第21話 遊べと言われると意外と何をすればいいか分からなくなる。


 今日は休みにしろ。と朝飯のサンドウィッチとスープを啜っていたシロとクロにスーさんが言った。


 二人がヤマトノ国に来てそろそろ一ヶ月経つだろうか。

 毎日ギルドに足を運び仕事探し、暇があれば下宿先の食堂の手伝い。と子どもらしからぬ日々の過ごし方に、スーさんとククリさんは「休ませなければならない」と思い立ったらしい。

 シロとクロに小遣いを渡した夫婦は「今日の手伝いは無し! 遊んで来い!!」と二人を外に遊びに行かせた。放り出したともいう。


 小銭を手で遊ばせるシロと、棒立ちのクロは困ったように顔を見合わせた。


 遊ぶってなんだっけ、休みの日って何をすればいいんだっけ。

 ゲームも漫画もないこの世界でオタク活動なんて何も思いつかなかった。しかも二人とも自分で作るタイプのオタクではなく、ロム専。


 現代での休日は布団に潜る日だった。過去では生と死の狭間を駆け抜けていたので、休日なんぞなく。


「クロ、子どもの遊びとは?」

「さぁ……?」


 とりあえず、歩くか。と二人は歩き出す。途中出店で串肉を買い食べる、何の肉かは不明だ。


 肉を頬張りながら、キョロキョロと城下町を歩く。二人が歩いている場所は冒険者や平民が多く住む地区だ。折角だからと行ったことのない貴族が住む地区へ進んでみることに。

 貴族地区に近づくと日本風な建物が目立ってきた。景色をみて大正浪漫という言葉が脳裏に現れたシロだった。

 クロは小さく「混ざってんなぁ」と呟いていたが。


 貴族地区にあった本屋に入ってみたが、値段をみてそっと棚に戻した。金貨十枚の本。金貨一枚あれば一年間は暮らせるのだから、十年分ということになる。

 本屋の店主も子どもが何しにきたと睨みつけてきたので、二人はすごすごと店を出た。



 その後もあてもなく町を歩く二人。

 いつの間にか買い食いが唯一の楽しみになっていて、芋の揚げ物を発見した瞬間に叫んでいた。芋の揚げ物は正義である。


 広場にある噴水の縁石に座り、大量に購入した揚げ芋をもっさもっさと頬に詰め込めるだけ詰め込んで食べていると、二人の上に影が差し込んだ。


 何事だと二人同時に顔を上げれば、男が一人。

 男はシロとクロを不思議そうに眺めたあと、ニコリと微笑む。微笑を向けられた二人は、二つの意味で驚き固まっていた。



 一つ目は、誰だこいつ。


 二つ目は、どこかで見たことがある気がする。



 そんな二人の反応に対し気にも留めていないのか、暗い深緑色の着物に黄色の帯、黒の長羽織を着て、左に刀を二振りはいている黒髪の男は、二人に話しかける。


「お主ら、随分はっきりとした黒髪だな。迷い人……にしてはステータスが低い。先祖に迷い人でもいるのか?」


 「どうだ?」と聞く男にとりあえず頷く二人。シロは「ステータスを見られた、鑑定持ちか!」と心の中で叫び頬を引き攣らせていた。クロも「ヤッタ初鑑定持ちの奴だ!」とラノベ展開に心を躍らせている。イベント発生らしい。

 シロは鑑定し返してやろうかと思ったが、バレる可能性もあると判断。クロの手を掴んで駆け出した。


「知らない人とは話しません!!」


 不審者に会った時の対応で逃げ出そうと目論んだ。しかし、クロが我慢できなかったのか鑑定を使ってしまった。気づいた男が「ほぅ?」と感心し、二人の前に回り込む。

 速い、くそっこんな人が多い場所で誘拐はないよな!? とシロはクロの手をぎゅっと握りしめる。対してクロは鑑定内容に驚いて言葉が出なかった。


「坊主、今ワシに鑑定を使ったな? 何と見えた?」

「あ、いや、その……」

「別に何もせん。ほれ言ってみろ、ワシの名前は?」

「お、おだ、かずさのすけのぶなが……」

「レベルは何じゃった?」

「ひゃ、ひゃくじゅうはち……」

「ほうほう、そこまで見えるのか。隠蔽魔法をかけているワシの名と、レベルが見えるお主の鑑定レベルは上級とみた」


 「面白い人材を見つけた」と笑う男、織田上総介信長。その名前通りの男ならば、なんとも滅茶苦茶な巡り合わせである。


 戦国時代。第六天魔王を名乗り、うつけものと称されながらも、その手腕で天下統一の道筋をつくり出した日本における歴史的偉人。

 日本人で知らぬ人はいないであろう有名人である。そんな人が何故異世界に。


 何故、現代から召喚された私たちと同じ時を生きているのか。


 何故、若い姿なのか。


 色々と謎が浮かび頭が混乱しているのか、名前を聞いたシロは「んんんっ!?」と声を上げ、クロは「キャパオーバーです」と目を回している。


「その反応からして、嬢ちゃんもワシのことを知っているか。そーかそーか、ワシも有名になったなぁ」


 顎を撫でながらニヤニヤ笑う織田信長だったが、シロが「なんで、織田信長がこんな所に……」と小さく呟いた声を聞き逃さなかった。


「うん? ワシが思ってた反応とはちと違うの。ワシの正体ではなく、名前に驚くか……もしやお主ら迷い人の血族ではなく、本物の迷い人か?」


 「面白い、面白いぞ!!」と勢いよく二人の腕を掴んだ織田信長は、「飲みに行こう!! もっと話が聞きたい!!」と二人を何処かへ引きずっていく。

 途中、我に返ったシロが「すみません離してください!!」と叫ぶが、「はっはっは!」という笑いしか返ってこなかった。クロは戦闘不能とばかりに力なく引きずられていった。


 

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