第3話 ギルドもありました。


 もきゅもきゅ食べる子ども二人を見て面白そうに「このお菓子も食べな!」と食べ物を置いて行く人が複数。

 中には召喚された時にいたらしいローブ姿の人が「ごめんね、少ないが足しにしてくれ」と小銭を置いて行く。

 銅貨が五十枚、銀貨が二十枚ほど集まってきた頃、「逃げるなよ」と食堂に二人を置いて行った騎士が、旅人のような恰好で戻ってきた。


「お。レオンやっときたか」

「悪いクリス、こいつら逃げたりしなかったか?」

「全く。二人ともいい子にしてたぞ。で? 勇者様たちはどうなった」

「イチノミヤという男が勇者に選ばれたらしい。スズキという男は王の言葉に戸惑っていた。消される可能性が高い。様子をみて、危なかったら助けてやってくれ。方法は任せる」

「わかった。よし、二人ともレオンについて行けば安全だ。いい子にしてたら蜜菓子やるからな、次会う時まで楽しみにしてろよ!」


 「死ぬなよ」と二人の頭をぐしゃぐしゃ撫で、厨房へと消えていった料理番のクリス。

 クリスの言葉の意味がよくわからないままの二人にレオンは布を被せて抱き上げた。右に深山、左に黒田である。


「さて、まずはギルドに行くか」


 二人を抱えたまま歩き出したレオンに、「逃げるの忘れてた!!」と馬鹿な叫びをあげている深山と黒田だったが、どうにもクリスとレオンの言葉に引っ掛かりを覚えていたので「もうなるようになれ」と連れて行かれるがまま、されるがままになっていた。



 城を出て門が見えなくなった頃、二人に被せていた布を外し「今からギルドに行くからな、一応安全な場所だ」と一言。ギルドがよくある小説のままなら、まだましなルートだと思いつつ、深山はレオンに聞く。


「ギルドってなんですか」

「魔物を倒したり、薬草を採取したり、まぁ何でも屋だな。冒険者というんだが、その冒険者の集まりをギルドという。大体の国にギルドが置かれているがギルドと国は別物だ。国はギルドに手出しできないから安心していいんだが、あー、難しいか。何といえばいいだろうか」

「おじさんは悪い人じゃないの?」

「おじ……お、俺を疑うのはわかるが、今は信じてくれとしか言えないな」


 「おじさん……」とおじさん呼びにショックを受けているレオン。黒田も「馬鹿! お前この微妙な年齢の男におじさんは!」と批判の声を小さく上げているが、深山は「しらねー」とそっぽをむく。


 そうこうしている間に、レオンはある建物の中へ裏口を使い入った。


 中は酒と血と汗臭い匂いで一杯で子ども二人は顔を顰める。レオンはそんな二人に気づいておらず、慣れたように隠し扉を開け、階段を上り、ある部屋の中へ。

 部屋の中には老婆が一人。長い赤髪で姿勢がかなりいい老婆は、書きつけていた紙から視線を上げ


「あぁ、レオン。任務完了かい?」

「はい。予想通りディクタチュール国は勇者召喚を行ないました。報告書は明日提出します」

「わかった。……この国もそろそろ終わりかねぇ」

「近い内に多くの魔法使いはこの国を去ると思われます。クリスは勇者達をもう暫く観察したのちに帰還予定です」

「ところでその子たちはどうしたんだい? レオンの隠し子かい?」

「いいえ。勇者召喚時に巻き込まれたと思われる子ども二名です。ディクタチュール王に捨ててこいと命じられたので連れてきました」

「……やっぱりこの国の王族、暗殺しようかね?」

「後始末が面倒なのでもう少し経ってからにしてください」


 「さて、話を聞く前に、その服をどうにかしようか」と老婆は立ち上がり、扉の外にいるギルドの職員に服と夕飯を買ってくるよう言いつけ、レオンからやっと降ろされた二人をソファに座らせた。

 お茶を四人分淹れ、「お菓子食べるかい?」とマドレーヌのようなものを老婆が戸棚の奥から出してくる。マドレーヌに目が釘付けになっている深山の頭を黒田は叩き「あの!」と老婆に問いかけた。深山は叩かれた頭を抱え悶絶している。地味に痛かったらしい。


