第17話 クロ「お掃除しましょう」


 お互いを抱き枕にしないと眠れないことに気づいた。こっぱずかしいのだが、寝れないものは仕方がない。それに俺の精神年齢は爺、シロは婆……棺桶の中で揃って横になっている姿を想像してしまった。勘弁してくれ俺の脳みそ。


 二人同じ部屋で眠っていたことはスーさんとククリさんにすぐバレたが、姉弟と思われているらしく特に何も言われることも無かった。見た目は子どもだからな。実際色っぽいことはない、する気も起きない。される気配もない。今も昔も変わらない関係、出会った当初は何を考えているかさっぱりだったが、今なら分かる。男女の友情は成立しないと聞くが、成立してるな。何故男女になると色っぽい事が起きるという思考になるのだろうか、俺には分からん。


 今日はしっかり眠れたので朝飯を食べた後、俺は水汲み、シロは店の掃除を手伝ってからギルドに向かった。今日の銃当番は俺である。触りたくないのだが、何かあった時武器がないのはとても困る。それにチート能力がバレた場合、武器のお蔭だと言えばいいだけなので相談の結果持ち歩くことに。あの好々爺にはもう一度あって文句を言いたいような、お礼を言いたいような、複雑な気分だ。


 ギルドの扉をくぐれば、朝の時間帯のせいだろうか人が多く騒然としている。あの人混みの中に突っ込んでいく勇気はないので、まずはどんな依頼があるのか確かめようと『Gランク』と書かれた掲示板の前に向かった。流石にこのランクの掲示板の前には誰もいない、人混みがあまり得意ではない俺にとっては楽園である。


「店の掃除の手伝い、しかないな」

「報酬銅貨三枚、Gランクで稼げるのは小遣いまでだね。今までがラッキーだったか」


 今日は大掃除を受けようと紙を剥がし、他の冒険者たちが引けるまで暫く待つことに。壁際にあった椅子に二人で座って待っていると、レオンさんを見かけた。誰かを探しているようだが、と思ったら目が合ってこっちに近づいてくる。俺達に用事があったらしい。そういえばレオンさんは俺達の面倒を見るのが仕事だったな。給料は出ているんだろうか。


「クロ、シロ、今日はちゃんと来たな。どんな依頼を受ける?」

「店の大掃除しかなかったので、これを受けます。えーっと、シロ読んで」

夢幻草店むげんそうてん、仕事内容は掃除、報酬は銅貨三枚って書いてる」

「あの薬屋か、ならば俺は必要ないな。忘れていたがお前たちの一ヶ月の生活費はギルドカードを見せれば引き出せるからな。金は換金所から受け取れる」


 「ではな」と去って行ったレオンさんを見送った。換金所というのはその名の通りである、魔石や倒した魔物の毛皮や牙なんかも売れるらしい。俺は現代っ子だけど獲物の解体は出来るぞ、江戸時代にパック売りされている肉なんてなかったからな。

 やっと人が減ってきた受付に並んで、依頼書の手続きをしてもらう。今日は袴姿のお兄さんだ。ギルドの制服は着物なんだろうか、謎である。

 受付のお兄さんに道を聞いて、歩くこと数分。エドの中でも門や壁に近い冒険者が多く住んでいるエリアに店はあった。


 店の中に入り「こんにちはー! ギルドの依頼で参りましたー!」と二人揃って叫ぶと、店の奥から耳の長い老婆と同じく耳の長い女の子が姿を見せる。エルフ族だ、近くでみるのは初めてなのでじっと見つめてしまい、女の子が視線に気づいたのかモジモジと身体を揺すり恥ずかしそうしていた。


「ふん、二人か。報酬は銅貨三枚だけだ、人数分は増えないからね。詳しくはこの子から聞きな、わたしゃ店の奥で調合しているから終わるまで話しかけるんじゃないよ!」


 「はい」と了承する間もなく、エルフの老婆は店の奥に引っ込んでいった。気難しそうな人だ。この手の人は程々な距離感が一番いい。エルフの女の子は「おばあちゃんがごめんなさい! ちょっと言葉遣いが荒くて……」と頭を下げた。気にしていないという旨を伝え、さっそく掃除の内容を教えて貰う。


「えっと掃除は店の中だけです。棚の中と容器に入った商品は拭いて元の場所に戻してください」


 「割れ物が多いので気をつけてくださいね!」という指示と箒と雑巾を受け取り掃除開始。俺が箒、シロが雑巾だ。いつから掃除していないのか土と埃が酷く、本当にここは薬屋かと疑ってしまう。あー天井の端に蜘蛛の巣が、異世界にも蜘蛛はいるのか。これ魔物扱いになるのかな。とりあえず天上の埃を払ってしまおうとエルフの女の子に大きな布は無いか聞くことにする。


「えっとすみません、大きな布何枚かありませんか? 汚してもいいやつ」

「あ、私エミリアといいます! 布なんてどうするんですか?」

「俺はクロ、そこにいるのがシロです。布は商品の上に被せて埃避けにします、天井から掃除したほうがよさそうなので……」

「す、すみませんお婆ちゃんも私も掃除が苦手で……。今持ってきますね!!」


 小走りで奥へ消えていくエミリアちゃんを見送り、棚をごそごそしているシロをみる。そう言えばシロも掃除が苦手だったな。人目につく場所は綺麗にしているのだが、自分の部屋は汚いタイプの掃除嫌いだ。仕事での掃除はキッチリやるから心配はしていない。

 思えば色んな掃除ころしをしたもんだ、ある御家人の家を掃除したし、京にあった大店も大掃除したなぁ……。ところで棚の奥に顔を突っ込み過ぎて尻を振っているようにしかみえないぞ、誰へのサービスだ。


 大きな布を数枚持ってきたエミリアちゃんと一緒に商品の上に布を被せ、天井の埃を一気に掃いてしまう。その後いらない茶殻と、足りなかったので使えなくなった薬草を適当な大きさに切りシロの水魔法で浸して床にまく。これで埃が舞い上がる事は無いし、ごみも茶殻と草に絡まって取りやすくなる。

 本当は新聞紙を濡らしてやるんだが、紙は貴重品だ。教えてくれた家庭科の先生に感謝だな。

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