第2話 最近流行りのやつですね。
「な、なんじゃこりゃあああああ!!」と声に出さず心と目で叫びをあげている子どもが二人。
深山真白と黒田海斗である。何故身長が縮んでいるのかは謎であるが、二人とも精神年齢が少々高く、場馴れしていたせいか、すぐに現状を理解し始めた。
前には国王らしき人物と姫君であろう女性が一人、周りには複数の騎士とその他大勢。
床には円形の幾何学模様のようなものが何重にも広がり光り輝いている。
漫画や小説、ゲームでもよく見る近世西洋のような部屋の内装。ここはホールかなにかだろう、かなり広い。
そんな場所にいるのは、一之宮天翔、上瀬千尋、畑中梓、滝下美樹、鈴木次郎。黒田が担任として持つ生徒五名と、背が縮んだ担任黒田と深山の計七名。
所謂召喚だろう、しかも異世界召喚。と結論付け、深山と黒田はぶかぶかになった服を何とか着直し、こっそりと耳打ち合う。
「クロ、これって流行りのだよね」
「クラスに主人公ぽいのがいるかと思ってはいたが、多分巻き込まれだな。教師はたまに巻き込まれる」
「それはいいけど、何でまた身長が縮んでるの。謎解きでもすればいいのかこんちくしょう」
「どうするシロ」
「……様子見。私達はどう見ても教師には見えないし、主人公に任せた方が無難」
「了解、子どもらしく振る舞っておくか」
「いいね、演じる役は突然知らない所に連れて来られた『きょうだい』で。手でも握る?」
「手汗酷いのは無視しろよ」と黒田が言い深山と黒田は手を握って、体を寄せ合う。
その間、国王らしき人物は一之宮に向かってベターな台詞を吐いていた。
「おぉ、異世界の勇者とその仲間たちよ! よくぞ召喚に応じてくれた!! 我が名はアドルフ・ディクタチュール!! ディクタチュール国の王である!!」
「勇者よ! 我が国を魔の手から守りたまえ!!」と両手を広げて言う王に対し、状況が掴めていない主人公組は茫然としていたが、一之宮が一歩前にでた。流石主人公である。
「俺は一之宮天翔! 俺達はただの高校生です、勇者ではありません!」
「いいや、お主たち五人の誰かが聖光魔法を使えるはずだ。その者が勇者である! 我が国は一刻の猶予もない。勇者のみが魔を打ち滅ぼせるのだ、我が国を救えるのはお主たちしかいない!!」
「魔……この国はそんなに危機に瀕しているのですか」
「そうだ。先日も我が国の民たちが魔の者によって亡き者にされた……勇者とその仲間たちよ、ディクタチュール国の王として命じる。我が国を、民を守ってくれ!!」
「……わかりました、やりましょう」
王の言葉に頷いた一之宮に対し「どうしてそうなる!?」とツッコミをいれたのは鈴木だけである。他の女子たちは「天翔が言うなら……」「一之宮君が言うなら、私も頑張る!」と決意を表明。
ちなみに深山と黒田は「鈴木が勇者ならまだましだな」とドン引きしていた。
国王の言葉は下から目線のようで、最後には命令になっていた。
何故異世界人に頼むのか、そもそも魔の者とは誰なのか。きちんとした説明がされていないにも程がある。
「では、勇者様がたはこちらへ。魔法属性をお調べいたします」
沈黙していた姫君が主人公組を案内するべく声を上げた。誘導されるがままに五人は着いて行く。
子ども姿の二人も一応ついて行こうとした時、国王が子ども二人にやっと気がつき、顔を歪めた。
「む。その子どもはどこから入ってきた!?」
「陛下、この子ども達は召喚に巻き込まれた『迷い人』では?」
「ふんっ、ならば捨ててこい。子どもはすぐ兵器にならんからな」
「畏まりました」
「なんやて!?」と子ども姿の二人が呆気に取られている間に、国王は去る。
ホールにいた騎士やマントを着た者達もいなくなり、ポツンと子ども姿の二人が残された。
二人を捨てる命令を受けた騎士は「こっちにこい」と二人の手を掴み、無理矢理何処かへと引き連れていく。
詰んだ。と顔を真っ青にしている黒田に対し、奴隷ルートかよ……と半ば諦めて溜息を吐く深山。
そんな二人が連れて行かれたのは、城の中でもまったく飾りっ気のなく大勢が据わるようなテーブルと椅子が置かれた食堂のような場所。その端に二人を座らせた騎士は、近くにいた料理番の男に「何か菓子と飲み物をやってくれないか」と金を渡して「ちょっと待っててくれ、逃げるなよ」と言い、どこかへ行ってしまった。
騎士の言葉にまた呆気に取られていた二人だったが、料理番の男に「蜜菓子は好きか?」と聞かれて我に返った。
「蜜菓子?」
「おう。あとクッキーくらいしか置いてねぇが。ったくレオンの野郎、こんな子どもを連れて何をしたんだか」
「茶も淹れてやるからな、ちょっと待ってろ」と厨房へ向かった男を見送り、二人は溜息を吐き出す。
「どうするシロ。蜜菓子食べて逃げるか?」
「どうしようねぇ……蜜菓子食べてから考えようか」
「……そうだな」と疲れたように頷いた黒田。
厨房から出て来た料理番の男は手に蜜菓子とクッキー、果物を絞ったものであろう飲みものをもってきて「このジュースは新作でな。感想よろしくな」と笑いながら二人の前に出した。
二人とも毒が入っていたらどうしよう。と一瞬悩んだが、ここまで来たらなるようになれ! とジュースを一口。
甘酸っぱいラズベリーのような味、ミントの香りが鼻を抜けていく。美味しい、これ混ぜ物あってもいいや! と深山は勢いよく飲み干した。対して黒田はミントが苦手で思いっきり顔を顰めている。
「嬢ちゃんは気に入ったようだが、坊主は苦手か? 何が駄目だった?」
「ミントが無理」
「あぁ、薬草系が苦手なのか。それじゃあ坊主はラズベリーだけのを作ってやる。ほれ、蜜菓子とクッキーも食え。蜂蜜なんて城でしか食えないぞ」
「うん」と子どもらしく頷いた二人に満足したのか、黒田用の飲み物を作りに再び厨房へと男は向かった。
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