第14話 クロ「下宿先が決まりました」
しばらく歩いていると、「ここだ」といって店の中へ入って行ったレオンさん。あとを追いかけ俺達も中に入る。小さな食堂らしい、いい匂いがするので俺の腹が鳴った。
適当な席に三人で座ると、他の客と話していた恰幅のいいおばちゃんがメニュー表をもってきてくれた。
「あらあら、レオン君お帰りなさい。この子たちはレオン君の隠し子かしら?」
「違う、仕事で世話をしているだけだ。お前ら何が食いたい? おすすめはバジリスクの唐揚げだ」
まさかのバジリスク。「え、あの鳥とへびの?」と首を傾げているシロに頷くレオンさんとおばちゃん。まじっすか。あの鳥かヘビ、どちらが本体か論争されているアレですか。どんな味なんだろう、頼むか。
俺は『バジリスクの唐揚げセット』を頼み、シロは『クラーケンリングセット』を頼んだ。イカリングみたいなもんだろうか、謎なものを頼んだシロの勇気を称えよう。本人は「イカだろ、多分」とメニューを閉じた。
おばちゃんが「ちょっと待っててねー」と奥へ消えていくのを見送り、水をひと口。
「二人とも計算だけでなく、文字も覚えたようだな。吸収が早くて何よりだ。それで、お前たちは冒険者学校に入学するまでどうするつもりだ?」
「どうもこうも俺達は冒険者としてお金を稼ぐつもりですけど」
「その間どこに住む?」
「あー、シロどうする?」
「うーん、新人におすすめの宿屋とかありませんか?」
「あるにはあるが、成人前のお前たちにはおすすめできない」
「あそこは色々面倒事が多くてな……」と思い出しているのか、レオンさんの眉間に皺が寄る。経験者かよ。そういえばレオンさんはどこ出身なんだろうか? そのうち聞くか。
うーん、うーん? と悩んでいると、注文していた料理が来たのでいったんお開き。
「お待たせー。レオン君はいつものステーキセット、二人は唐揚げとクラーケンだったわね。うちの旦那の料理はとても美味しいから味わって食べてね!」
ドン! とテーブルの上に置かれた唐揚げとクラーケンらしい揚げ物、そして謎肉のステーキ、セットでついてくるパンとサラダは山盛りに。量が半端ない気がする。食いきれるだろうか。
あ、シロの頬が引きつってる。俺もシロも食うには食うが、限度はあるからなぁ……無理なときは包んでもらおう。
俺は鶏肉なバジリスク唐揚げをもしゃもしゃ食い、クラーケンにしては小さい円形の揚げ物をサラダと一緒にパンに挟んでかぶりつくシロ。唐揚げ一個と交換してもらってクラーケンを食べたら、イカリングだった。おばさんに聞いたらクラーケンの子どもは小さくて食べやすい大きさなんだとか。イカだよなそれ。
レオンさんも無言でステーキを食べている、所作が綺麗なので顔が綺麗な奴はなんでも映えるな。とひねくれた俺が言っている。心は汚い大人です、すみませんね!
