第9話 シロ「双子コーデです」


 目標ラーメン! と手を握りしめていれば、レオンさんが足を止めた。


「ここは服屋だ」


 レオンさんは中に入って行き、店員に「この子達の服を三日分適当に見繕ってくれ。下着もな」と言って、私達二人を中に投げ入れ足早に外へでて行った。


「あらー可愛い子達じゃない。腕が鳴るわぁ」


 言葉遣いとは裏腹のド低い声が店の中に響き渡る。


 ひっ。と二人そろって声をあげ、声の主である店員さんを見れば、ムキムキマッチョの男の人がフリフリのレースとリボンのついた服を着ていた。

 あぁ、むしろこういう人私は大好きです。自分自身を突き通しているのでめっちゃ格好いいです。


 だけど今は命の危険を感じるので、逃げてもいいでしょうか?


「シロ、俺はいま久々に命狙われてる気がするんだ」

「激しく同意」

「あら、別に取って食いやしないわよぉ。髪の長い方のボクは好みだけどぉ」


 私を上から下まで舐めるように見た店員さんが「舐めてもいいかしら?」と首を傾げたので「私女の子!! こっちが男!!」とクロを犠牲にし私は店の奥に逃げる。

 背後で「あらぁ、ごめんなさいね。女の子かと思っていたわぁ」「ぎゃあああああ」とクロの悲鳴が聞こえた。クロ、成仏しろよ。


 クロが女の子の服をとっかえひっかえされている間、店主さんだという女の子(「体は男だけど、心は女の子です」と可愛らしく言ってくれたので「そういうの大好きです!」と叫んでおいた)に下着を見繕ってもらう。


 ズボンは白色で足首が軽く絞ってあるものを。

 上は藍色で、膝上までのワンピースのようなものを。腰にはポシェットがついている革のベルトを巻く。

 靴はブーツかなと思ったが、わらじに慣れているのと蒸れるのが嫌だったのでサンダルにした。


 髪は切ろうか悩んだが、店主さんが「綺麗な黒髪ですねぇ」と言ってくれたので、編み込んでもらって一つのお団子に。一応やり方も習っておく。

 私女子力というものを江戸時代に置いて来たのでね、ここで少し回収したいんじゃよ……でもスカートなんて旅には向かないので却下な。


 ラノベやアニメ、漫画を見るとよくパンツがガッツリみえているが、腹が冷えるから現実的ではない。あれこそファンタジーなのです。

男の夢? そんなのごみ箱に捨てやがれ。女の子の腹は冷やしちゃいけねぇんだよ、此処テストに出すからね!!

 

 同じような服を二枚もらい、クロは生存しているかとみてみれば、まだ女の子の格好をしていたので「すみません、そろそろ解放してやってください」と言って無理矢理引きはがして助けてやった。


「クロ、スカート気に入った?」

「お前なぁ……」


 「あとで覚えとけよシロ」とブツブツ言うクロは、マッチョで可愛い店員さんが持ってきた白色のズボンと、私より丈が長くない藍色の服を着て、腰には革のベルト。私と同じくポシェット付き。それにサンダルを履いた。

 完全に双子コーデである。ツッコむのも面倒臭いので私はもう知らない……。


 最後に「二人にサービスよぉ」といって店員さんが灰色のローブをくれた。何で灰色? 首を傾げれば、


「シロちゃんとクロちゃんなんでしょ? 合わせたら恵みの雨をもたらす灰色がかった雲の色になるわ。私好きよ」


 ばっちん! ウインクを決めて教えてくれた。

雲の色とか可愛いことを言ってくれた店員さんと店長さんに頭を下げて、外に待機していたらしいレオンさんがお金を払った。


 次に防具屋と武器屋に連れて行かれたが、ここではキャラの濃い方に出会わなかったのでクロがホっと息を吐いていた。着せ替え人形は意外と疲れたらしいですね。逃げて正解でした!


 防具は邪魔になりそうだったので、私は黒色の籠手だけ。クロも黒色の籠手を選んだ。

 「双子コーデ避けようぜ」といえば「俺ら戦い方が似てるからしょうがねぇだろ」とのこと。似てるというか大体同じだけどさー、もう少しファンタジーな防具は? と鎧を指さすが「無いわー重い」とのこと。夢が無い。


 ちなみにレオンさんは謎の金属で出来た胸当てに、膝から足までを守るように出来ている具足のようなものをつけている。あとローブは茶色だ。ファンタジーにローブは欠かせないよね!! 

 レオンさんの赤色の髪も完全にファンタジーだし、よく見ればイケメンの部類だ。私は興味ないのでフラグは折りますね。



 武器は身長の事を考えて剣は断念、ちょっと良いナイフと、安い投擲用のナイフを数本購入。クロも同様だ。


 特に悩むことなく武器を買っていたら、暇なレオンさんが「お前たち、剣に興味ないのか?」と聞いてくる。レオンさんは大剣を背負っているから、私かクロが剣に憧れると期待したんだろう。

 私たちは首を振って「間に合ってます」と断った。こそっとクロに話しかければ「大剣? いや今は絶対無理だろ、たっぱ的に。弓? 扱ったことないからパス」ということだ。私も弓は未経験なので無ーし。

 遠距離攻撃用が乏しいが、元々近距離戦闘マンなので気にしない。

 レベルやスキルに振り回される可能性もあるので、小回りが利くナイフで今のところは十分です。


 それにレオンさんにチート能力を見せるのは出来るだけ避けたい。何が起きるか分からないからこそ、手の内は隠しておいた方がいいだろう。



 買い物が終わり、ギルドの裏口までレオンさんに送ってもらう。レオンさんはガーネットさんに会わないの? と不思議に思っていればまだ用事があるとのこと。


「クリスから連絡があってな、王城内で動きがあったようだ。お前たちが生きていることが発覚すると面倒だから明日の朝に出発しようと思う。大丈夫か?」

「私は大丈夫です。クロは?」

「俺も平気」

「ならいい。今日は腹いっぱい飯食って早く寝ろ。明日から旅をしながら冒険者とは何かを嫌ってほど教えてやる」


 「じゃあな」と言って去って行ったレオンさんに「ばいばーい」と手を振れば「シロ、子どもっぽいぞ」とクロに笑われた。うーん、肉体年齢に精神が持っていかれている気がしなくもない。


「あ、レオンさんに文字を教えて欲しいっていうの忘れてた」

「別に道中で言えばいいだろ?」

「いやいや、クロは教材もなしに生徒に教えられる自信があると?」

「すみません、ないです。やってやれなくもないが、あった方が断然楽」

「だろー? 前準備も大切だしさー、テストの採点や教材作りで消えていく時間……余計な仕事を押し付けてくる年上の教師達、休日出勤せざるおえない部活動……」

「うっ、頭がっ!」

「板書してるとね、手がしんどい」

「俺体育教師だから、あまり板書しないから」

「くそが! 語学教師の板書量なめんなよ!! それに字が汚いと生徒に突っ込まれるわ、書き順間違えると頭の良い生徒が目聡く気づきやがるんだ……こわい、こわいよぉ……」

「よーしよし、ここに生徒はいないからなー安心しろー」


 「俺らもう教師じゃないからなー」と言うクロに「それもそうだな」とパッと泣きまねをやめて「ガーネットさんには一応読み書き習いたいって伝えておこう」と言えば「切り替え早い」と苦笑された。

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