第16話 シロ「眠れないってかなり辛い」
ククリさんが「朝ご飯よー!」と起こしに来てくれたので、重い瞼を上げ、服を着替えて、回らない頭のままククリさんの後ろをよたよた歩く。何故かクロもフラフラしていた。洗面台に案内されて「水は井戸からくんでいるのよー」という説明をききつつ顔を洗う。さっぱりしないまま居間に連れて行かれて、テーブルの前に座った。スーさんは今日もエプロン姿で、テーブルの上に鍋を置く。
「なんだ二人とも眠れなかったか?」
「ちょっとだけ……すみません、何をお手伝すれば。クロ起きろー」
「あああゆらすなああああ」
「あー今日はやらなくていい。眠いなら朝飯食って寝ろ」
スーさんが「食え」と鍋から皿に盛りつけたお粥を出す。スプーンですくって口に運び、もぐもぐと口を動かすが、どうも味がわからない。ククリさんが「困った子達ねぇ」と笑っている。
なんとか食べ終わると、近くのソファーにクロと一緒に座らされた。クロの体温がぬくい、子ども体温かよ……と思いつつ、瞼が重くなり、ククリさんとスーさんの声を遠くで聞きながら意識を手放した。
目を覚ました時には、スーさんもククリさんもいなかった。
やべ、寝すぎた! と飛び起きようとしたら何かに引っ張られる。クロが私の服を掴んでいたらしい。子どもか。いや見た目は子どもですけど。「起きろー」とクロの頬をぺちぺち叩けば「あと五分……」と唸り夢の中へ戻りかけたので、鼻と口を塞ぐ。しばらくすると息苦しそうにのたうち回ったあと、目を大きく開いて飛び起きた。
「はぁはぁっシロ俺を殺す気か!?」
「すぐ起きないクロが悪い」
「しょうがねぇだろ、昨日寝れなかった」
「あー、私も寝れなかったんだよね。魔力使った所為?」
「かもなぁ、にしては飯食った後爆睡だったけど」
「はっ、ご飯で思い出した。今何時!?」
この世界は時計ではなく鐘で時間を知ることができる。タイミングよく鐘が聞こえたので耳をすませば、三回鳴り響いた。明るいのに三回だけってことは、午後の三時ということ。
鐘は一度に最大十二回しかならない、夜の十二時とお昼の十二時を知らせる鐘が十二回鳴るように出来ているらしい。完全に寝すぎたようです。
ぐぅーと腹の虫も鳴り、二人でどうする? と顔を見合わせていれば、ククリさんとレオンさんが居間に姿を見せた。
「あら、二人とも起きたのね。おはよう」
「おはようございます……すみません、寝てしまって」
「いいのいいの、子どもは寝て育つよ! お昼のキッシュがあるけど食べるわよね?」
「「食べます!」」
ソファからテーブルに移動し、キッシュを頬張る私とクロ。そんな私達にお茶を淹れてくれるククリさんと、本を読むレオンさん。……何でレオンさんもいるんだろうか。あ、ギルドに行くと思っているのかな、流石にこんな時間からは行かないけれど……。
「二人とも、今日はギルドへ行くなよ。今朝ツーベアーという魔物が門の近くをうろついていたらしくてな、討伐はされたがまだ他にいる可能性もあると冒険者たちが騒いでる。今は行かない方がいい」
「そのツーベアーのランクはどのくらいですか?」
「Cランクだな、パーティーで狩る魔物だ」
やっぱり魔物だったんだ……とキッシュを頬張る。クロは「知らん顔だ知らん顔」とキッシュを口の中に詰め込み、栗鼠やハムスターみたいな顔になっている。鏡見ろ鏡。
「言っておくがツーベアーと獣人は全く別物だ。スーおじさんや、他の獣人の前でそんなことを言ったら殺されるからな」
「そうよー魔物はね魔石が身体の中にあるの、それに理性も無いのよ。対して獣人は魔石を持っていないし理性もはっきりあるわ。見た目も魔物とは大違いだから間違えないでしょうけど。うちの人は全身熊でしょう? かなり珍しいのよー?」
「普通は耳だけとか、顔だけ獣の人が多いわ」と教えてもらいました。下手を打つ前に教えてくださってありがとうございます、危なかった。
ククリさんの淹れてくれたお茶を飲み、ほっと一息。レオンさんはそれを言う為だけに待っていてくれたらしい、優しすぎかよ。と頭を下げたら「暇なのよこの子! クリスが居ないとだめねー!」とククリさんがレオンさんの背をバシバシ叩いて笑っていた。レオンさんは慣れているのか、いつものクールな顔で本を読んでいた。
寝てすっきりした私たちは、夕方から食堂の皿洗いを手伝い、午後の鐘が九つ鳴った頃に布団に入った。が、寝れません。しょうがねぇ、クロにちょっかいかけてこよう。と隣の部屋に侵入すれば、机に向かって勉強しているクロの姿。真面目かよ。
「何勉強中? 寝れないから構えよ」
「何だよ、シロも寝れねぇの?」
「ほうほう、寝れないから勉強してたと。真面目だなー」
「元教師が言う言葉じゃないな」
「今日も寝れないってことは、魔力を使い過ぎて頭が覚醒したわけじゃなさそうだね」
「だな、精神的に落ち着かないだけじゃね?」
「精神安定剤が必要だと?」
「ストレス溜まってたんじゃないか? 異世界召喚とかただの誘拐だし。それか気を張っているかだな。今仕事モードにしてないんだけどなぁ、無意識かなぁ」
「どうするよ? 子どもらしく一緒に寝る? 」
「別に俺は構わないけど。男女が同じ部屋の同じベットとか、あまりよろしくないぞ」
「今更何を言っているんだ。それに私に気があると?」
「それはない」
「即答されるとムカつくわー」
「やだーシロちゃん僕が好きなの?」
「好きだけどそういう好きじゃない。思い上がるなよクソガキがぁ!」
「最後の台詞が悪役すぎる」
騒ぎながら一緒に布団に入りしばらくしたら、寝落ちていた。
朝、目を覚まし、また私の服を掴んでいるクロの鼻と口を手で塞ぐ私がいた。いや、なんかイラっとしたんだ。悪気はない。
息苦しさで飛び起きたクロは、涙目で「シロのばか!!」と叫んでいた。台詞がヒロイン寄りなのがまた苛つく。
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