第11話 シロ「テンション高く参りましょう!」
潮の香、波の音。
カモメっぽい生き物が空を飛んでいる。
「海だー!」
「うぇーい!!」と港を駆け回る私たちは完全に子どもである。
「クロ船だよデカい!!」
「帆船かー! 風だけで動いてんのかな」
「ファンタジーだぞ絶対魔法で動いてる! ですよねレオンさん!」
「あぁ風の魔法と水の魔法で動いてるぞ。これがチケットだ。俺は船長に挨拶してくるから先に乗ってろ」
「「りょうかいです!!」」
レオンさんからチケットを受け取り走り出す。走るのにも慣れたので勢い余って船に突き刺さるという馬鹿はしませんよ!
船員の人にチケットをみせ、船に乗る。船員達が私達をみて「元気だな!!」と笑いながら荷物を載せていた。
そんな船員さんたちの仕事を邪魔しないように船首の方へ行き、船首像の女神であろう像をみる。クロは船べりの上に座り、珍しいものを見るように私を見た。なんだよ、顔になんかついてる?
「シロ、今日テンション高くないか?」
「そう? 何か妙に元気なのは確かだけど……はっ、八時間睡眠が可能になったからか!?」
「何だよそのブラックな会社に勤めてた社会人のような台詞は……」
「あ? 講師やる前はブラック企業戦士だったぞ。人間は追い詰められるとな、ご飯食いながら泣くんだ。無意識にだぞ無意識! 気がついたら涙がダパーって!」
「あー知りたくないあー!」
「ところで船首の方についてる像だけど、めっちゃ美人だよ」
「マジでみるみる」
「ほう、わしも見たいのう」
「どれどれ?」と私の後ろから覗き見ている白髪で長い髭のお爺さん。
この爺さん、いつの間に……と二人で固まっていれば、お爺さんは「おぉ、本当に美人じゃのう。しかもちょうどいい胸の大きさじゃ」と笑っている。スケベ爺だ。
「お前さんたち家族に迷い人はいるかの?」
「えーっと何でです?」
「随分と綺麗な黒髪じゃと思ってな。それだけの色が出るのは迷い人の血筋でも珍しいがのう」
「先祖返りか?」と私とクロの髪の毛をジロジロ見比べるお爺さん。クロを見れば「知らんタスケテ」と目が言っている。人見知りかよ。
「ふむふむ、ステータスは強くないからそうであろうな。しかし伸びしろはありそうじゃ、よし。二人に良い物をやろう!」
お爺さんが空中に手を翳し〈収納〉と言った瞬間、魔法陣っぽいのが出現。「ふぁ!?」と驚いている間にお爺さんは魔法陣の中に手を突っ込み、何かを取り出した。
まて、待て、今のってラノベやゲームによくある
私が異空間収納の魔法陣をジッと見つめている間に、お爺さんは目的の物を取り出し、魔法陣が消える。
あー! 全く分かんなかった! でもファンタジーだった、めっちゃ魔法だった……語彙が無いな、教師の癖にとか言わないで。
「これは魔法銃というものじゃ。魔法王国の蚤の市で見つけたんじゃが使い方がようわからんでの、勿体ないからお前さんたちにやろう。お前さんたちの爺様や婆様なら使い方がわかるじゃろ、多分」
ほれ。と渡されたのはライフル、所謂長銃である。
私も使っていた、江戸時代末期に多く流通し、一々紙に包まれた弾と火薬を突っ込むタイプの銃ではない。多分半自動小銃だろう、現代物のアニメやゲームでよく見るタイプではなく銃床は木製、第二次世界大戦頃のものに似てるような。クロの方が詳しいからあとで聞こう。
一丁だけだが、木製部分にヒビもないし、手入れもされている。良い武器になりそうだ……じゃないよ!!
「い、いりません!!」
「ほっほっほ。わし魔法は得意なんでの、魔法銃だからと買ってみたが全く使えなくてのう。埃を被るよりは使用できそうな若者に渡した方がソレも報われるじゃろうて」
「ではのー」と軽い足取りで去って行ったお爺さんを呆然と見送った。ど、どうしようこれ。
「なぁそれ弾何発はいってる?」
「え、あぁ……ゼロです」
「使えねぇじゃん」
「あのじいちゃん弾も買わなかったのかなぁ」とか言ってるクロを銃で殴れば「痛い!!」と涙目で叫んだ。「私はいらん!!」とクロに押しつければ「俺もいらん!!」と返してきたので押し問答。
レオンさんに「お前ら何をやっている?」と話しかけられるまで喧嘩していた。
まじでいらないこんな危ないもん。もう二度と装備したくありません!! ナイフも危ないだって? ギリギリセーフです!!
