第20話 シロ「メンタルケアは大切」



 深夜。ひとり銃を背負って、窓から外へ。

 

 屋根の上に音もなく降り立ち、駆け出した。


 家と家の間を駆け、跳び、城壁の上を軽く越えて、着いたのは森の中の開けた場所。ついこないだ倒してしまった木は倒れたままである。片付けた方がいいかなーと腕を組み考えていると、後ろを着いてきていた影が姿を見せる。


 クロだ、背伸びをし大きく口を開けて欠伸をしている。眠れそうならベットに入ればいいものを。なんでついて来たんだか。と呆れる。


「眠いなら寝てなよ」

「いんや、うちの大将は見張ってないと何するかわからないからな」

「何かやらかした記憶ないけど」


 「は? やらかしまくりだろ」というクロに「えー?」と首を傾げる。記憶を漁ってみるが、さて何をやらかしたか。


 野衾のぶすまと勝手に名をつけられたことか。


 それとも新選組と鉢合わせして勢いのまま斬りつけたことか……。

 いやーあれはびっくりしたね。仲間たちには新選組と見廻組に手を出すなと言っておきながら、出てしまったお手々でした。だって教科書通りのお顔だったんだもの、久々に驚いたなぁ。あとでクロに怒られたけど。


 うちは闇の組織をうたってましたから、姿をみせないのが売りでしてね。


「気がついたら死んでるとか、二度とごめんだからな」

「あぁ、それね。いや普通さ、仲間を置いてちょっと蝦夷までバトルしてくる。とか言ったら察しない?」

「察しない」

「あぁそう……クロはさ、私の隣にいつまでいられる?」

「んー、シロが死んだって聞いた時無理にでもついて行けばと思ったから。今後はシロが嫌がっても隣に居座り続けるぞ」

「死んでまた元の世界の、元の時代に戻ったとしても?」

「現代かー、男女が一緒にいるだけってだけで騒ぐからなぁ。うるさくない海外にでも逃げようぜ」


 「うん、我ながらいい案」と頷いているクロに、息を大きく吐き出して、私は笑いだす。


 死と生の繰り返し、可能性のある永遠ループ。それをこわいと感じた。


 死ぬのも大変だが、生きるのも大変だから。

 やっと人生が終わったとしても、また同じところから繰り返されるなんて、頭が可笑しくなるに決まっている。



 だけど、まぁ……クロがいるならなんとかなるか。



 ちょっとセンチメンタルな気分になって損したわ。と頬を叩いて気分を切り替えた。

 それに、次死ぬのは、もう少し先の話。




 今はこの『異世界』を楽しもうか!




「どうした急に? 帰りたくなったかシロ」

「帰らない。この際だ、異世界生活を楽しんでやる!!」


 腕を振り上げた私に同調するように「お、おう!」と腕を上げるクロに笑った。いつもながらノリのいい奴である。私より前に出ないのがちょっと難点だけど。クロが前に出ても私は隣で着いて行くのに、こいつはいつもちょっと後ろに構えている。


 理由はわかってる、ただの人見知りだ。教師をやっていた割には目立つのが嫌いらしい。

 前に出ると視線が集中するから嫌なんだとむかし話していたが、私も苦手だっつーの。



 さて、切り替えてこの森にきた目的のことを実行すべく、クロに向かって姿勢を正した。


「ということで、異世界を満喫すべく新しいスキルと魔法を使えるようにしたいと思います」

「どういうことかわかりませんが、あいあいさー! で、どの魔法が使えるようになりたいんだよ?」

異空間収納イベントリと回復魔法。回復魔法は言わずもがな、異空間収納は両手を空けておきたい私にとってめっちゃ便利」


 「とりあえずやってみれば?」とクロが言うので、やってみることにした。

 まずは空間魔法。空間とはなんぞや? と思いつつ、イメージしたのはブラックホール。しかし無限の空間に吸い込まれるものとは、よくわからない。口の中に消えていく感じだろうか。

 収納ではないけど何かに使えそうだなと思い、クロが作った焚き火に向かって≪火を、喰え≫と詠唱してみた。すると炎が空間に『喰われた』薪はそのまま、既に燃えていた部分は黒く炭になっている。