「んでシロ、どこに住む?」
「どうひようね? んー唐揚げも美味しい、これがバジリスクか」
「あら、二人とも家を探してるの? ならうちに住みなさいな」
「「え?」」
「あなたー! 二階の二部屋を貸してもいいかしらー?」
「ねー?」と奥へ消えて行ったおばさん。俺達は顔を見合わせてからレオンさんを見ると「よかったな」と真顔でステーキを食べている。いやいやいやいや、何言ってんのこの人。
そうこうしている間に、旦那さんに許可をもらったのか戻ってきたおばさん。流石に怪しいと思ったので、シロが話し出す。
「あのすみません、嬉しいお話なんですが、私達は見知らぬ子どもですよね……あまりにも不用心では?」
「あら、その辺は大丈夫よ。レオン君がうちの食堂に連れてくる子たちだもの! 悪い子なんて有り得ないわ!!」
「いや、その……」
「大丈夫だシロ。この店はクリス、ディクタチュール国の城の食堂で働いていた男を覚えているか? そいつの実家だ。俺も居候してたことがあるから安心しろ」
「そ、そういう意味じゃ……クロ、どうする?」
「クリスってお菓子のおっさんだろ? お菓子は俺達を裏切らない」
「あぁそう……クロがいいなら、他にいい案もないし」
「よろしくお願いします」と二人で頭を下げると、「はい! よろしくします!」とおばさんは満面の笑みだ。天然なんだろうか、この人……。
とんとん拍子に下宿先が決まり、戸惑いを隠せない俺達である。
飯を食い終わり、客が引けたころに旦那さんを紹介された。とてもガタイのいい、熊の獣人さんでした。名前はスーさん。おばさんはククリさんというらしい。だからクリスね、了解……。
スーさんに部屋を案内されて、下宿についてルールを聞くと特にないと言われた。何とも困る返答だ。
「うちは食堂だからな、朝昼晩食わせてやる。いらない時は早めに言ってくれ。あとはそうだな……暇な時に家の手伝いをしてくれればいい」
「下宿の料金はいくらですか?」
「ん? 子どもから金はとらん」
「お願いです、お金取ってください……」
「そうじゃないと、住みづらいです……」というシロに俺も頷く。わかる、タダって怖いんだよな意外と。慣れるとなーなーになるしな。
「スーおじさん、一応二人とも冒険者だ。多少金を取っても大丈夫だぞ」
「あ? レオンよ、こんな小さな子どもに冒険者をやらせてんのか!? そんな男に育てた覚えはねぇぞ!!」
「怒りはもっともだが、こいつらはもう十二歳だ。そして自分たちで冒険者になると決めた、俺に止める資格はない」
「十二歳? てっきり五、六歳くらいかと……わかった、金額は母ちゃんと決めるからちょっと待っててくれ」
「部屋の中は好きに弄っていいからな」とククリさんに相談しに行った熊のスーさんを見送った。部屋の中を覗くと机と椅子とベット、あと本棚が一つずつ。掃除もされていて綺麗だ。
「俺とクリスが使っていた部屋だな。シロはまだ戸惑っているようだが、安心してくれ。スーおじさんは元Aランク冒険者でククリおばさんは元ギルド職員だ。何かわからないことがあれば相談するといい」
「お、おぉ、めっちゃ安心」
「安心できるのはいいのですが、何故見知らぬ私達にそこまでしてもらえるんでしょうか?」
「それは本人たちに聞けばいい」とレオンさんは言う。そりゃそうだ、と俺は頷くが、シロは「あーもう!!」とわめいている。信じていいのか悩んでいるようだ。
まぁ俺達は昔から「人は疑え」を信条にしてきた。簡単に信じて死んだら元も子もないからな。それにこの世界に来て一発目に「いらない」と言われている。この世界の住人を信じきれない理由だ。
レオンさんは「明日また顔を出す、それまでギルドにはいくなよ」と言って去って行った。多分家に帰ったんだろう。どこの家があるのかは知らないぞ。
部屋の中に入らず「どうしようか」「どうするか」と悩んでいたらスーさんとククリさんが戻ってきた。
シロが「見ず知らずの子どもですけど、怪しくないんですか? 本当にいいんですか?」と聞けば、夫婦は笑って、
「怪しい人はそんなこと言わないわよ」
「あぁ、しいて言えば獣人の勘だな」
「そういえば名前を聞いていなかったわね、教えて貰えるかしら?」
「大丈夫」という夫婦に、本当に大丈夫か? と不安になりながらも、腹を括ったシロが頷いた。シロがいいなら俺もいい、信じよう。
「俺はクロです」
「私はシロです」
「あら、クロちゃん女の子よね?」
「ん? シロは男だよな?」
「「逆です」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます