第4話 チートはクーリングオフしたい。


 身体にあった服に着替え、スープと鶏肉の香草焼きと黒パンを食べた後、ガーネットの仮眠部屋だという部屋で今日は寝るようにと言われて二人はベットに飛び込んだ。

 ガーネットが「何かあったら遠慮なく言うんだよ!」と何度も二人に言い含め、レオンは「水袋と菓子を置いて行くからな、腹が減ったら食え」と水袋とお菓子、あと二人にはよくわからない液体の入った瓶やナイフなんかも置いていった。何かあったら使えということらしい。何が起きるんだろうか。


 二人とも子ども扱いされているのはよくわかったと、日本人お得意の曖昧に笑っておけば何とかなるよね顔で心配する二人を部屋から追い出した。


 シロはベットの上で仰向けになり、クロは窓から外を見つめる。


「クロー私何歳に見える?」

「あー、十代?」

「範囲が広い。てかここ異世界なんだよね?」

「完全にそうだろうなー。ここから見える店の看板の字が全く読めないし、魔法はあるし」

「……魔法か、ステータス! とか言ったらポップアップ出ないかな……あ゛」

「異世界でも色々種類あるからなー、レベル制の異世界ならみれるんじゃねぇか?」


 「流石にそこまではありえないだろー」ケラケラ笑うクロに、シロは黙り込みジッと天井ではない何かを見つめている。それに気づいたクロは「……マジで?」と引きながらも「ステータス」と呟いた。



────────────────

『シロ』(深山真白)

12歳(58歳)

Lv:98

HP:9988

MP:9988


◆スキル

剣術:神級

銃術:神級

格闘術:神級

暗殺術:神級

馬術:上級

詐術:上級

鑑定:下級

創造:下級


◆魔法

火魔法:下級

水魔法:下級

土魔法:下級

風魔法:下級

光魔法:下級

闇魔法:下級

空間魔法:下級


◆称号

「刀神」

「侍大将」

「維新の英雄」

「紅き修羅」

「異世界召喚者」

「神のいとし子」


────────────────


────────────────

『クロ』(黒田海斗)

12歳(68歳)

Lv:95

HP:9958

MP:9958


◆スキル

剣術:神級

銃術:神級

格闘術:神級

暗殺術:神級

馬術:上級

詐術:中級

鑑定:下級

創造:下級


◆魔法

火魔法:下級

水魔法:下級

土魔法:下級

風魔法:下級

光魔法:下級

闇魔法:下級

空間魔法:下級


◆称号

「刀神」

「侍副大将」

「蒼き刃」

「維新の英雄」

「異世界召喚者」

「神のいとし子」


────────────────



 シロは両手で顔を覆い、クロは窓枠に額を勢いよく打ち付けた。

 ガンッ! といい音がしてガーネットとレオンが「曲者か!?」と慌てて部屋に入ってきたのは置いておこう。


 二人とも何度も「ステータス」と呟いては消し、呟いては消しを繰り返すこと数十回。諦めが着いたのか、着かないのか。シロは半泣き、クロは茫然としながら自分たちのステータスを見せ合うことにした。

 どうやって見せればいいのかと思い、適当に「クロに開示」と言ったら、クロも見れる様になったのでまた手で顔を覆うシロだった。


「わたしじゅうにさい」

「五十八歳な。あれか二十八の時に五歳になって、三十年生きて死んでまた二十八に戻って、今度は十二歳と」

「ややこしいわ! てか何このレベル。あとスキルってなに? あのド定番のスキルですか? まぁ刀は使ってたし、銃も体術も納得できるけど、異世界反映されるの初耳なんですけど? しかも魔法がない世界から来たのに魔法が既に使える設定ってなんだよチートかっ!! チートってやつなのか!? いらねぇ!!」

「囀るでない、異世界チートはド定番なのである。あとハーレムな」

「知ってるよ!! でもこの身に降りかかるとか思わないだろうが、これでハーレムがきたらマジないわーインフレにもほどがあるわー。やだよ神様まじ何してくれてんの、普通をくれよ……」

「シロの場合逆ハーだろ。わーいイケメンばっかりの世界に来ちゃったテヘペロー」

「黙れ阿呆、私を癒せ!」

「どっちかっていうと俺も癒してほしい側なんだが。あとうるさい」


 「騒ぎたい気分なんだよ」と疲れたようにシロが言う。「わからんでもない」とクロも頷き、溜息を吐いた。

 二人ともストレス過多である。完全に予想外だった。

 見た目が若返っているのはもういいとして、まさかステータスすら初期値ではないとは。しかも称号も可笑しいものばかり。見た目の年齢とステータスが噛み合っていないにも程があるだろう。


「とりあえず整理しよう。見た目の年齢は十二歳。レベルは、多分これカンスト間際だよね……」

「いや、わかんねぇぞ。もしかすると上限が無い可能性もある。俺がシロより低いのは蝦夷まで行ってないからか?」

「だろうね、私より十年プラスなのにちょっと低いのは何で?」

「俺の晩年は肺炎です」

「ご愁傷さまでした……普通異世界召喚時って勇者でもちょっと高めの初期値くらいだよね」

「まぁ普通異世界に召喚なんてされないし、まず江戸時代末期に連れて行かれたりしないぞ」

「みなまでいうな、知っちゅーわ……」

「どうする? チートなのを活かして名声と大金を得るか、隠してスローライフファンタジーにするか」

「クロはどうしたい?」

「質問を質問で返すなよ。それにシロならわかるだろ、俺がどうしたいか」


 「な。侍大将」と笑いながらクロが言うと、シロは顔を顰め「間違ってたら教えろよ侍副大将」と言う。

 元はシロが隊長、クロが副隊長だったからこそついた称号だろう。だが、シロにとっては上も下も無かったので違和感があるようだ。クロは一歩引いている方が性に合っていたので納得している。


「……私は目立たず騒がず、流行りののんびりファンタジーがいい。流石に疲れたわ。五十八歳だぞ、早期退職する」

「ほら俺と同じだ。それに俺は六十八だぜ? 定年過ぎてるわ。スローライフファンタジーがいい」

「しかし本音はハーレムでしょう!」

「棒は一本しかねぇのに穴が複数あってもなぁ」

「下ネタぶっこんでくんなよ。てかそれがロマンでは?」

「俺ハーレムもの苦手だから」

「あぁそう……」

「シロはハーレムが欲しいと?」

「いや必要性を感じない」

「その辺の男より格好いいって花街で言われてたもんなーまぁ頑張れや」

「頑張らないぞ。で、今後の方針についてだけど」


 レオンが置いて行った菓子を二人で食べる。ベットの上にカスがポロポロ落ちているのはご愛嬌だ。


「まず金の問題は成人までと十年間保障有り。多分成人は十五だと思うから二十五歳まではニート出来るね。稼いどいて損はないから、稼げるうちに稼ぎたいけど。どう?」

「稼げるうちに稼ぐのは賛成。だけど現代みたいにブラックは却下な」

「ははっブラック就業なんて滅亡すればいい。ベターに行くと冒険者になって低ランクでコツコツ稼ぐのが一番か。二十五まで安定してるし、十三年もあれば結構貯金出来る筈」

「了解。あ、勇者はどうする? 一応俺ら教師で、勇者は元生徒だぞ?」

「あー、どうしようね? こんな見た目だし、元教師とか言っても信じないと思うけど」

「様子だけ探っとくか?」

「それでいいと思う。聖光魔法と光魔法ってなにが違うのか」

「ホーリーかホーリーじゃないかの違いじゃないか?」

「テキトーか」


「しっかしベタに巻き込まれ召喚されたけど。あ、一之宮君はハーレムがすでに築かれていたね」と思い出し笑いするシロに、担任だったクロは一之宮の様子を思い出し苦笑する。

 一之宮は乙女ゲーム系に出てくる主要攻略対象のようだったが、まさかラノベ主人公系だとは。あのハーレムにお姫様が追加されるのであろう。ベタベタにもほどがあるが、ちょっと見てみたい。


「別口だと鈴木が主人公の可能性もあるぞ」

「最近流行りの巻き込まれたので別ルートで無双します系か、それも見て見たいよね」

「俺達が主人公の場合もあるけど」

「ははっ疲れるから勘弁してほしい」

「激しく同意」


 明日の事は明日の自分にまかせて、今日はもう寝よう。と二人で頷き合い、一緒に横になって毛布を被った。


 この二人に色事の匂いは全くしないのが残念である。

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