第18話 クロ「算数のお勉強です」


 床に散らばったゴミを掃き集めたあと、エミリアちゃんに床に水をまいてもいいか聞く。ここまできたら最後まで掃除してやろうという気分だ。


 エミリアちゃんの許可がおりたので、サンダルを脱ぎ捨てブラシを持ち「シロー水まいてー!」と脚立の上で棚の奥を掃除してるシロに声をかける。すると俺の頭の上に水をぶっかけてきたので「あっぶねばか!」と回避し怒っておいた。シロの口がにやけているので第二波に注意しよう。エミリアちゃんもいつの間にか掃除に参戦していたが、店を閉じているにも関わらずお客さんが現れたのでその対応をしている。常連さんらしく店が閉じていようといまいと関係無いようだ。


「悪いね掃除中に、ガキどもしっかり働けよ! で、エミリアちゃん下級回復薬三つと気付け薬四つくれ」

「はーい! 合わせて銀貨一枚と銅貨四枚です!」

「ん? エミリアちゃん下級回復薬は一本銅貨三枚で、計銅貨九枚。気付け薬が一本銅貨二枚で、計銅貨八枚。合わせて銀貨一枚と銅貨七枚だよ」

「えぇっ!? そんな、私間違えてませんよ!!」

「計算早いな坊主。エミリアちゃん、もう一回ちゃんと計算してみな?」

「え、あ、少々お待ちください」

 

 「ふええええ!!」と計算をやり直しているエミリアちゃんだが、慌てすぎているのか元々不得意なのか上手く計算が出来ないようだ。見かねた俺は会計場所にあった銅貨をカウンターの上に載せ、実際に数えさせる作戦に出る。常連のおっちゃんは笑いながら待っていた。いい人だなー。その間シロは下級回復薬と気付け薬を袋に詰めていた。


「エミリアちゃん下級回復薬一本は銅貨何枚?」

「銅貨三枚です」

「はい、今机の上には銅貨三枚あります。もう一本分の銅貨を置いてみてください」

「えっと、三枚、置きました!」

「ではもう一本分置いてください。……置きましたね、今銅貨は何枚ありますか?」

「えっと、いち、に、さん、……九枚!」

「よくできました。では気付け薬の銅貨を置いてみましょう。まずは一本分」

「はい! 気付け薬は一本銅貨二枚だから、二枚置く」

「また一本分置いてください」

「はい、二枚置く……」

「最後は二本分置いてみましょうか」

「はい、えっと一本二枚だから、二枚と、二枚……です!」

「では気付け薬の銅貨は何枚ありますか?」

「えっと、いち、に、さん、……八枚です!」

「すごい! では下級回復薬の銅貨と気付け薬の銅貨を一緒にします。はい、数えましょう」

「えーっと、いち、に、……十七枚です!」

「ちゃんと数えられたね、偉い! では銅貨は何枚で銀貨になりますか?」

「じゅうまい!」

「正解! じゃ銅貨十七枚は銀貨何枚ですか?」

「銀貨一枚です! 残り七枚は銅貨!」

「ちゃんと数えられたね、すごいすごい! エミリアちゃん、お客さんにいくらか伝えようか」

「はい! 銀貨一枚と銅貨七枚になります!!」


 「わかった!」とおっちゃんは銀貨一枚と銅貨七枚をエミリアちゃんに渡し、エミリアちゃんが銀貨と銅貨の数を確認したことを見届けてから商品を受け取り「またくるぜ!」と去って行った。いい人だなー。使った銅貨を元の場所に戻し、俺は掃除を再開した。瞬間「うああああああああっ!」という泣き声が聞こえた。


 何事かと思えば、エミリアちゃんが大泣きしながら「ちゃんと計算できたあああああっ」と叫んでいる。老婆も泣き声が聞こえたのか慌てて様子を見に来た。店が水浸しになっていることに「何やってんだいあんた達!!」と怒っていたが、エミリアちゃんが泣きながら説明してくれたお蔭で事なきをえた。

 

「何だいあんた達計算ができるのかい、ならエミリアに教えてやってくれ。この子ザル勘定だからね。あと字は書けるね? 棚にある商品の数を数えて、一個の値段と在庫の合計金額を書いてまとめておくれ」


