第6話 クロ「迷い人は基本チートらしいぞ。テンプレだな」
スキル『完全偽装』のレベルについて謎は残ったが、今すぐ調べる程でもないので一旦放置。
俺とシロはガーネットさんに呼ばれ、朝飯をもっちゃもっちゃ食べている。メニューは麦粥によくわからない葉物野菜のサラダ、あとクッキー。完全に子ども扱いだ。
お菓子は美味しいのだが、相方で口役のシロはお菓子を食べると大人しくなるため、かわりに俺が話さなきゃいけなくなる。俺はどちらかというと口下手でね、教師の癖にとか言うな。
「二人ともおかわりは?」
「俺は大丈夫です。シロは、クッキーは欲しい? 太るぞ」
「クッキーも沢山あるよ。好きなだけお食べ。そうだ、二人はどっちが年上なんだい?」
「えっと、親がいないのでどっちが上か下か分からないんです」
「そうかい……辛いことを聞いてしまったね」
「すまないね」と眉を下げるガーネットさんに「大丈夫です」と答え、シロをみると頷いている。「おっけーその線で行こう」という意味だ。
俺たちの背景設定を考えるのを忘れていたが、適当に言った設定で決まったようである。
実際に俺の親は小学生の時に他界してるし、兄弟も無し。シロは「親? 気がついたらいなかった」と軽く言っていた。シロはどうも家族には恵まれていないらしい、初めからいないと何とも思わないと本人は笑っていたが。
俺の場合は江戸時代に落ちた時に拾ってくれた屋敷の主人とその家族がいい人たちで、生みの親よりも一緒に過ごした時間が長くよくしてくれたお蔭か、シロのような乾いた感情はない。
朝飯を食べ終わり、「ごちそうさまでした」と言うと、ガーネットさんが「おそまつ様」と返してくれる。
可笑しい、ここは異世界ではなかったか。何で「ごちそうさま」と言って「おそまつ様」と返ってくる? わからん。と首を傾げれば、シロが小声で「多分迷い人のせいだと思う」と言う。そういえば『迷い人』は別の世界からきた人と言っていたな。
「ガーネットさん、迷い人ってどの世界から来た人なんですか?」
「あぁ、クロ君やシロちゃんと同じ世界だよ。『ニホン』というところから迷ってくる人のことを迷い人と言うんだ」
「迷い人はどのくらいいるんですか?」
「クロ君とシロちゃん、勇者たち五人。あとヤマトノ国の王様も迷い人だね。ヤマトノ国は迷い人の血筋の人が多いんだけど、今いるのは二人を含めた八人だけさ」
「過去に何人もいたってことですか」
「一時期何十人もの迷い人が突然現れたという記録もあるよ。何百年も前の話だけどね。迷い人のお蔭で国が発展したという例もあるし、迷い人の多くは死を経験した所為か総じてレベルが高く、強い人が多いって話さ」
「あ、レベルというのはね、その人の体力、魔力などの力の強さを示しているものでね」とガーネットさんのレベル説明に入ったが、大体はゲームと同じシステムようなので割愛。
『迷い人』についても何となくは分かった。みんなチートなんだな。
その恩恵をもらったこの世界は日本の技術や文化で少々染まっているということだ。
「なるほどー」と俺は適当に頷き、チラリとシロを見ると「変わる」と目で合図を送ってきた。ここからはシロが話を進めてくれる、俺頑張ったぞ!
