第12話 鈴木「異世界召喚は犯罪です」
こんにちはこんばんは、巻き込まれ召喚されました鈴木です。
現在勇者イチノミヤとそのハーレムと一緒に、この世界について勉強中です。
この世界には特別な名前は無いそうです。
ディクタチュール国は多くある国の中でも長い歴史のある由緒正しき国であり、勇者の召喚魔法はこの国にしか伝わっていないという。
魔の者とはモンスターとそれを操る者の事を指し、そいつらは海の向こうにある『魔王の国』に拠点を築いているそう。こちらに攻め込んでくるのは時間の問題らしく、勇者様とその仲間たちは早く強くなって欲しいと言われました。
ちなみに俺は空間魔法が使えるらしい。
勇者様は聖光魔法と風魔法が使えて、上瀬は火、畑中は土、滝下は水。バランスがいいっすねという感想しかなかった。
空間魔法は魔力が多くないと使うことができず、使い手も少ないことから死にスキルだそう。ステータスを調べてもらったら俺のレベルは一、魔力も微妙で、使いこなせないことが判明。
ラノベなら空間魔法で無双とかできそうなのに、無念である。
勇者様はレベルが十七からのスタートでした。主人公だねほんと……。
ということで、初日から使えない奴宣言をされた俺は放置プレイをくらっています。
まさか飯まで貰えなくなるとは……マジ辛い、いらないなら元の世界にかえして欲しいのだが、魔の者を倒した勇者しか帰還の魔法が使えないそうな。絶対嘘だろ、とツッコミをいれたのは俺だけ。
せめてハーレム女子にまともなのがいればよかったのだが、上瀬は「あら、何? 使えない鈴木君」って見下してくるし、畑中は「あーえーっと、誰だっけ?」って存在すら知られてあなかったし、滝下は「近寄らないでください、この変態!」ってなんで俺変態認定されてんだろうか?
召喚時にいた子ども二人はどこにもいないし、貧乏くじ引いた脇役にもほどがある。
初日の飯抜きは我慢したが、二日目には我慢の限界だったのでこっそり城の中を探検し、食堂を発見。
恐る恐る厨房にいたおっさんに「す、すみません、何でもいいので食べ物を……水でもいいです、くれませんか?」と話しかけた。飽食に慣れた日本人に断食はきついです。
「ん? お前は確か勇者様の友人。飯足りなかったか?」
「いえ、その……俺、飯もらえなくて」
「はぁ!? あ、いや悪い、ちょっと驚いて……そうか、うーん。とりあえずこれ食って座って待ってろ!」
そう言ったおっさんは俺にお菓子のようなものを渡し、料理を作り始めた。
料理をするおっさんを眺められる席に座り、貰ったお菓子をひとくち。しっとりしてて甘い、蜂蜜っぽい味がする……美味い。お菓子ってこんな美味かったんだ……。
ポロリと流れ出した涙と一緒にお菓子を食べる、ちょっとしょっぱくなった。
「そんなに美味かったか、よかったよかった。お前はミント平気か? ラズベリージュースなんだがな」
そう言って木のコップに入ったジュースをくれたおっさん。飲むとラズベリーの酸味とミントの爽やかな匂いが鼻を抜ける。泣いて鼻が詰まってたから助かった。
「ぐすっ、めっちゃ美味しいです」
「おう。そりゃよかった。余りもんで作ったもので悪いが、サンドウィッチだ。具はクラーケンの揚げ物と香草とタマネギな」
「く、クラーケンって」
「迷い人は『デッカイイカ』って呼んでたな」
デッカイイカってそのまんまじゃん……ところで、『迷い人』って何だろうか?