「あの! 俺達をどうするんですか?」

「どうしようかねぇ、二人はどうしたい?」

「「帰りたいです!!」」


 二人が帰りたいに決まってると叫ぶが「申し訳ないが、それが出来ないんだよ」と申し訳なさそうに眉を下げる老婆とレオン。


「レオン、二人に説明は?」

「逃げられると思いしていません」

「馬鹿かいお前は!! 脅したりしてないだろうね!?」

「多分しましたね」

「しましたねじゃないよ馬鹿者が!!」


 「あぁ、すまないね二人とも、こわかったろう」と二人を抱きしめる老婆。


「私はガーネット。ディクタチュール国ギルドの一番偉い人だよ。二人をここまで連れて来たこの馬鹿はレオンというんだ。馬鹿だが悪い奴じゃない、安心して欲しい」


 「二人の今を説明するよ、大丈夫かい?」とガーネットは心配そうな顔で二人の様子を伺ってくる。

 深山と黒田が何歳に見えているのかわからないが、使えるもんは使おうと二人は頷き合い、深山が「教えてください」と言と、ガーネットは頷いた。


「しっかりしたいい子達だね。……ここはねディクタチュール国という国で、勇者召喚という魔法を使って二人を勝手に連れて来たんだ」

「私達は帰れないんですか?」

「すまないね、帰す方法がないんだよ。本来勇者召喚という魔法は禁術なんだ。勝手に知らない所へ攫ってくる魔法だからね……この国はそれを無視して二人を攫ってきた、本当に申し訳ない。この世界の人間を代表して謝罪する」


 「本当に申し訳ない」とガーネットが頭を下げ、レオンも頭を下げた。のを二人はギョッと驚き「どうする?」と囁き合う。


「ど、どうする?」

「と、とりあえずシロに任せる」

「バッカいつも私に押しつけんなよ!」

「お前の方が口達者だろ!!」

「わかったよ……」


 こほん。と咳をひとつして、子どもを意識、私は子ども。と念じながら深山は「悪いのはこの国の王様なので、頭を上げてください」と言う。

 頭を上げたガーネットとレオンは「わかった」といいながらソファにそっと座り、ガーネットがゆっくりと口を開いた。


「帰せないかわりにではないんだが、今後二人がこの世界で生活に困らないよう、ギルドが責任を持って支援していくから安心して欲しい」

「それは期限付きですか?」

「……あぁ、成人までだよ。ただ二人は召喚者だ。召喚者ということを加味し『迷い人』として二人を受け入れようと思う。迷い人はこの世界に来てから十年間ギルド本部から生活費がでるんだ。戸籍もギルド本部があるヤマトノ国限定だが取得することが出来る。二人には成人までと、その後十年の生活費は保障しよう」

「えっと、迷い人ってなんですか?」

「迷い人は別の世界から迷ってきてしまった人だ。二人と違うのは死んだ経験があるか無いかくらいだよ」


 「二人は違うだろう?」というガーネットに「まぁ一度死んではいるなぁ」と二人内心では思いつつ、話を進めていく。


「私達の生活の保障ですが、ガーネットさんが嘘をついているということはありませんか?」

「それは俺が保障しよう。それに魔法を使って誓約を結ぶこともできる」

「私達は魔法が無いところから来ました。魔法って本当にあるんですか?」

「ん、見せてやろう。俺やガーネット様は火の魔法が得意なんだ」


 レオンが〈火よ〉と詠唱すると、手のひらから火の玉が。そのまま火の玉をいくつか出し、お手玉をし始めるレオンに二人とも「わぁ、ファンタジー……」と呟く。詠唱の言葉が知らない言語で、手品にもみえなかった。


 これはもう認めざるおえないだろう。


 本物の魔法、

 ここは知らない世界、

 教師という肩書は無し、

 自分たちは力の無い子どもだと。


 二人は溜息を吐いて、息を大きく吸って、また吐き出す。


「わかりました。ただ不安なので誓約という魔法を使ってください。そして、私達が成人して十年たった後も生活できるように、この世界のことを教えてください」

「このディクタチュール国ギルドマスターガーネットが、責任を持って承ろう。ちょうど二人の服と夕飯が来たようだし、話は一旦終わりにしようかね。そういえば二人は何て言う名前なんだい?」

「そういえば聞くのを忘れていたな」

「レオン、お前の報酬から色々引かせてもらうからね」

「すみません」


 「で、お前たちの名前は?」と聞いてくるレオンに、深山と黒田は顔を見合わせ頷く。

 二人とも本名は明かさない方がいいと蜜菓子を食べていた時に話し合っていた。


「私はシロです」

「俺はクロです」


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