「ガーネットさん、昨日のお話では私達の生活の保障を約束してくれるとのことですが、この国を出てもそれは適応されますか?」
「お、おぉ、シロちゃんは難しい言葉を知っているね。大丈夫、どの国にいても保障するよ」
「二人とも頭良さそうだし、魔法学校に入学したほうがいいんじゃないかねぇ」と言うのをシロは聞き逃さず「なんですかそれは?」と問う。
俺達、また学校に通うの? という俺の視線は無視するシロはガーネットさんとの話を進めていく。
「魔法学校というのは頭の良い子や貴族の子ども達が入るんだよ。四年勉強して、卒業した多くの子は国に仕えたりするんだけどね」
「ちなみに冒険者で通っている子どもはいますか?」
「い、いや、そんな子はなかなかいない筈だよ。多くの平民の子は成人前に冒険者学校という学校に一年間通ってから、働き始めるんだ」
「冒険者学校はこの国にしかないんですか?」
「えっと、魔法学校も冒険者学校もどの国にもあるけど、ヤマトノ国の冒険者学校はギルド本部や魔法学園とも連携しているから他のところよりも学習内容は濃い筈だよ」
「わかりました。成人っていくつですか? それと冒険者学校の入学試験はありますか? 入学金は? 冒険者は何歳からできますか?」
「お、おお、」
「すまないね、ちょっとだけ待っておくれ! 冒険者用の説明用紙を持ってくるからね! あと入学要項がどこかにあった筈!! 成人は十五歳だよ!!」と言って部屋から飛び出していったガーネットさん。
シロをチラリとみれば「ガーネットさんすごいね、言いたいだけ言ったのにひとつも漏らさず聞いてくれたよ」とすまし顔だ。こいつの質問攻めはわざとか、申し訳ないガーネットさん。
「ということで、クロ。私達は来年冒険者学校に通うってことで」
「反対する前に理由を聞こう」
「平民の子は冒険者学校に、ってことは世の中のノウハウが冒険者学校に詰まっているということだ。この世界のことを全く知らない私たちにピッタリー。ギルド本部も連携しているってことは名前の通り冒険者になる人用の講義もあるってことでしょ、憶測だからもう詳しく聞きたいところだけど」
「何で魔法学校じゃないんだよ?」
「クロは旗本や御家人のくそ野郎どもと貴族が同じだと思わないのかい?」
「旗本御家人と貴族を比べるのはちょっと違うと思うが、ラノベだと貴族と関わる事は大体碌なもんじゃないしな。いいぞ、冒険者学校に入ろう」
「よし決まり。ただ冒険者が何歳からおっけーなのかによっては、入学金に困るね。持ち物でも売る?」
「スマホとネックレスあと服とか、いい値段で売れないかな?」と金の心配をし始めるシロにしっかりしてんなぁと思いつつ「スマホはやだ」と異世界の風景をパシャリ。充電が切れるまであと数時間ってところか。
俺が異世界召喚時に持ってこれたのは、ポケットに入っていたスマホと財布のみ。
あ、教師がポケットにスマホ入れてんじゃねぇとかいうなよ? 教師だって人間だぞ、やっとの思いで捻出した休憩時間にゲームしたいだろうが。授業中はちゃんと鞄の奥に入れてたぞ!!
それとだ。言っておくが授業中にスマホ弄ってる奴、教壇からだと丸見えだからな。バレてないと思っているだろ?
残念、ガッツリ見えてる。
怪しい動きは大体わかるぞ、面白いくらいにな。
「シロ、スマホの充電あと何パー?」
「んー、二十パー。流石に手回し充電器は持ち歩いてないよね?」
「机には入ってた」
「何で持ってたんだよ。まぁスマホがごみになるかは過去の迷い人に期待しておいて。金だよ金」
「がめついですねー」
「世の中金ですからー」
「今の残金いくら?」
「日本円は六百円、銅貨は五十枚銀貨二十枚ね」
「今のうちに半分渡しとく」とシロから銅貨二十五枚と銀貨十枚を受け取り、財布にとりあえず突っ込む。今着ている服にはポケットがないのでズボンと肌の間、ウエストあたりに隠すよう挟んでおく。
シロも手のひらサイズのガマ口財布を紐で吊って首から下げていた。
ちなみに俺の財布の中身は給料日前だったため五百円である。学食のラーメンが二百九十九円で、ライス大盛り百円、缶コーヒー百円。どれも税込み。ラーメン食い損ねたのが悔いだな。
「なぁ俺にも紐くれ」
「着てた服のゴムでも引っ張り出せばいいじゃん」
「そっか、俺ジャージだったから腰の紐使えるじゃまいか!」
「ちょいちょい古いなぁ」
「俺達に新しいも古いもあるか?」と聞けば「うーん、ないね」と苦い顔をするシロに「だろー」と笑っていると、手に書類を抱えているガーネットさんとお菓子を持ったレオンさんが部屋に入ってきた。
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