サンドウィッチにかぶりつくと、香草が揚げ物の油っぽさを中和してくれる。タマネギも甘くておいしい、シャキシャキの食感もたまらない。ソースは何だろうか、とにかくうまい。
一気に口の中に入れたらのどに詰まらせて、おっさんが慌てて水をくれた。このおっさんめっちゃいい人だ。
「あの迷い人ってなんですか?」
「あー」
おっさんは右、左、天井、机の下を確認し、「誰もいねぇし。大丈夫か」と迷い人について教えてくれた。ついでに「魔王の国」は「ヤマトノ国」という国で、別にモンスターを操ってこの国に攻め込んでくることは有り得ないということを教えてくれた。
ラノベ読み過ぎてテンプレキター! と思っていた。でも話を聞いていると、ちょいちょい可笑しいなと、引っかかってはいたんだ。俺のツッコミは無駄ではなかったらしい。
攻め込まれるのは時間の問題っていっている割にはのんびりしてるしな。それにギリギリで勇者召喚なんてしないだろ普通。成長してからじゃないと、いくら勇者でも戦える筈ないし。平和な日本から来た俺達は尚更である。肉なんて切り身で売ってるのしか見たことがない。
「お前さんの名前は?」
「鈴木次郎です。あなたは?」
「俺はクリスだ。……言いにくいんだが、ジローは今後いないものとして扱われるぞ、多分」
「……俺はどうしたらいいんでしょうか」
「逃げたら逃げたで殺されるだろうなぁ……悪い、脅してるわけじゃないんだが、あー泣くな泣くな!!」
「言葉が悪かったすまん!」と布を渡される。これ机を拭いたやつじゃないだろうか、いや気にしたらまけだ。それに今は命の危険である。
ホントどうしよう……めっちゃ帰りたい。家に帰ってゲームしたい。
母さんの笑い声が聞きたい。父さんのいびきが聞きたい。妹の愚痴が聞きたい……。
誰だよ異世界召喚されたいとか言った奴、そんないいもんじゃないぞ。
これは誘拐だ、犯罪だぞ。部屋に閉じ込めて身代金要求どころか、二度と帰れないかもしれない酷い部類だ。
泣く俺を見て、腕を組んで考え込んでいたクリスさんは「よし!」と自分の膝を叩いた。
「ジローに覚悟があるなら、逃走を手引きしてやろう」
「ほ、本当ですか? あ、でもクリスさんの仕事が、それに危険な目に……」
「あぁ、俺は辞めるつもりだったから大丈夫だ。ジロー荷物は?」
「身につけてるもの以外ないです」
「それじゃあこのまま逃げよう。監視もついていないようだしな。毎度思うがこの国の監視レベルひっくいよなぁ……」
「仕事がしやすくていいけどな」と言って、クリスさんは包丁類と荷物を簡単にまとめると「さぁ、いくぞ!」と俺を城の外へ連れ出してくれた。
棟に閉じ込められたお姫様の気分がよっくわかりました。はよ逃げたくなるねこれ。
意外とすんなり逃げたせた俺は、クリスさんの案内で裏通りの酒場に身を寄せた。
クリスさんの仲間だというレオンという男を紹介され、召喚時にいた子ども二人も逃げ出したことを教えて貰う。よかった、何で子どもが巻き込まれたんだろうとは思っていたが無事ならいい。
子ども二人は死んでいることになっているらしく、俺はクリスさんと一緒に子ども達とは別のルートで他国に逃げることになった。俺は逃げ出しているからね、しょうがない。
向かうは「ヤマトノ国」だ。聞くと迷い人、日本人が作った国らしい。名前からしてそんな気はしていたけど。
「ヤマトノ国にはミソやショーユっていう調味料があるんだ」
「もしかして米もありますか?」
「あるぞー! 焼き味噌おにぎりがすっげぇ美味くてな! ただ焼いて味噌を塗っているだけなのにあんなに味が深い食い物があるとは思わなかったぜ!!」
「わかります!! それにおにぎりと一緒に食べる味噌汁は、何というか幸せになれるんですよ……」
「おっ流石迷い人、じゃなくて召喚者か。ヤマトノ国へついたら故郷の味を教えてくれ、かわりに俺がこの世界の料理を教えてやる!」
「はい師匠!!」
「そういや、ガキ二人には蜜菓子をやる約束をしたんだったな。道中で熊の獣人の集落を通ってドライアドの蜂蜜を買うか……」
「いいですね。蜂蜜ならパンケーキかな」
そういえば、子ども二人は何歳で、名前は何というのだろうか。
「その子達、大丈夫でしょうか……クリスさんの仲間を疑っている訳じゃないですけど」
「あぁ、あのガキどもはジローよりもしっかりしてたぞ」
「えぇ?」
「本当ですか?」と聞く俺に、クリス師匠は「会ったらわかる」と笑っていった。
* * *
────────────────
『ジロー スズキ』(鈴木次郎)
17歳
Lv:1
HP:50
MP:50
◆スキル
無し
◆魔法
空間魔法:下級
◆称号
「異世界召喚者」
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『テンショウ イチノミヤ』(一之宮天翔)
17歳
Lv:17
HP:500
MP:500
◆スキル
剣術:下級
◆魔法
風魔法:下級
聖光魔法:下級
◆称号
「勇者」
「異世界召喚者」
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『チヒロ ウワセ』(上瀬千尋)
17歳
Lv:1
HP:100
MP:100
◆スキル
無し
◆魔法
火魔法:下級
◆称号
「異世界召喚者」
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『アズサ ハタナカ』(畑中梓)
17歳
Lv:1
HP:100
MP:100
◆スキル
無し
◆魔法
土魔法:下級
◆称号
「異世界召喚者」
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『ミキ タキシタ』(滝下美樹)
17歳
Lv:1
HP:100
MP:100
◆スキル
無し
◆魔法
水魔法:下級
◆称号
「異世界召喚者」
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