「……シロ、今、何をした」

「あーうん、ごめん。失敗」


 「次!」とクロに睨まれながらも、新しいイメージをつくる。

 収納、仕舞う。仕舞った時の物体の時間はそのままに、いくらでも入る空間。あ、目録もつけて検索機能も追加。



 ≪異空間収納≫



 倒れていた木に向かって日本語で詠唱すると、木が消えた。瞬間目の前にポップアップがでて、丸々一本の木がアイコンのようなものが表示されている。

 ゲームのようなのは、私のイメージのせいだな。船で会ったお爺さんとは違い、魔法陣は現れなかった。何が違うんだろうか、よくわからない。


 時間の経過も確認しようと、クロが再度つけた焚き火から火がついている枝を一本だけ異空間収納へ。しばらくクロと時間を潰し、異空間収納から燃えている枝を取り出してみると火がついたままだった。

 異空間収納に入れていない焚き火はとうの昔に燃え尽きているが、異空間収納に入れた枝に変化は見られない。完璧。


 最後に無詠唱、物に向かって収納したいと思えば収納されるのかを確認してみることに。

 クロに銃を持たせ、少し離れた位置から銃を収納と念じると、クロの手から銃が消えた。ポップアップ表示を確認すると銃のアイコン。完全にゲームのようになってしまった。チートとはこわいものである。


「クロ、異空間収納できたから教えるね」

「おっけー。あ、空間って共有できないか? その方が銃を手渡しするよりも楽だし、色々便利そう」

「出来たら楽だろうけど、何か私に見せたくないものとかないわけ?」

「エロ本とかか? シロに性癖がバレても痛くも痒くもないな!」

「あぁそう……」


 そんなこんなで、異空間収納に共有欄を増やしてみたら簡単につくり出すことが出来た。

 一応個人フォルダみたいなものも作ったが、作ってから「エロ動画用の隠しフォルダかよ」と思ったのでお蔵入りになることだろう。


 回復魔法は医者でも理系でもないからか、回復のイメージが掴めなかったので、『元の状態に戻す』をイメージし≪復元≫としたところ、上手くできた。


 試しにナイフで指をちょっと切って復元したら、元に戻った。流れた血も元に戻る、動画を巻き戻しているような感覚だった。

 物は試しと、クロが銃で穴を開けた木に手を当て復元をすれば、穴が塞がった。……回復よりも使い勝手は良さそうだ。どこまで復元できるのかはまだ不明なため、今後調べていこうと思う。一番は使わない状況を保ち続けることだけど。


 ステータスを見てみれば、知らないものも色々と増えていた。創造で作ったものは全てスキルに分類されるらしい。創造ではスキルしか作れないということだろうか。

 調べる必要があるが、暇な時にでもやろう。


 とりあえず、これ以上スキルを増やすのはやめておこうと思う。人外になりそうだ。人間はやめないぞ!



────────────────

『シロ』(深山真白)

12歳(58歳)

Lv:98

HP:9988

MP:9988


◆スキル

剣術:神級

銃術:神級

格闘術:神級

暗殺術:神級

馬術:上級

詐術:上級

鑑定:上級

創造:上級

完全偽装:神級

言語習得:神級

異空間収納:神級

復元:神級


◆魔法

火魔法:下級

水魔法:中級

土魔法:下級

風魔法:下級

光魔法:下級

闇魔法:下級

空間魔法:下級


◆称号

「刀神」

「侍大将」

「維新の英雄」

「紅き修羅」

「異世界召喚者」

「神のいとし子」


────────────────


────────────────

『クロ』(黒田海斗)

12歳(68歳)

Lv:95

HP:9958

MP:9958


◆スキル

剣術:神級

銃術:神級

格闘術:神級

暗殺術:神級

馬術:上級

詐術:中級

鑑定:上級

創造:上級

完全偽装:上級

言語習得:神級

異空間収納:神級

復元:神級


◆魔法

火魔法:中級

水魔法:下級

土魔法:下級

風魔法:下級

光魔法:下級

闇魔法:下級

空間魔法:下級


◆称号

「刀神」

「侍副大将」

「蒼き刃」

「維新の英雄」

「異世界召喚者」

「神のいとし子」


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