 と言いたいだけ言って、奥に引っ込んでいった。仕事が増えた、だと……? シロは「薬草ってどう数えればいいですかー!」と部屋の奥に叫んでいた。教えるのは俺ですか。


「あの、お願いします私に計算を教えてください!!」

「え、えぇ、シロの方が教えるの上手だよ……なぁシロ」

「私は棚卸で忙しい」

「たなおろしとは」

「在庫管理のことさ、毎月やってた私には苦もないね!! かかってこいや!!」

「シロって教師じゃなかったけ?」

「バイトでやってただけ」

「あぁ、俺バイトしたことないや……いいなぁ」

「なんかムカつくなぁ、さっさと掃除終わらせて算数教えろ先生!」


 べしゃっと水をかけられた俺は「エミリアちゃん、掃除終わったら教えるね」と水に濡れたまま床を磨き始めた。覚えてろよシロ……。


 床をエミリアちゃんと一緒に磨いてさっさと終わらせ、算数を教える。初めは銅貨と銀貨など実物を数えさせていたが、段々書いた方が早いなと思い書くものを持ってきてもらった。エミリアちゃんが持ってきたのは俺達も持っている木版だった。子どもの勉強にはやっぱりこれらしい。

 シロはというと、老婆を店の奥から引っ張り出してきて「あれは一本? 一束?」「一束だよ」「お婆さん! 売るならもっとわかりやすく!! あと結界石は一個では発動しないんですから発動する四個で一つの商品にして売った方がいいです!!」「うるさい子だね!! わたしの売り方にケチつけんじゃないよ!!」「ケチつけているわけじゃないです、提案をしているんです!!」と言い合いを始めていた。あの老婆に食いつくか、強いな相変わらず。


「できた! クロ君、あってるか確かめて!」

「はーい」


 俺は木版に簡単な計算問題を書き、エミリアちゃんに解いてもらうを繰り返していた。分からなかったら物を使って目でみて数えさせる、ちびっ子に教えるのと同じだな。俺高校の免許しかもってないけど。




 夕方。掃除もとうの昔に終わっていたので、依頼書にサインをもらう。エミリアちゃん用の計算問題を木版に追加で書いて「宿題ね」と渡せば「ありがとう!」と笑顔をくれた。その笑顔が眩しい、宿題を喜ぶ生徒なんて初めてみたぜ!

 シロは老婆と仲良くなったのか「また依頼するよ。お前なら上級回復薬の調合を教えてもいい! かわりに店の在庫管理を頼む!」と言われていた。すぐさま「在庫管理は毎月自分たちでやってください、あと掃除も毎日やればあんなに汚くならないです。あ、回復薬の調合は教えてください」と断っていたが。おいこら、仕事先減らしてどうする。


 エミリアちゃんと老婆に手を振り、依頼達成の報告をしにギルドへ向かう。シロは「お腹減ったぁ」と腹を鳴らしていた。ちなみに俺の腹も鳴っている。そういえば昼飯を食い損ねていた。あ、昼いらないってスーさんに言うの忘れてたな……怒られるんじゃないかこれ。


「シロ、俺達もしかして夕飯抜きかもしれない」

「なんで?」

「スーさんに昼いらないって言うの忘れてた」

「あー……土下座するか」

「ジャパニーズ土下座、通じるか?」

「ギルドに畳があるんだ、通じるでしょ、多分」


 ぎゅるぎゅる腹を鳴らしながら、ギルドで銅貨三枚を受け取り帰路につく。


 帰宅後、スーさんに「飯がいらない時は早めに言えっていったよなぁ?」と熊の形相で怒られ反省していると、レオンさんが「買い物に行ったら婆さんに頼まれた」と上級回復薬と魔力回復薬の詰め合わせをもって現れた。なんでも仕事帰り薬の補充で店に行ったら、老婆に届けろと命令されたらしい。


「あの薬屋の気難しい婆さんに気に入られたのか!! 飯のことを忘れるのはよくないが、しょうがねぇ今日は見逃してやる」

「二人とも明日からはお弁当にしましょうね!」


 「今日は鶏肉とトマトの煮込みだ! ちと辛いぞー!」とスーさんとククリさんは笑って許してくれた。レオンさんさまさまである。


 夕飯は思った以上に辛かった、火を吐くかと思った……。



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