第二章 ヤマトノ国

第13話 クロ「迷い人の遺物が……」


 謎の爺に魔法銃をもらうイベントハプニング以外は何事もなく、船は進んだ。


 海の旅三日目の昼、ヤマトノ国港町『サツマ』に到着。

 ……サツマ、サツマイモのことかな!!

 シロは港町の名前を聞いて白目をむいていた。小さい声で「迷い人、滅したろか」と呟いていたのには同意だ。異世界を日本文化に染めてどうする。


 「ここから転移魔法陣でエドまで一気に飛ぶぞ」とレオンさんに連れられて、サツマのギルドへ向かい。俺たちがキョロキョロとギルド内を見ている間に準備が整ったのか、腕を引かれた次の瞬間には景色が変わっていた。

 室内の装飾が和風っぽいのは気のせいでしょうか。あ、あそこに額縁に入った名言が。『必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ』って書いてある、はず。上手く読めなかったので鑑定したらそう書いてあった。誰の言葉だろう、ギルド本部長とか?


「ここがエドのギルド本部だ」

「「おぉ」」


 転移魔法陣の部屋から出ると、だっだっ広い部屋に色んな人が集まってガヤガヤしていた。頭の上に耳がついている人、耳が長く尖っている人、背が小さく髭がもじゃもじゃしている人、色んな種族がいる。ファンタジーしてる!! と思う反面、受付に視線を向けると、着物を着た人たちが仕事をしていた。

 座り込んでいるのは畳だろうか……異世界文化と日本文化の謎の融合だ。頭が痛い、迷い人何してやがる。


「シロ、なんか懐かしい感じしないか」

「うん、日本って感じめっちゃするわ」

「ギルドは迷い人が作り上げた組織だ、だから似たんだろう」


 「それよりも受けた依頼を報告してこい」と言われて、二人で受付の長い列に並ぶ。



 ちなみに受けた依頼は乗っていた船の清掃手伝いである。三日間船の甲板掃除と皿洗いなんかを手伝ったおかげで船員たちの仲良くなれたのはラッキーだった。この世界について色々聞けたのだ。


 例えば神様は六柱いて、一番偉い神様を『創造主』と呼んでいること。

 種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔人の五種族に分かれているということ。

 昔は国家間の戦争が頻発していたが、今は平和だということ。ただディクタチュール国はきな臭い噂がある、もう二度と近寄らない方がいいと何度も言われた。

 国は主に、迷宮国家『ヤマトノ国』、魔法王国『ユナイ王国』、獣人の国『メリカ王国』の三ヵ国が有名どころらしい。ディクタチュール国は戦争を繰り返す面倒な小国だそうだ、よく滅亡しないな。


 あとは海辺で旅人を襲うセイレーンの歌も教えて貰った。セイレーンの歌を聴いた時、歌い返してやれば引きずり込まれないらしい。一緒に合唱しろってことだな、わかった。


 色々教えてもらいすぎて、頭がパンクしそうになるが俺はボッチの異世界召喚者ではない。シロがいる。

 だから普通なら気が狂いそうな現状でも、平常心でいられるわけだ。シロはどうか知らないがな。


 今更だけど、シロは中性的なのでどうしても男に見える時がある。服買った時も男に間違われてたしな。


 特に銃を背負った姿は、昔の記憶を思い出させる。女なのに男の格好をして誰にもバレなかった強者だ。現代で普通に会った時はどこからどうみても女の人だったのに、謎である。

 そういえばこいつ、仲間を守るために一人敵陣に突っ込んでいった馬鹿だったな。今度こそ隣を死守していないと、また勝手にくたばりそうだ。

 死なれたら困る、俺の心の平和的に。



 「次の方どうぞー」と受付の人が俺達を呼んだので、シロが船長のサインが入った依頼達成票を受付に提出する。


「はい、お預かりしますね。うんうん、仕事が丁寧だったから依頼料にちょっと上乗せして払うって。よかったわね」


 受付のお姉さんが笑顔で言いながら、お金を支払ってくれた。その場で数えれば銀貨五枚である。上乗せしすぎじゃね? と思ったが「いい仕事をしたのねぇ、役に立ちそうな新人さんが来てくれたわ!」と大喜びだ。貰えるもんは貰っておこう。

 金はシロと分けて持ち、待っているレオンさんに駆け寄った。


 何故かレオンさんの周りに人だかりが出来ていたが、レオンさんが「俺は忙しい、悪いな」といって集まってきた人を散らしていた。

 何だろう? とシロと顔を見合わせるが、答えは出なかったので気にしないことにした。めんどくさいともいうな!


「レオンさん、終わりました」

「よし。クロ、いくらもらった?」

「銀貨五枚です」

「銅貨にすると何枚だ?」

「五十枚です」

「ちゃんと覚えたな。シロ、銅貨を百枚集めると金貨は何枚だ?」

「一枚です」

「シロも大丈夫そうだな、よし。では昼飯でも食いに行くか。美味くて安い飯屋を教えてやろう」


 「行くぞ」と視線を集めているレオンさんの後ろをついて行く俺達にも視線が集まったが、ベタな新人いびりが無くてよかったと喜んでおくか。



 レオンさんについて行きながら、街をキョロキョロ見渡す。


 基本的には西洋、たまに日本の物って感じの街並み、石畳の道に白い壁の家々がたち並んでいる。遠くに『ザ・日本の城!』が見えたような気がしなくもない。気のせいだ気のせい。

 さっきお土産屋の前で信楽焼のたぬきっぽいものを見かけた。シロが「あれ、やばくね?」と指をさしていたので「見てはいけません!」と注意しておいた。


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