第15話 シロ「こっちくんな」



 召喚されてから、かなりテンポよくここまで来た。この世界に来てまだ六日であるにも関わらずだ。


 正直、ここまですんなりと生活基盤が決まるとは思ってもみなかったし、嫌な奴という人はディクタチュール国の王以外出会っていない。


 子どもの姿だから上手くいったのだろうか、多分そうだ。この世界は子どもにかなり甘い。


 だけど、いつ誰が敵になるかわからない。

 「誰も信用するな」と、私を拾った男に言われ続けて来た所為だろう、他人を信じることはなかなか難しい。


 クロですら、死ぬか生きるかの間を一緒に駆け抜けたからこそ、信じることができるんだ。かなり時間がかかったとは思う。


 現在の私は、ちょっとやそっとじゃ他人を信じられない。




 と言うことで、深夜です。今晩は。


 現在ヤマトノ国王都エドを囲む壁の外側に来ております。理由は自分たちの実力を知る為です。知らないとどこまでがセーフティラインかわかりませんからね。ギルド依頼もどれを受けるか悩むし、レオンさんの目の前で本気を出さないと決めた以上、まずは本気がどの程度か知らなくては。


 眠いのか目を擦っているクロの頭を軽く叩き「警戒よろしく」と言って、私は銃を背負い直す。腰にあるナイフはすぐに取り出せるようにしておく。


 街を囲む壁の上からざっと見た時は平原地帯と森林地帯、身を隠すなら森だ。

ということで森の中を探索中です。生き物の気配を探るのには馴れてはいるが、ブランクもあるし、何より身体の大きさが違う。その為、魔力操作で覚えた魔力感知を使っておく。しかしクロが光り輝いて見えるのでどうにかなんないかな、と思っていたら光が色の無いものへと変化した。目に見ている様で、見えない感じはちょっと気持ち悪い。色々言いたいことがあるが、これで常に使えるようになったので文句は言わない。

 

 ある程度進んだところで、前を歩いていたクロが手で合図をだす。開けた場所を見つけたらしい。

 門から距離を取った事だし、付近に他の気配は無し。大きな音を立てても大丈夫だろうと判断、適当な木に向かって銃を構えた。

 


〈魔力装填・範囲一本・目標固定〉



 ゆっくりと引き金を引いた。

 瞬間パァンッという音はせず、ただ木の幹が撃ちぬかれた。無音だった。


 息を吐き出し、構えを解く。久しぶりで緊張した。


「はー、疲れた。クロ警戒は続けてね」

「わかってる。それより、その銃こわいな。音がしない、匂いもない。あるのはせいぜい魔力の残りカスか? それもあるか無いかギリギリってところだな。こえーわ」

「そだね、使いどころ間違えると危ない。あと範囲指定で同時に何体も攻撃可能ぽいな。おっかないから箪笥の肥やしにしたいね」


 適当に集めた枝と燃えそうな枯草を集め、火魔法〈火よ〉を詠唱すると、火がついた。焚き火も簡単すぎて笑えない。


「レオンさんに魔法教えて貰ってて正解だったな、火打石がいらないとか楽」

「あんまり楽をし過ぎると後がこわいけどね」

「んで、どうよ。自分の実力わかったか?」

「まぁ、ある程度は。身体が小さいのにも馴れてきたし、次クロが試してみなよ」


 クロが銃を構えて感覚を確かめている間、私が警戒をする。ついでに先ほど撃った木を見に行けば、銃痕がハッキリと残っている。よくみれば穴から反対側の景色が見えていた。おっかねぇ……現代の銃もおっかないけど。


 クロも木を数回撃ったあと「これ生き物に向けるのやだ」と言っていた。つくづくチートに向かない私達である。


 そのあと投げナイフの練習だ! と言ってちょっと力を込めてナイフを投げたら、既に銃痕がついていた木に深い切り込みがはいり、自身の重みに耐えきれなくなったのか折れて倒れた。いい音がしましたよ。倒れてしまったものはしょうがないので「ごめんなさい」と両手を合わせて謝り、クロと組手をはじめる。


 正面から拳、右に避けて左手で顔を狙うが避けられる。一旦距離を取り、一気に間合いを詰め懐に入り掌底。「あっぶねっ」という声と同時に回避されたので足を引っかけ転がすが、すぐに起き上る。その瞬間を見逃さず、腹に一発入れれば「げぼッ」と呻き声を上げつつも、勢いよく横に転がって間合いを取り、クロは私を睨みつける。


「こら、逃げるな。往生しろ」

「殺すなよ! シロが体術得意なの知ってんだからな!」

「まぁ対人戦は得意だけど。クロも剣術は得意でしょ?」

「得物がなけりゃ木偶の坊ともいえる」

「この世界で対人はそうそう無いでしょ。それよりも、魔物だね。……一体来る」


 自分たち以外の魔力を背後で感じ、近くに置いていた銃をさっと取り構え魔力を注ぐ。魔物までの距離と種類が表示された、便利だな。クロは急いで焚き火を消し、辺り一面闇に包まれた。が、何故かはっきり景色が見えている。ものに宿っている魔力を見ているという感じだろうか、便利だけどさ。


「距離六百、ツーベアーって表示でてる」

「ちょっと遠いな、ところでツーベアーって獣人じゃないの?」

「あー、スーさんの魔力とは何か違うけど」


 アップできないかな。と思い目に力を入れれば、出来てしまった。もう何もいうまい。魔物は頭が二つある熊だ、獣人には見えない。身体の心臓がある場所だろうか、そこに魔力のようなものが固まっている。スーさんにそんなものはなかったので、獣人ではないだろう。多分。


「動き止まったし、どうする?」

「無益な殺生は必要なし。倒しても持ち帰れないし、逃げよう」


 「走れ!」と構えを解いて壁に向かって走り出した。森の中だから走りにくいが、馴れているし木々も見えるので結構早く走れる。ツーベアーも再び動き始めた、感付いたらしい。だが、元々距離もあったのでツーベアーに追いつかれることもなく、私達の身長の何十倍の高さもある壁に辿りつき、勢いよく跳び上った。流石に一発で上まで跳び上れなかったので、途中壁を蹴って再び跳ぶ勢いをつける。


 壁の一番上から銃を構えて見下ろすと、頭が二つの熊が地面の匂いを嗅いだ後、顔を上げてキョロキョロと私達を探していた。逃げきれたようである、倒せないとは思わなかったが調子に乗ると死ぬ確立が上るので今後も慎重に動こう。



 気配と足音を消し、屋根の上を歩いて下宿先食堂二階の部屋へと帰宅。スーさんやククリさんは気づいていないようだ。暗殺術というスキルを使ったわけじゃないけど気配を消すのが上手くなっている気がしたので、勝手にスキルが発動していたんだろう。


「クロおやすみー」

「おやすみー」


 そう言って部屋ごとに別れた後、銃を置き、寝間着の服に着替えてベットにもぐり込んだ。が、まさか寝れないとは思ってなかった。え、悩める不眠症復活? 

 うんうん唸りながらベットに転がること数時間、窓から朝日が差し込んだ。太陽だ、こっちくんな。


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