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「一度読んで即先生のファンになりました!これからも頑張ってください!」


「ああ、ありがとう」


「最愛の恋人をなくしてお辛いでしょうけど、頑張ってくださいね。私応援してます!」


「ああ、本当に辛いよ。ありがとう」


「本当に感動しました。これが実際にあった話だなんて信じられないです」


「私も、つくり話だったらどんなにいいと思ったか、分からないよ」


 次々といろんな人と握手をかわし、適当な言葉を述べる。適当と言ってもいい加減なことを言っているわけではない。だからといって、適切な方の適当という意味かと言えば、そういうわけでもないが。


 感謝の気持ちは本当だし。


 恋人を失って辛いのも本当だし。


 つくり話だったらよかったというのも、本当だ。


 だけどこれは。


 俺が願ったことだから。


 そして、君が願ったことだから。


 だから俺は、空っぽの心で、本当に思っていることを言葉にするんだ。


「先生お疲れ様でした」


「本当にな。流石に疲れたよ」


「初めてでこれだけの規模ですからね。相当お疲れでしょう。どうぞ休憩してください」


「そうさせてもらうよ」


「しかし先生のような才能のある方を今まで無下にしてきた出版社の方々の目は、とんだ節穴ですね」


「全くだ。こうなる前に、夢を叶えたかったよ」


「はい?どういうことですか?」


「いや、なんでもないよ」


 一人本を片手に、窓から外を眺める。君が最後に見た風景はどんなものだったのかな。できることなら俺も、一緒に見たかったよ。


 君は、無意味な死を許さなかった。


 だけど、いや、だからこそ。


 人のために、死ねる人だった。


 そんな君に、俺は惹かれた。


 俺だけじゃない。みんな、君に惹かれていた。


 だからみんな、君のために、俺の物語を演じてくれた。


 俺の物語を。


 


 ねえ、詩織。


 俺は君のおかげで、夢を叶えることができたよ。


 


 俺のために死んでくれて、ありがとう。


 俺のために、


 愛していたよ。心の底から。


 恋人である、君のことを。


 もしもう一度君に会うことができたなら、もう一度、この本を君に渡そう。


 内容は同じだけど、でも、一つだけ違うところがある。


 俺の描いた物語の通りに生きる君は。


 本当に、真っ白だった。


 だからこれは、君のために名付けた名前だ。


 何も描けなかった俺の。


 何も描かなかった君の。


「白紙の物語」

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白紙の物語 青葉 千歳 @kiryu0013

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