが。


 うちの大将シロは「刀の方が殺した感覚があるから、狂わないですむ」と漫画の台詞のようなことをいつだったか言っていた。無駄に格好良い奴である。


 ちなみに俺は刀も使うが、どちらかといえば銃派である。

 返り血とかいりません。相手の懐に入りすぐに仕留められればいいが、そうでない時の自分の身が不安なのですよ。人間相手に不安がっているので、人間よりも力の強い動物、魔物相手だとなおさらだ。俺は後衛が合ってるようですね!


 そんな俺の笑い声に気づいたのか、シロが睨みつけてきた。


「気持ち悪い笑いすんな」

「えーだって、ねぇ?」

「何がねぇ? だよ」

「何でもねーよ。それより、信長様から貰える武器何だと思う?」

「へし切長谷部」

「それはボケて言っているのか、オタク心から欲しいのか、どっち」

「ボケたつもり。それよかこの銃、魔力が銃弾だから分解して掃除する手間もないし油も必要ないっぽい。最強かよ、こわいわーめっちゃこわいわー」

「濃いお茶も欲しいか?」

「その口に饅頭突っ込んでやろうか?」


 銃を異空間収納に戻したシロは、ベットの中に潜り込む。

 俺はエミリアちゃん用の算数問題を木版に書くが、『饅頭こわいうまい』を聞いて落語を観に行きたくなった。集中出来なかったため、書くことを諦めて寝た。


 信長様がいるならこの世界にも日本の伝統文化くらいありそうだ、今度調べよう。


 

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