「銃か、珍しいな。どこで手に入れた?」
「知らないお爺さんが迷い人の家族なら使えるだろーってくれました」
「お礼は言ったのか?」
「お礼の前にいらないので困ってます。お爺さん探して返したいんですけど」
「もう出航するから難しいな、この船に乗っていれば別だが。今日の客は俺達と若い商人三人だけらしい」
「がってむ!!」
「どこから現れたあの爺!!」と叫ぶ私に、クロは耳を塞いで「うるせー」と呟いた。
レオンさんに至っては「貰えるものは貰っておけ。あぁ一応鑑定して呪いがないか調べておくか」と鑑定用紙を取り出して「大丈夫だな、ベルトも着いているから背負っておけばいい」と、とても軽い反応。
「い、異世界物からミリタリー物に……いやだー!」
「レオンさん、これ弾はいってないらしいですよ」
「魔法銃ならば魔力を装填すればいい。それが弾になる。と言ってもお前たちの魔力では一発が限度だろう。だがうまく使えば長距離から敵を狙えるぞ、持っていて損はない」
「ですってよシロさん」
「おじいちゃああああんっ使い方わかったよぉおおおお!!」
「レオンさんにあげる!」とレオンさんに押しつける。クロは「ほんと今日テンション高いな」と白い目だ。
受け取った銃をレオンさんは構え、「あぁ、これは俺には難しいな」と私に返却。何故でござるか!?
「シロ、構えて銃に魔力を篭めろ」
「魔力の篭め方なんて知りませんが……」
「あー、では今教える。自分の心臓の鼓動を聞け、血の流れを感じろ。血とは別の流れがある。それが魔力だ」
「う、うぇええ?」
「そんなこと言われても……」とか言いながらとりあえずやってみようと、息を吸い込み、吐き出した。
目を閉じ、集中。
心臓の鼓動。
頭に腕に脚に、循環する血液。
血液ではない流れ、……ある。
暖かい光とでもいうのか。
身体の中に光が流れているとは不思議な感覚だ、目を開くと身体の周りにも光が踊っている。
光を銃に注ぎ込む、銃に弾を篭める感覚は身体が覚えていた。
≪魔力装填≫
無意識に呟いた日本語と共に魔力が篭る。瞬間、目の前に光で描かれた文字が発現。
驚いてよくよーく見てみれば、距離の表示。自動で照準固定かな、楽でいい。いいけど、文字が漢字じゃん。なにゆえに漢数字。
「見えたか。それはお前たちの故郷の文字だろう? 俺も知らないわけではないが、使い慣れていないからな。この世界の者なら尚更わからないだろう」
「迷い人しか使えないってそういう……」
「魔法武器と呼ばれるものだ。迷い人が多く残している、伝説となっているものもあるぞ」
何をしてんだ迷い人、異世界楽しんでんじゃねーよ。
「次はクロだ。お前も魔力を篭めてみろ。魔力操作の勉強になる筈だ」
「えぇ、やんなきゃ駄目ですか……?」
「冒険者だろう? 死ぬ確立を下げたかったら今やれ」
「はい……」
構えを解き、口を尖らせているクロに銃を渡す。
うん、魔力なんてみえなかったのに見えるようになってしまった。チート乙。
開き直ってレオンさんをみると無駄に光り輝いている。クロは光に包まれて姿がみえません、目がアアアア状態。
とりあえず目が痛いので〈遮断〉と念じてみたら、見えなくなった。これ魔力操作覚えたらみんなみえるのかな。と思ってレオンさんに聞いたら「他人の魔力? 見えるわけないだろう。漂っている魔力が見えるのは精霊か、エルフ族も見えると聞いたことがあるな」とのことでした。エルフいるんだ……。
クロも魔力操作を覚えたのか「おぉ、ファンタジー」と喜んでいる。素直に喜べる穢れなき心が欲しかった、汚れちまった大人だぜ……。
そうこうしている内に船の準備が整い、船長の「出航!!」という声が海と空に響き渡った。
ちなみに銃は相談の結果、共有武器になりました。
「売るか」と言ったらレオンさんに怒られたのです残念、高く売れそうなんだけど。
まぁスキルに銃術があったしなんとかなるだろう。それよりも欲しいのは異空間収納ですがね!!
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